*8話の神くん視点です


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吉村さんの様子がおかしい。
そう思い始めたのは、毎日頻繁にやりとりしていたメールが彼女から来なくなったことがきっかけだった。最初は都合が悪いのかな、とかそう考えていたけれど、何日もメールが来なくなると、やっぱり寂しかったし、気になった。
学校でも、毎日話していたのに突然話さなくなって、加えていつも元気に笑っていた彼女から笑顔が消えて、元気もなくなっていた。どうしたんだろうと思って理由を聞いてみたけれど答えてくれないし、”元気出してね”と言っても反応がない。
そんな彼女は、今日体育の時間に倒れて保健室へ行ったきり結局放課後まで戻ってこなかった。朝から調子悪そうだったし、やっぱり原因は昨日の雨なのかな。そうだろうな。
そんなことを考えながら、俺は部活へ行くために立ち上がった。頭の中は、さっき休み時間に吉村さんの様子を見に行った時に彼女から言われた言葉と、泣いている悲しそうな彼女の顔でいっぱいだった。


「あ、神。ちょっと待って」


帰りのSHRを終え人も少なくなってきた教室を出ようとすると、突然呼びとめられて振り向くと、そこには吉村さんと仲の良い水沢さんがいた。


「何?」


足をとめて水沢さんの方に向き直り、そう尋ねる。


「神、これから部活?」
「うん。今日は自主練なんだけどね」
「そうなんだ。実はさ、神に頼みたいことがあるんだけど…」
「?うん、何?」


俺に頼みたいこと?どんなことだろうと思って内容を尋ねると、


「部活の前にささっとでいいからさ、これをななに届けてくれないかな?」


水沢さんはそう言ってガサガサと音を立てながら手に持っていたビニール袋とさっきSHRで配られたプリント数枚を俺に見えるようにかかげてみせて、『私が行くつもりだったんだけど都合悪くなっちゃって』と続けた。


「…いいけど、吉村さんはまだ保健室?」
「いや、早退したから家だよ。あ、場所わかんないよね?地図書くわ。ちょっと待ってて」


そう言うと水沢さんはビニール袋とプリントを俺に渡してポケットからメモ帳を取りだし、ボールペンで地図を書き始める。俺は渡されたビニール袋とプリントを持ったまま。チラリを見えたビニール袋の中身は2本のポカリのペットボトルだった。


「はい、じゃあこれ」


びり、と書き終えたメモ帳の1ページを破って、水沢さんは俺にそれを差し出す。俺がその簡潔な地図を見ていると、


「ななによろしくね。…ああ、あと、傘。ななから返しといてって頼まれたんだけど、神の傘、下駄箱んとこの傘立てに置いて来たから」
「ああ、うん。ありがとう」
「いいえー。じゃ、よろしく」


さわやかな笑顔でそう言った水沢さんは俺の脇をすり抜けるとパタパタと廊下を駆けていった。
吉村さんの名前を出されたからついつい引き受けてしまったけれど、果たして俺で大丈夫なのだろうか。どう考えても、最近俺は吉村さんに避けられているのに、家まで行って大丈夫だろうか。そんなことを考えていたからか、目は地図を見ているはずなのに浮かんでくるのはさっきの吉村さんの悲しそうな顔だった。


「…よし」


そう一人気合いを入れるように呟くと、俺は一度自分の席に戻って、地図の書かれたメモ用紙の裏にメッセージを書き込む。それから、そのメモと頼まれた物を持って教室を出た。



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