Christmas that made a reservation.(ノボリ)
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クリスマスシーズンのアクセサリー売場はカップルでごった返す。どのカップルも幸せそうなオーラをこれでもか、というほどに撒き散らしながら、プレゼントを選ぶその姿はとても見ていて微笑ましい…はずだった。
というのも、アクセサリー売場で働いている私は、ここ最近毎日のようにクリスマスムードに浮き足立つカップル達のお買い物のお手伝いをしているからだ。最初の頃こそ、ああもうそんな季節なんだな、とかラブラブで羨ましいな、とか好意的に捉えていたけど、あまりに毎日何組ものラブラブカップルを見るのでなんというかもうお腹一杯です、という感じを通り越して、胸焼けを起こしはじめてしまった。おまけに今自分にクリスマスを一緒に過ごす恋人がいないからなおのこと。
クリスマスなんてまさに恋人達の為にあるようなイベントだというのに、なんで私必死に仕事なんかしちゃってるんだろう。私も彼氏と幸せなクリスマスしたい。というか彼氏欲しい。一年くらい前に以前付き合っていた彼氏と別れてからというものの、毎日仕事仕事で出会いもない。このままじゃクリスマス当日も寂しくおひとり様なんだろうな、なんて凹みながら売り場を行き交うカップル達をぼんやり見つめた。


「すみません」


私がぼんやりカップル達を見つめていると、声をかけられた。お客さんだろう。またラブラブカップルかな、なんて思いながら、その声のした方へ振り向くとそこには綺麗な銀髪で豪く容姿の整った男の人が立っていた。なかなか背も高くてまるでモデルさんのようなその外見に思わずお客さんだという事も忘れ見惚れてしまう。


「…あの?」
「!あ、はい、すみません!何でしょうか?」


見惚れたまま動かない私を不思議に思ったのか、その男の人に窺うように再度声をかけられたことで、私はようやく我に返って返事をする。いくら男前だったからといってお客さんほったらかして見惚れてるなんていけないいけない。
しかし、我に返って改めて見ても、やっぱり凄いイケメンなお兄さんだなあ。あれ?でもなんかこの人どこかで見た事あるような気がする。でもどこでだろう?もし、知り合いだったならこんな男前忘れる筈ないし…。
どこで見たんだろう、なんてそんなことを考えている私を知る由も無い目の前の男の人は、私の問いかけに対し少し言いづらそうに答えた。


「実は、プレゼントを選びたいのですが、このような場所に来たのは初めてのもので…」
「そうでしたか。私で良ければお手伝いしますよ?」
「!是非、お願い致します」


そう言うと、男の人は少し安心した様子でホッと息を吐き出す。こんなイケメンのお兄さんがプレゼント選びとは、やっぱりプレゼントを渡す相手は彼女なのだろうか。まあ、彼女だろうな。何とも思ってない相手にアクセサリーなんて普通贈らないだろうし。
そんな事を考えながら、特に深い意味は無く、ごくごく自然な流れで目の前の男の人に尋ねる。


「彼女にプレゼントですか?」
「い、いえ、まだ、そういった関係では…」


あれ?違った?でも”まだ”って事は、彼女になって欲しい女性ってことかな。


「あ、じゃあ、クリスマスに今日選んだプレゼントを渡して告白、って感じですか?」


これまたごくごく自然な流れで私がそう尋ねると、男の人の顔がほんのり赤くなる。あ、ビンゴ、かな。


「…ええ、まあ、そんなところです」
「わー、素敵!上手くいくと良いですね!」


告白する時に渡すプレゼント選びのお手伝いなんて、なんか責任重大だなあ。まあこんなイケメンのお兄さんが告白するんだったら、何をプレゼントしても上手くいくんだろうけど。振られることの方が想像できない。


「プレゼントにはどのような物をお考えですか?」
「そうですね、ネックレスを贈ろうかと」
「ネックレスですね。トップはどんなものが良いですか?」
「トップ、ですか」
「はい。例えばハートとか、星とか…。もしプレゼントする相手の女性の好みとかが分かれば絞り易いかと思うんですけど…」
「…」
「…」


