(注)夢主が中学生頃の話。
‐‐‐‐‐‐‐‐
「ごめんなさい、だろう?」
「でも私は悪くありませんし…カーズさんが…」
「カーズカーズって君はそうやって他人に罪を擦り付けようとしているが、だが皿を割ったのは君だろう?」
「…そう、ですけど…」
怒ってますと言わんばかりに眉間に皺を寄せて正座をする吉良の前には、背中を丸めて俯き気味に正座をするナマエ。
ナマエがカーズとふざけあっていて、何かの拍子に皿を割ってしまったのが事の発端だった。ナマエはカーズが悪いの一点張りで、彼女からの謝罪の言葉は無い(ちなみにカーズは一目散に逃げ出してしまい、此処には居ない)。
無論吉良とて鬼ではない。たった一言「ごめんなさい」と言われれば許すつもりでいた。しかし、謝罪の言葉一つも無いとなると話は別だ。故に吉良はこうしてナマエに面と向かい説教を垂れるのだった。
「私は君をそんな子に育てた覚えは無いのだけどね」
「そもそも育てられた覚えがありませんし…ちょっと一緒に住んでるからって親気取りされても…。私達、所詮は赤の他人じゃないですか…。て言うか、お皿ならまた買えば済む話ですよね?」
「…なんだと?」
ナマエは難しい年頃に差し掛かっている。子育て経験の無い吉良でもそれくらいは分かっていた。吉良自身彼女の父親代わりになるようにと接してきた。だから"父親"である自分に対する接し方が乱暴になってしまうのだって覚悟していた。何せ反抗期なのだから。
故に少しくらい罵られようが、憎まれ口を叩かれようが、それで彼女の気が収まるのなら構わないとさえ思っていた。だが、今の言葉はどうしても聞き捨てならなかった。
一方ナマエも、今の自分の行き過ぎた発言を省みて「ああ、やってしまった」と自己嫌悪に陥っていた。
よりにもよって自分に一番よくしてくれている吉良に何て事を言ってしまったのだ。自分は一体何様のつもりだ。そう自分を責めては、罪悪感に押し潰されそうになる。
始めから素直に謝っておけば良かった。馬鹿みたいに意地を張って、吉良を困らせたところでどうにかなるものでもない。…いや、今からでも遅くない。謝ってしまおう。そう決心し、ナマエは口を開いた。
「…あの、吉良さん、」
「ナマエ」
謝る前に吉良に名を呼ばれ、ナマエは慌てて「は、はい」と返事をする。
「此処に尻を乗せろ」
「…え…?」
突拍子も無いその言葉にナマエは狼狽した。
突然何を言い出すんだ?此処に尻を乗せろだって?でも、そこは吉良の腿の上じゃあないか…。
「な、何故ですか…」
「あともう一度しか言わない。ここに、尻を、乗せろ」
「そ、それは、いやです…一体何のつもりですか…」
怯えながらも、気丈に振る舞おうとするナマエ。その声は僅かに震えていた。
ナマエがどうしても自分の腿の上に乗らないとなると、あとは強行手段しかない。痺れを切らした吉良は静かに自分のスタンドの名を口にした。
「…キラークイーン。ナマエを押さえ付けろ」
それを聞いた瞬間、ナマエの顔が一気に青ざめた。
「や、やだ、やめて…来ないで…」
しかし必死の抵抗虚しく、キラークイーンに簡単に捕まえられたナマエは、吉良の腿の上に尻を乗せる形で俯せに寝転がされる。頭上には吉良、そして傍らにはキラークイーンが控えており、逃げられないようにと背中を押さえられている。
「き、吉良さん…何するんですか…」
「何って、少し考えれば分かりそうなものだが、本当に分からないのか?お仕置きだよ。聞き分けの悪い子は直接体に教えないとならないからね」
「えっちょ、ひんっ!!」
バチン、何かが破裂したような音が部屋に響いた。
制服のスカートを託し上げられ、下着を露出させたナマエの尻目掛け吉良が手を振り下ろした音だ。
続けて二度、三度と吉良は容赦なく手を振り下ろす。
「やっ…!ひぅっ、やめっ!…い、いたいっ…!吉良さ…っ、ひいっ!も、やめてえぇ!」
ナマエが泣き叫んだところで吉良の手は止まらない。
吉良自身、何故自分がこんなにも怒りを感じているのか分からなかった。高々十数年しか生きていない少女の言葉じゃあないか。それの何処に腹を立てる要素がある。大人の対応として聞き流せば良かったじゃないか。…それなのに、何なのだこの苛つきは。
腕を振り上げては、また振り下ろす。ナマエがどれだけ泣き喚こうが何度も何度もその行為を繰り返した。
「吉良!もうそこまでにしないか!」
いつの間にか帰宅していたプッチに腕を掴まれたところで、漸く吉良は我に返った。眼下には下着では隠せないほどに赤くなってしまったナマエの尻が見えている。
「…プッチ…」
「吉良、何があったのかは知らないが、相手は女の子だ。これは少しやり過ぎじゃあないのか?」
嗚咽を漏らし、しゃくり上げて泣くナマエを認めてから、吉良は自分が何を仕出かしてしまったのかを理解した。
――ナマエに手を上げたのか?私が…?
