「暇ですね」
「暇だな」
「暇なのだ」
「静かで結構じゃあないか」
私に助長するかのように口々に暇暇という住人たち。そんな中で吉良さんだけは心なしか嬉しそうだけど。
「ディアボロ、お前一発芸しろ」
「無茶ぶりするな…急に言われてそう簡単に出来るか」
DIOさんとディアボロさんは暇を持て余し気味だ。その内暇だから戯れにディアボロさんを殺す、なんて言い出す前に何か暇を潰せるものを与えなくては…。
変な使命感に囚われたその時、私の中で一つの案が生まれた。
「…そうだ、王様ゲームしましょうよ!大人数だから丁度良いじゃないですか」
「私はパスするよ」
吉良さんは新聞から目を離さずにそう言った。だが、勿論のこと吉良さんも参加して貰わなくては困る。――こんな場合は…。
「吉良さん、王様になれば何でも命令出来るんですよ?1番と2番が皿洗い、みたいに命令出来るんですよ?」
ぴくり、吉良さんの片眉が動いた。
思った通りだ。吉良さんにはこう言ってやれば釣れると思った。
「どうですか、吉良さん。やりませんか、王様ゲーム」
「…仕方ない。ナマエに上手いこと丸められた気がしなくもないが、私も参加するとしよう」
諦めたように息を吐き、吉良さんは新聞を畳んだ。よし、これで吉良さんも参加決定だ。残りの皆は元々乗り気だし、王様ゲームを開始するとしよう。
***
全員くじを引き終わり、定番の「王様だーれだ」という掛け声と共に開始された王様ゲーム。
奇しくも私は王様ではなく、手元には"2"と書かれたくじが有るのみだ。
「―俺だ!やはりこのディアボロが帝王なのだな!」
「今は引きニートクソ虫だがな」
新種の虫っぽくなってる!!
吉良さんの容赦ない言葉にディアボロさんは少し落ち込んでしまったようだ。
「まあまあ。さ、ディアボロさん、気を取り直して命令して下さい」
「そうだな…初っ端から飛ばすのもどうかと思うから軽くいくか…4番取り敢えず全裸。
(どうか4番はナマエでありますように)」
「取り敢えず!!?」
軽いノリで物凄いのぶっこんで来たな!?
私が4番じゃなくて良かったが、4番の人がただただ可哀想だ。
「4番は誰だ?さっさと名乗り出たらどうなんだ。これでは先に進まないではないか」
ヴァレンタインさんが急かす。きっと自分ではないから余裕なのだろうな。
「…チッ、4番は俺だ」
そう言って立ち上がったのはディエゴくん。彼が可哀想な4番だったらしい。4番が分かった瞬間に周囲でブーイングが巻き起こったが、なら急かさなければ良いのにと思ったのは心中に留めておこう。
「ディエゴくん…」
「(クソッ…ディアボロめ。なんて命令をするんだ…ナマエが俺を露出狂かのような目で見ているじゃあないか。違うんだ、ナマエ。俺にそんな趣味はない)」
「(これでディエゴくんが露出狂にならなければ良いけれど…)」
立ち上がったまま黙って服に手をかけたディエゴくんから慌てて目を逸らす。要らぬものが視界に入るのだけは避けたかったから。
衣擦れの音と衣類が畳の上に落ちる音。やがて低いディエゴくんの声が聞こえた。
「…これでいいか」
全裸になったらしいディエゴくん。ディアボロさんのせせら笑いと「良いだろう」とのOKが出たところでゲームは再開された。
またくじを引き、お馴染みの掛け声の後、名乗りをあげたのは――
「アッ!王様私だった!!」
私こと、ナマエだった。
や、やった!二回目にして王様を引き当てるなんて、何て幸先が良いんだろう!
「ええと、じゃあ命令しますね!…ああ、どうしようかな……それじゃあ、3番の人のスタンドを抱き締めさせてください!きゃー!言っちゃったー!」
「(一人で何を盛り上がってるんだ)…3番は私だ」
そう名乗り出てきたのは吉良さん。と言うことは、キラークイーンさんを抱き締められるって事だ。やった、今まで握手しかしたことがなかったから、これはレアだぞ!