いざ、プレゼント選びを開始したものの、早々に行き詰まってしまった。イメージが決まっていないようなら相手の女性の好みから絞り込んで行こうかと思ったのだけど、この男の人の様子を見ると、どうもそれも難しそうだ。
さて、どうしたものか、と私が考えていると、黙り込んで考えている様子だった目の前の男の人が口を開く。


「貴女は、どのような物がお好きですか?」
「え?私ですか?」


唐突なその問いかけに、一瞬わけが分からなくて、思わず聞き返してしまった。というか、プレゼントする相手の好みを知りたいのに、なんで私の好みなんか…。


「えっと、私はシンプルな物が好きですね。トップも小ぶりな物が良いです」
「そうですか。ではそれで」
「えっ?」
「?」
「…相手の女性の好みじゃなくて、私の好みで良いんですか?」
「はい」
「…」


私の好みで良いわけがない気がするんだけど、大丈夫なのかな。なんか自信満々だけど。イマイチ納得が出来ないものの、目の前のお客さんが良いというのだからそれを『いやいやいや良くないでしょ』なんて言えないためそのままプレゼント選びを進める。


「えっと、シンプルなデザインな物ですと…これとかどうでしょう?」


あとこれと、これも、と、シンプルなデザインで絞り込んだネックレスをカウンターに並べていく。あまり数を並べても目移りしてしまうから、シンプルなデザインの中でも特に人気のある物を3点選んで見せた。すると、男の人は真剣な表情で私の用意したその3点のネックレスを見比べ、ふと視線をネックレスから私に移すと、ネックレスの一つを指差しながら尋ねた。


「触っても?」
「あ、勿論です。是非、手にとって見てみて下さい」
「ありがとうございます」


確認をとると、男の人は一つのネックレスを手に取り、そして、


「…失礼」


そう言って男の人は何故か手に取ったネックレスを目の前の私の首元近くに持ってきて、ネックレスと私とを交互に見つめた。


「?あの…?」


行動の意味がさっぱりわからなくて困惑している私なんてお構いなしに、男の人は持っていたネックレスを元に戻すと、他のネックレスも同じように私の首元近くに持ってきて見比べる。しばらくそんな動作を繰り返した後、納得した様に頷いた。どうやら決まったようだ。


「お決まりですか?」
「はい。こちらをいただけますか?」


そう言って男の人が指差したのはトップが小さなダイヤモンドが埋め込まれたバーのタイプのネックレスだった。シンプルだけど地味過ぎない、仕事でもプライベートでも合わせ易く大人っぽいそのデザインは、実は私が男の人に選んで見せた3点の中で一番私の好みの物だったりする。


「こちらですか?実は私もこれが一番素敵だなって思ってたんです!まあ、ただの私の好みなんですけどね」


自分イチオシの物が選ばれたことでちょっと嬉しくなった私が、聞かれてもいないのにニコニコそんなことを言うと、男の人も満足そうに笑って言った。


「そうでしたか。それは良かった」
「え?」
「貴女に選んでいただいた3点の中で、こちらが一番貴女にお似合いだったのでこちらに決めたのですが…それを聞いて安心致しました」


え、え?どういうこと?
男の人の言葉の意味を理解しようと必死に脳を回転させている私を尻目に、男の人は高級そうな黒い革の財布から優雅な手つきでクレジットカードを取り出し『支払いはカード一括払いでお願い致します』なんて言いながらどんどん先へいってしまう。わけがわからないまま、男の人からカードを受け取り会計を済ませると、署名を頂く為に伝票とペンを差し出した。男の人はサラサラと慣れた手つきで署名を済ませると、カードとご利用控えを財布にしまった。
そして男の人はたった今お会計を済ませたネックレスを徐に手に取ると、チェーンの留め具を外し、ゆっくりと私の首元へ近づける。そしてそのまま男の人は、突然の事に動けずに居る私にネックレスをはめた。わけがわからないまま私が男の人を見ると、彼は思わず蕩けてしまいそうな程甘い微笑みを浮かべながら私を見つめていた。


