初めて出会ったあの日から。
バスケが好き、ってそう言って見せたあの笑顔。
ボールを構え放つ時のあの大きな背中に。
ずっと、ずっと、あたしは恋をしていたんだよ。





恋した背中






宗くんが広島から帰って来た。IHの結果はなんと全国2位。それを聞いてあたしは驚かずにはいられなかった。すごい。さすが宗くん!って、あたしが感動していたら宗くんは『俺だけじゃなくて、チームだから』と笑ってた。しかも意識はもう次の冬の大会に向いているようで、毎日練習してる。
夏休みが明け、新学期が始まった。まだまだ暑さが残る9月。部活が終わり、静かになった体育館の中にボールのはずむ音だけが響く。その音の先には、あたしの大好きな背中が見えた。ボールのはずむ音が一度止んで、構えられたボールが放たれる。ボールは吸い込まれるようにリングにおさまった。
やっぱり、すごい。そんな風にあたしが感動していると、宗くんは新しいボールを籠から出しながら、チラリとこっちを見た。あたしと目が合うと、にっこり笑う。不意打ちのその宗くんの笑顔にあたしは思わず赤くなった。宗くんはまたあたしに背中を向けて練習に戻った。
そして再び体育館に響きだすボールのはずむ音。一定のリズムで聞こえるその音を聞きながら、あたしは徐にカメラケースから愛用のカメラを取り出すと、フレーム越しに宗くんの背中を見つめた。
大好きな、背中。
あたしは、ずっと、ずっと、この大きな背中を追いかけてたんだ。ボールのはずむ音が一度止んで、宗くんがボールを構える。そして、ボールを放ったその瞬間、あたしはシャッターを切った。


+++


日が暮れるのがうんと早くなって、夏の暑さが懐かしくなるくらい寒くなった11月。今日も変わらず、部活が終わった後の体育館にはボールのはずむ音だけが響く。一定のリズムで聞こえてくるその音を聞きながらあたしはまっすぐに宗くんの背中を見つめていた。
ブーブー…。
そんな時、突然あたしの制服のポケットの中の携帯が震えた。誰だろう?と、不思議に思いながら携帯を取り出し、開くと画面に新着メール一件と表示されていた。一般メールのフォルダにメールがきているから、メルマガとか、めったにメールが来ないからフォルダ分けしてない人からのメールだと思うけど…。とりあえず見てみよう、とメールを開いた。


「!…宗くん!!」


メールを読んだあたしは慌てて宗くんを呼んだ。ボールを構え、まさにボールを投げようとしていたその瞬間に声をかけられた宗くんはびく、と反応して、そのままのポーズで顔だけこっちに振り返る。『どうしたの?』ってそんな感じの表情であたしを見る宗くんに、あたしは興奮気味で言った。


「写真!入賞だって!!」
「?写真?」
「ほら、前に宗くんに聞いたじゃん。『宗くんをモデルに撮った写真をコンクールに出していい?』って。それ…」
「ああ、それ」


あたしが説明すると、宗くんは納得したように頷いた。
宗くんをモデルにした写真。9月に撮った宗くんの背中の写真のことだけど、実はその写真の出来が自分で言うのもアレなんだけど、すごく良くて、宗くんに許可を得てからコンクールに出していたのだ。締め切りがギリギリだったからちょっとひやひやしてたんだけど、ちゃんと選考対象にされていたらしくて良かった。その上入賞だなんて。


「その写真が入賞したんだ?すごいね」


入賞のお知らせメールが届いた携帯を握りしめたままのあたしに宗くんはそう言って、構えていたボールを一度籠に戻してから体ごとこちらを向いた。


「その写真、どこかに展示されたりしないの?」


宗くんにそう尋ねられて、あたしはもう一度開いたままだったメールをチェックする。展示会場、展示会場…あ、あった。


「…ちょっと遠いけど、今度の土曜日から一ヶ月間だって」
「そっか。時間は?」
「時間?えっとね、午前10時から午後6時」
「じゃ、今度の土曜日に観に行こうか。部活も午前だけだし」


まさかのお誘いにあたしは思わず穴が開きそうなくらいに宗くんを見つめた。


「いいの?一緒に行ってくれるの?」


携帯をぎゅ、と握りしめて宗くんに尋ねると、宗くんは、


「もちろん。俺もななの撮ってくれた写真ちゃんと見たいし」


そう言って、あたしの大好きな笑顔を見せてくれた。
ねえ宗くん。
あたしね、宗くんのその笑顔が大好きだよ。
バスケが好き、ってそう言ってあたしに初めて笑ってくれたあの日から、ずっと、ずっと。
大好きなバスケを頑張る宗くんのその大きな背中が大好きだよ。
初めて会ったあの日、あたしは君に恋をして、それからいろいろなことがあったね。
メアドを交換できてすごく幸せだったり。
席替えで席が離れちゃって残念に思ったり。
宗くんに彼女ができた、って聞いてすごく悲しかったり。
でもそれが誤解だったり。
それから両想いになって、呼び方が『神くん』から『宗くん』に変わった。
初めてのデートの時、交差点の青信号で初めて手を握ったよね。
宗くんの元カノに会って、気まずくなって、あたし、その時宗くんの話聞いてあげなくて、信じてあげられなくて、その時宗くんが初めてあたしに怒った。
もうやだ、って思って辛かった。
でも宗くんも辛かったんだ、ってわかって、話を聞かなかった、信じなかった自分がすごく嫌になったりもした。
あの時は本当にごめんね。
IHは応援に行けなくて悔しかったけど、でも手作りのお守りを宗くんが貰ってくれたから嬉しかったよ。
お見送りの時言ったこと、ちょっと恥ずかしかったけど、本当のことだよ。
あたしはいつでも、大好きなバスケを頑張ってる宗くんを応援してるよ。


あたしは、宗くんに出会ったあの時から、毎日毎日、今も、宗くんに恋してる。


+++


土曜日。
会場に展示された一枚の写真。大きく引き伸ばされたその写真には、今まさにリングに向けてボールを放った瞬間、といった男の子の背中が写されていた。


撮影者 吉村なな
題 恋した背中



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