「えへ、お手柔らかにお願いします…」
「分かった分かった」
何だか随分と適当にあしらわれている気がするけど、この際関係ない。吉良さんが出したキラークイーンさんの腹筋を締め付ける勢いで抱き付いた。
「かっこいいー!」
厚い胸板に頭をぐりぐりと押し付ける。吉良さんが苦しそうに呻いたけれど、今だけは許して欲しい。だって、私は王様なのだから!
そうやってひたすらぐりぐりしていると、DIOさんが私の肩を掴んで引き剥がしにかかってきた。な、何故だ、DIOさんには迷惑を掛けていないのに…!
「ナマエ、もうその辺で良いだろう。離れろ。少し密着しすぎじゃあないか?」
「DIOさんには迷惑掛けてないし、キラークイーンさんが良いって言ってるんだから良いじゃないですか」
「良いから離れろ」
べりりっと音が鳴りそうな勢いでキラークイーンさんから引き剥がされた。ああっ、私の憧れが!
「DIO、」
「とっとと続きを始めろ」
吉良さんの言葉を遮り、DIOさんは次のゲームを促した。どうしてだかは分からないが、DIOさんはピリピリとしている。今は触らぬ神に祟りなし、だ。あまり刺激しないようにしよう。
そうして、再度同じように全員でくじを引く。
「王様は私か。フン、まあ当然だろうな」
今度の王様はヴァレンタインさんだ。さて、どんな命令が下されるのやら。一国の主である彼ならばまともな命令を下してくれるだろう。ただ、酒が入っている今の状態で冷静な判断が出来ればだの話だが。
「1番、バナナをしゃぶれ。勿論歯は立てるな(今度こそナマエだろう)」
…やっぱり駄目だったか。
「…ヴァレンタインさん、それって…」
「察しが良いな、ナマエ。そうだよ、擬似フェ」
「あーあー!!言わなくて良いです!言わなくて!最低な事だけは理解できましたから!…でも私じゃなくて良かった…!1番の人には悪いですけど…」
「…なに?ナマエではないのか?」
「?、違いますよ?」
瞬間、顔色を青褪めさせたヴァレンタインさん。むしろ青白いを通り越して土気色になっている。
「本当に、ナマエではないのか…?」答えはイエス。私は1番ではない。手元には7番のくじがあるのだから間違いない。では、肝心の1番はと言うと――
「俺だ…」
ディアボロさんだった。
「うっ、お前か。きついものがあるな…」
「何だその反応は!自分が命令しておいて!」
ヴァレンタインさんのあんまりな反応にディアボロさんは怒りを露にした。確かに嗚咽は無いよね。でもきつい。
「誰がお前のバナナをしゃぶる絵面が見たいと言うのだ!?」
「俺だってやりたくはないが仕方あるまい!王様の命令は絶対なのだろう!?」
「いや、例外があっても良いと思うよ!だからディアボロ、バナナを置くんだ!早くしろ!」
ヴァレンタインさんと吉良さんが全力で止めにいったお陰で、今回ばかりは例外が適用されてディアボロさんへの命令は急遽取り止めとなった。
「死人が出るところだったな…」
「どういう意味だそれは」
「そのままの意味だが?」
「ちょっと、二人とも。みっともないから喧嘩は止めてくださいよ。さっさと次いきましょ、次」
ついには喧嘩をおっ始めだしたヴァレンタインさんとディアボロさんを何とか宥め、次のゲームへ進める。
次の王様は吉良さんだった。吉良さんは兼ねてからの希望だった皿洗いをカーズさんに押し付けることに成功(但し一週間だけという期限付きではあるが)。ほくほくと嬉しそうに笑うのだった。
そしてまた王様は違う人物へと移る。今度はディエゴくんだ。未だに全裸のままのディエゴくん(尻尾で股間を隠している)が下した命は「2番と3番が服を交換する」だった。此処は露出度がやたら高い住人ばかりだし、露出の少ない人と衣服を交換させて自分と同じような格好にさせたかったのかもしれない。結論から言うと大成功だった。何せ2番は吉良さん、そして3番はカーズさんだったのだから。
褌一丁になった吉良さんは少し顔を赤らめて、腕を組んだ。
「君はよくこんな格好で居られるな…」
「それが一番戦いに適している。無駄な布もない分動きやすいのだ。それにしても吉良、お前は細いな。窮屈だ」
バリッと嫌な音が鳴り、吉良さんのワイシャツは縦に裂けた。
吉良さんのブランドもののワイシャツが臨終を迎えても尚王様ゲームは続く。