「ああ、やっぱり。とても良くお似合いです」
「え、え?あの…えっと、ありがとうございま、す?」


目を細め、うっとりとした様子でそう言った男の人。こんな蕩けそうに甘い眼差しで見つめられることに不慣れな私は恥ずかしさのあまり目をそらす。男の人は私の首元のネックレスに触れながら言葉を続けた。


「受け取って下さいますか?」
「え?私が、ですか!?」
「ええ、勿論です。貴女に贈る為に選んだのですから」


男の人のその言葉に私はハッとした。じゃあ、この男の人がクリスマスにプレゼントを贈って告白する相手っていうのは…。


「実はわたくし、以前貴女に一目お会いした時から貴女をお慕いしておりました」


真っ赤な顔でポカンと見つめている私に、男の人が言う。でも待って。”以前”と言う事はやっぱり、私この人とどこかで会ってるんだ。いつ、どこであったのか。なんかあとちょっとで思い出せそうなのに、なかなか思い出せないもどかしさから、失礼だとは思いながらも私は男の人に尋ねた。


「あの、失礼ですけど、どちらでお会いしましたっけ…?」
「ギアステーションでございます」
「ギアステーション…」


ギアステーションといえば、ポケモンバトルの対戦施設バトルサブウェイで有名な地下鉄駅舎だ。以前私は一度だけそのギアステーションを訪れた事があった。それも、有名なそのバトルサブウェイのシングルトレインに挑戦するために。自分でも初挑戦にしては、なかなか勝ち進めた方だとは思ったけれど、最後の最後でシングルトレインのサブウェイマスターに負けてしまい悔しい思いをしたのを覚えている。いつかリベンジしたいと思っていたが、仕事の忙しさからそんなことはすっかり忘れてしまっていた。
その事を思い出したその次の瞬間、私はようやく目の前の男の人が何者なのかを思い出した。


「あ、あなた、まさか…サブウェイマスターのノボリさん!?」
「はい、いかにも。わたくし、サブウェイマスターのノボリと申します」


あまりにあの黒いコートと制帽のイメージが強かったせいか、全然気付かなかった。まさかプライベートであの制服を来ている筈ないもんね。なんて、一人で納得していると、ノボリさんが言った。


「ところで、貴女のお返事を聞かせて頂けますでしょうか?」
「!い、今ですか?」
「…すぐに、とは申しませんが」


突然話題を先程のノボリさんの告白に戻され、思わずドギマギしてしまう。確かにノボリさんはとてつもなく男前だ。つい先ほどまでのプレゼントを選ぶ様子から考えてもきっと、優しくて素敵な人に違いない。だけど、だからと言ってそれだけでは付き合うかどうするかなんて決められない。それを決めるためには、私はノボリさんのことを知らな過ぎた。
そう考え、私が返事を渋っていると、そんな私の様子に気がついたらしいノボリさんが少し困ったように言った。


「確かに、今すぐ返事が欲しいと言っても、貴女はわたくしのことをよくご存知無いようですし、難しいでしょうね」
「…はい」
「ひとつ、お聞きしても?」
「なんでしょう?」
「12月25日ですが、予定はございますか?」
「いえ、とくには…」
「そうですか」


そう言うと、ノボリさんはそっと私の手を握って言葉を続ける。


「ではその日1日、わたくしと一緒に過ごして頂けませんか?」
「え?」
「わたくしのことをよく知って頂きたいのです。そして、貴女のことも、もっとよく知りたい」


私の手を握るノボリさんのその手の暖かさに、語る声の優しさに、見つめる瞳のまっすぐさに、私の心臓は悲鳴をあげた。


「貴女の1日を私に頂けますか?」


その言葉に頷いた私が、ノボリさんの告白に頷いて返事をするまではそう時間はかからないだろうと思えた。




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Merry Xmas!!
(20131214)
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