「DIOさん、お菓子作ったんです。食べてみてください」
ジャーン!と効果音を口にし、ナマエはDIOの前へ手作り菓子を差し出した。可愛らしく盛り付けられた見た目マドレーヌのそれは出来たてなのだろう、まだ湯気が立っている。
DIOとて菓子は好きだ。だから普段ならば喜ぶところなのであろうが、作った人物が作った人物なので、素直に喜べない。ナマエは超が付く程料理ベタなのだ。
「ナマエ、テロ行為は即刻中心しろ」
「テッテロ行為!?」
失礼な!とナマエは憤慨した。一生懸命作った力作にテロ行為などと不名誉なレッテルを貼られては黙ってはおけない。まあ、そりゃあ今まで作った食べ物でディアボロが生死の縁をさ迷った事はあったが、それはそれ。今回は違うのだ。
「今回のは大丈夫ですって!」
「そうだよ、DIO。私も手伝ったから大丈夫だ」
「何?プッチがか」
助け船、もといプッチのフォローにDIOも「そうか、プッチと一緒なら安全かもしれんな…」と考えを改めた。
ナマエ一人では対殺人兵器だが、親友プッチが手伝ったとなると話は別である。プッチが料理をしているところは今までの付き合いの中でも見たことは無かったが、彼に限って殺人兵器を生み出す様なことは無いだろう。
「…分かった。食べよう」
「良かった!それじゃあDIOさん、あーん」
ナマエに"あーん"をして貰えるのなら、彼女の手料理を食べるのも悪くない、そうDIOは思った。
しかし、ものの数秒でその考えを改めることとなる。
口に入れられたナマエの手作り菓子が噛み締める前に猛威を振るってきたのだ。塩辛い。兎に角塩辛い。
「DIOさん、お味はどうですか?」
「…塩辛い」
「えっ、嘘!?プッチさん、まさか塩と砂糖間違えたんじゃ…!?」
「ハッ!道理で臭いが変だと…!それに、スライスアーモンドの代わりにピーナッツを乗せたのも悪かったのかもしれない」
「あれ塩辛いですもんね!」
いや、『あれ塩辛いですもんね』じゃない。何二人で納得してるんだ。此方は死にそうなんだぞ。
そのころのDIOの口内は大惨事だった。やっとの思いで噛んで飲み込もうとするのだが、中々喉が受け付けてくれない。そして暫く噛んでいる内にセカンドインパクトが襲ってきた。噛めば噛むほど不味いのだ。中はちゃんと火が通っておらず半生だし、時折ダマらしきものにも遭遇する。マドレーヌなのに何故かきな粉の味もした。
早く飲み込んでしまいたいのに飲み込めない。だが、飲み込めたとして今度は胃が受け付けてくれないだろう。
―地獄、間違いなくこれは地獄だ。
向こうでジョナサン・ジョースターが手招きしている…(まだ存命してる筈だが)。
「プ、プッチさんどうしよう!DIOさんが白目剥いてる!!こんな顔初めて見た!」
「DIO!もう良いから吐き出すんだ!…流石に薄力粉が足りないからってきな粉はまずかったか…!」
ああ、道理できな粉の味がすると思った…。だが、問題はそこじゃない。
薄れ行く意識の中でDIOは静かに突っ込んだ。そして理解した。プッチは料理をしなかったのではない。『させて貰えなかった』のだと…。
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プッチは材料を全て用意してもらっていて、それから何々を作れと言われたら作れるけど、材料を自分で用意して作れと言われたら作れない人だと勝手に思い込んでいます。どうしても冷蔵庫の余り物が気になっちゃって、それを必要ないのにぶちこんじゃうタイプ。今回のピーナッツやきな粉もそれ。
夢主は材料用意して貰っても、レシピ見てもどうあがいても失敗します。ある意味天性のものです。
131001
デスクッキング