次の王様はプッチさんだった。
「そうだな…では、2番の人が私の頬にキスをしてくれないか」
何て命令をするんだ。誰が男の頬などにキスしたいものか。皆の顔がそう物語っている。
それと同時に自分ではないことへの安堵の表情。
けれど、それもそうだ。だって、2番は私なのだから。
「プッチさん、2番私です。頬っぺたですよね?」
「ああ」
頬っぺたなら別に構わないだろう。今までの命令と比べても遥かにましだし。それにこれはゲーム、謂わばお遊びだ。
「ナマエ、嫌なら断っても良いんだぞ?」
「そうだ。無理にする必要はない。頬とは言え、君の大事なキスだ」
「やめとけよ…な?」
吉良さん、ヴァレンタインさん、ディエゴくんが何故か必死になって止めに入ってくる。頬っぺたくらいなら別に大丈夫ですってば。
―ちゅ。半ばプッチさんの顔に自分の顔を押し付けただけのようになったが、滞りなくキスは完了した。外野が煩い点を除けば(無視だ、無視)。
「…これで良いですか?」
「勿論だとも」
ナマエはキスが上手だな、そう言ってプッチさんは私の頬を撫でた。あれでは顔面をぶつけただけなのだが、誉められて悪い気はしないのでそのまま黙って誉められておこう。
「プッチ…悪ふざけはその変にしておけ。胴体に別れを告げたくなければな…」
「…その物騒なもの仕舞ってくれないか。万が一ナマエが怪我をしたらどうする?」
「フン、このカーズが手元を狂わせると本気で思っているのか?」
「ああ、そうだよ」
何故か輝彩滑刀を出してプッチさんに喧嘩を吹っ掛けるカーズさんに、それを言い値で買うプッチさん。先程からよく喧嘩が勃発しているが、果たして今日は厄日なのだろうか。巻き込まれる此方の身にもなって貰いたいものだ。
「カーズさん、そんな危ないものは仕舞っておいてさっさと王様ゲームの続きやりますよ」
「何故このカーズだけ注意を受けねばならん」
「カーズさんが刃物を所持しているからです。分かったらさっさとくじを引いてください」
「ムウ…」
――次の王様は、再び私だった。
先走りそうになる気持ちを何とか抑えつけ、今度の命令は何にしようかと頭を悩ませる。
スタンドへのお願いはさっきので満足したし、今度は本体である皆の中の誰かにして貰えることにしよう。
「そうですねえ…じゃあ、5番の人、私を肩車してください!憧れてたんですよね、高い目線って!」
「フム、5番は私だな」
そう言って立ち上がったのはDIOさん。よし、相手に不足はない。何てったって190オーバーの長身なのだから。
屈んでくれたDIOさんの肩へディエゴくんに支えられながら乗っかる。DIOさんはまだ立っていないが、この時点でもう視点が高い。
「おお……」
「ナマエ、立ち上がるぞ」
「はぁい」
一気にぐん、と高くなる視界。見えなかったものが見えてくる。例えば電気の傘。こんなにも埃が溜まっていたなんて知らなかった。今度掃除しなきゃ。
「わああ、やっぱり高…」
―ゴンッ。
「ぐえっ」
頭頂部に激しい痛みが走り、目の前で星が散った。
「痛いっ!!」
じんじんと痛みが広がっていく。
状況から察するに我が家の天井に頭頂部を打ち付けたらしい。忘れていた…我が家は天井が高くないってこと。何だか生暖かいものが額からツーと垂れている気がするし、これってまさか鼠の粗相だろうか。ううわ、最悪…。
取り敢えず吉良さんに報告しようと彼を見下ろせば、何故だか血相を変えて私を見上げていた。
「ナマエ!血!」
「へ?またまたぁ…」
こんな時に冗談を言われてもなあと額から垂れるものに触れた。
「……!!?」
赤い。血だった。
天井にぶつけた箇所から血が噴き出したらしい。
当たり前だが王様ゲームは急遽取り止めとなった。
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頂いたネタで書かせて頂きました。鰹武士さん、ネタ提供有難う御座いました!
鰹武士さんが書かれていた夢主からの命令の例えがあまりにも可愛かったので、バッチリ使わせて頂きました。ただ、あまりご褒美状態にはなっておりませんね…。
夢主へのセクハラもバッチリさせて頂きました。嫌なオッサンばかりです。
140219
王様、ご命令を何なりと