「ご馳走様でした」
少女の食後の挨拶に、その場に居た全員が信じられない面持ちで彼女を見た。
あのナマエが御代わりを一度もせず、箸を置いている。これは一大事である。普段ならば、ご飯一杯は最低でも御代わりするというのに。彼女の身に何かあったのだろうか。
「ど、どうしたんだ、ナマエ。気分でも悪いのか。御代わりはもう良いのか?」
いつもは冷静な吉良も動揺を隠せない。何しろこんな出来事は初めてなのだ。
「はい、もういりません」
「私の料理は不味かったか…?」
「あ、いえ!そういう訳では無いんです。ただ、ちょっと太っちゃったからダイエットしようと思って…」
恥ずかしそうに吐き出された言葉は酷く単純なものだった。
ナマエは自分を客観的に見て太ったと言ったが、しかし、吉良達からは太ったようには見えなかった。むしろ、彼女の体重は平均のそれより下回っていた筈だから、太ったという今が最も良いのではとさえ思った。
「明日からご飯も少な目で構いません。お菓子も食べないようにします」
ナマエからの高らかな宣言に、ある男達は口元に笑みを刻んだ。
***
「ナマエ〜、ケーキを買ってきたのだが要らぬかァ〜?」
「…カーズさん、私昨日…」
「ああ、そうだった!ナマエは食べれないのだったなあ?然らば残念だが、俺だけで食べるとしよう。本当に残念だな?ン〜?」
「…………(この野郎…)」
カーズはナマエがダイエット中だと分かっていながら、わざと焚き付けるような真似をしているのだ。
性格悪過ぎる…ナマエは内心憤った。しかし、此処で態度に出してしまえばカーズの思う壺だ。これ以上彼を付け上がらせるのだけは、是が非でも避けねばならなかった。
「有難う御座います、カーズさん。お気持ちだけで嬉しいです」
「……なに」
てっきり怒り狂うと思っていたのに、存外冷静なナマエの反応にカーズは完全に肩透かしを食らった。
「良いのか、目の前で食べても」
「はい、どうぞどうぞ。私も痩せてから目一杯食べることにしますから」
怒るどころか爽やかな笑みを浮かべるナマエ。その反応にカーズの方が不機嫌になった。
そこへ、上機嫌な様子のDIOもやって来る。手にはカーズ同様ケーキの箱を持って。
「ナマエ〜ケーキを買ったのだ、が…何だ、カーズの方が早かったか」
「お前もか…」
DIOもカーズと考えている事は同じだったらしい。ナマエの目の前でケーキを食べ、彼女をからかおうという腹であった。しかし、それに動じるナマエではなかった。「お二人とも同時にケーキを買ってくるなんて、そんなに食べたかったんですね」と軽く笑ってのけたのだ。
カーズとDIOは思わず顔を見合わせる。こんな筈では無かったのだ。ナマエの悔しがる姿を目に納めたかったのに。と、同時に怒りが沸々と沸いてきた。ナマエの分際で生意気だ、と明らかに逆恨みではあるが。
「カーズ…」
「うむ、」
DIOの言わんとしている事柄を察し、カーズは頷いた。
何だ何だと戸惑うナマエの背後へ周り、彼女を抱き上げて自身の膝の上に乗せてからがっちりホールドする。これでもう逃げられない。
「か、カーズさん!?何するんです!?」
「ナマエ、お前のその態度が気に入らないのだ」
「はぁぁ!?」
これには先程まで怒りを微塵も見せなかったナマエも怒りを露にした。
人で遊ぼうとしておいて、今度は態度が気に入らない?ふざけるな!
「それって勝手すぎま…うぶっ!?」
一言文句を言ってやろうとしたナマエの口に何かが突っ込まれる。突っ込んだ犯人は、眼前でニタニタと悪どい笑みを浮かべるDIOである。手元を見ると、手掴みでケーキが握られていた。と言うことは、この口の中の甘味は、まさかのまさかだろうか。
「うっ、これケーキ…?」
「どうだ?美味いだろう?もっと食べたくなったか?」
「いらな…ぐっ!」
最初からナマエの意見など聞くつもりは無かったらしい。またもやケーキを無理矢理口に突っ込まれる。しかもあまりにも乱雑にされたものだから、顔中にクリームやスポンジがべっとりと付着してしまった。鼻孔にも生クリームが侵入して来て、あまりの不快感に生理的な涙がじわじわと溢れてくる。
「残さず食えよ。私が直々に買ってきてやったのだ。こんな時はどう言うんだったかな?」
「お礼なんて言いませんよ、頼んでませんし…!」
「まだそんな口を利くのか。そこは素直に『有難う御座います』ではないのか?」
「ぐっ…」
DIOとカーズから交互に詰られ、ナマエの怒りは最高潮に達していた。吉良さんが帰ってきたら絶対に爆破して貰うんだから!と、恨み言を心中で繰り返す。自分では万が一にも勝ち目はない為、吉良頼みである。
カーズの舌がナマエの頬をゆっくりと這って、生クリームを絡め取っていく。その何とも言えない感覚に、背筋にゾクッとしたものが走った。
「ひぁっ…」
「ンン〜?何だ今の声は?もしかして感じているのか?ナマエはえらく感じやすいのだなア?」
小さく漏れた甘い声を耳聡く聞いていたカーズは愉しそうに喉を鳴らす。
「ちっ違います!これはちょっと吃驚しただけで…!」
「ほう。まだそんな口を利けるのか。ならばこれはどうかな?」
そう言ったかと思えば、DIOはナマエの服を託し上げて剥き出しになった腹にケーキを擦り付けた。
「んん…っ!」
「感じていないにしては随分と可愛い声を出すじゃあないか?」
「〜〜っ!(気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪いっ!!)」
生クリームやスポンジを腹に塗りたくられるという初めての経験に身悶える。気持ちが悪い。こんなもの不快でしかない。何でも良いから早く拭ってほしい。
そのナマエの切実な願いが通じたのか、DIOはナマエの腹に付着したケーキだった塊を拭い取りに掛かった。但し、舌でだが。
「ひぃっ…!?や、やだやだっ!」
顔中をカーズに舐められ、そして腹はDIOに舐められ。二人からの愛撫にも似たねっとりとした舌使いにナマエは体をくねらせた。
「…ナマエ、お前は太ったと言っていたが、その様な事は無い。むしろこのくらいが丁度良い。このDIOが言うのだ。間違いない」
腹に舌を這わせながらフォローされたって嬉しくない!それよりさっさとこの行為をやめろよ馬鹿!
ナマエは強く願ったが、ケーキが無くなるまでその行為は続いた。その頃にはナマエはすっかり息も絶え絶えで、腰砕けになっているのだった。
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ケーキプレイです。
SSの方にちらっと書いた、書きたかったネタと違う出来になりましたが、これはこれで満足しております。
その後は勿論体重が増えてました。そしてまたダイエット宣言して同じ目に合うと思われます。無限ループって怖い。
131110
甘いものは与えないで下さい