ナマエの尻たぶを殴打した掌が今さらになってじんじんと痛み出す。
「ナマエ、立てるかい?」
「う、うぇえぇん!!プッチさぁぁん!!」
「よしよし、もう大丈夫だから」
プッチの腕の中で泣き声を上げるナマエ。吉良の心に罪悪感という名の重しがのし掛かった。
「…すまない、ナマエ…わたしは…」
こんなつもりでは無かったんだ…。
吉良がいくら謝罪の言葉を口にしたところで、ナマエが怯えてしまっては最早会話どころでは無かった。
時が解決してくれるのだろうが、当分の間、ナマエは吉良に寄り付かないだろう。それを悟った吉良は深い溜め息を溢した。
***
吉良吉影はほんの数年前の出来事を昨日の事のように思い出していた。
あの時はあれから一、二週間はまともに口も聞いてもらえなかった。此方から話し掛けたとしてもナマエが怯えてしまっていて、まともな会話にならなかったのだ。
だが、それも過去の話。今ではナマエは自分によくなついている方…だと思う。あれから非行の道に走ることもなく、身も心も健全にすくすくと育ったナマエの姿を見ていると、嫌われるだけに思えたあの行為も無駄ではなかったのかな、と思う。
「ふふ…」
思わず漏れた思い出し笑いにナマエが反応を示した。
「あれ?吉良さん、何か良い事ありました?」
「いや、思い出し笑いだよ」
「えー、何思い出してたんですか?教えてくださいよ」
「対したことじゃあないよ。君がまだ反抗期だった頃の思い出だ」
そこまで言われて合点がいったのか、ナマエは申し訳なさそうにああ…と呟いた。
「あの時は私、本当に最低でしたよね。皆に迷惑を掛けっぱなしでした。私が吉良さんの立場なら絶対に家から追い出してましたよ」
「反抗期だからね、あれは仕方の無い事だと思う。大人になる過程として必要なものなのだから」
「…有難う御座います。吉良さん」
「うん?」
「私を見捨てずにここまで育ててくれて。吉良さんが居てくれたからこそ、今の私があると思うんです」
ナマエは言った後に恥ずかしくなったのか、「やっぱり今の忘れてください!」と照れ臭そうに笑った。
結婚式での新婦のスピーチを聞いた親というものはこんな気持ちになるのだろうか。なんとも言えない喜びを噛み締め、吉良はナマエの頭を撫でた。
先程ナマエが放った言葉は生涯忘れる事なく、また記憶の片隅に留めておくのだろう。そうして、また呼び起こしてはこうやって思い出に浸るのだ。
///
数年前のお話という設定ですが、じゃあボス達の年齢はどうなるんだよって話ですがそこはスルーでお願いします。サ◯エさんと一緒と思っていただければ…。
ボス達と仲良くなるには、昨日今日なんて期間じゃあ無理で、やはり数年経たないと駄目だと思うんですよね。何年も一緒にいて、どんどん仲を深めていって…で、今に至るって感じです。
このお話の吉良は自分の気持ちにまだ気付いておらず、何故か夢主の『赤の他人』という言葉に反応したと思われます。心の奥底ではこんなに好きなのに、赤の他人だと!?ってなってぶちギレコースです。
140127
愛のあるお仕置き