一方その頃のカーズは――。
「ねえ、ナマエ〜。安くて可愛いのがいっぱい売ってる古着屋さん見付けたから帰りに行かない?」
「アー…ごめんね。実は今日、家の方手伝わないといけなくなっちゃって…」
「ああ、そういえば遠い親戚のオジサン達と暮らしてるんだっけ?そりゃあ大変だわ。じゃあまた今度にするかあ」
「うん、来週くらいなら都合良いかも(誰が親戚のオジサンだ)」
「じゃあまたLINEするね」
「うん(LINEって何なのだ)」
それなりに初めての女子高生生活を謳歌していた。
授業もしっかりと受け、しかも中身が知能の高いカーズと来れば、教師に当てられたとしても、抜き打ちで小テストが合ったとしても、間違うことなくすらすらと答えられる。普段のナマエではあり得ない事だ。友人並びに教師に変な物でも食べたのかと心配される程であった。
そうして授業、昼休み、また授業と時間が過ぎていき、あっという間に下校時間。良い暇潰しにはなったな、とカーズも大変ご満悦な様子である。
さて、友人の誘いも断ったのだし、早々に帰宅するかと正門を目指すカーズ。寄り道しようものならナマエが煩いのは分かっていたからである。
回りの人間など気にも止めずに肩をぶつけるという迷惑行為を繰り返しつつ、風を切って歩を進めていく。しかし、思わぬ邪魔が入った。
「ナマエちゃん、ちょっと良い?」
「…何だ貴様ァ…」
見知らぬ男子生徒がカーズの前に立ち塞がったのだ。カーズは眉根に皺を寄せ、思い切り男を睨み付けた。
***
誰であろうと必ず此処を通るからと、正門の前で張り込むことにした私達。
ターバンの上に帽子、顔にはでかでかとしたサングラス、そして極めつけにロングコート姿の出で立ちの私と、傍らにはサラリーマン。この異様な二人組を生徒たちは遠巻きに見物している。目立ちたくない吉良さんにとっては拷問に違いない。その証拠に先程から爪先で地面を蹴りまくっている。それを申し訳無いと思うものの、彼を解放する気は更々無く。
何とか奇異の視線に耐える事数分。
不意に「…何だ貴様ァ…」という聞き馴染みのある声が聞こえた。
あの声は紛れもなく私の声だ!(何時もより数倍低くて機嫌が悪そうだけど)と言うことは、この近くに居るのだろうか。
逸る気持ちを抑え、正門から学校の敷地内を覗く。
…居た!
「カーズさ…違った、ナマエー!」
駆け寄ろうとしてはたと気が付いた。カーズさんが男子生徒に話し掛けられている。
しかも、あの男子生徒のモジモジと恥ずかしそうな感じは…おい、まさか…。
「う、うわあああああ告白されてるうううう!!!」
「なにッ」
吉良さんも私を押し退け、カーズさんと男子生徒を見た。そして口をポカンと開けて制止した。吉良さんのこんな顔は始めて見る。実に新鮮だ。
…なんて言ってる場合ではなかった!
ななななんて事だ…!こんな事あっても良いのか!いいや良くない!!よくよく見れば、あの男子生徒は隣のクラスの佐藤くんじゃあないか!たまに喋る程度だったが、そんな、まさか私に好意を抱いていたなんて!でも、何も今日告白しなくても…!
「ナマエ、君はよく告白されるのか…?」
「まさか!あれが高校初めてですよ!!ああもう!信じられない!佐藤くん、君が告白してるのおっさんだよ!!」
「ナマエ、今は君がおっさんだ」
私の青春が音を立てて崩れていく。
何もかもがおしまいだ。
もう、ダメ。耐えられない。
「吉良さん!私、ちょっと行ってきます!」
「えっ」
吉良さんを一人残し、私は二人の元へと走り寄った。
「ちょっと、そこの君!!」
「ヒッ、なんですか!?」
「ム、ナマエか」
突然現れた体躯の良い男に佐藤くんは怯えてしまっている。そりゃあそうだろうな。だって上から下まで怪しい人間に声をかけられたのだから。私だってカーズさんだって分からなければ警察に通報するだろう。
だが、今はそんな事どうだって良い。何とかして告白を後日に延期して貰わなくては…!それが最優先事項なのだから!
「ええと、告白する相手が違うと思います!」
「…はぁ…?」
「良いですか!此処に居るのはナマエであってナマエでない人間なの!だから、告白するならもうちょっと後にして欲しいんです!そう、明日くらいに!」
佐藤くんは唖然としている。しかし次の瞬間には合点がいったと言わんばかりの顔をして、こう言った。
「…もしかしてナマエちゃんの恋人なんですか…」
どうしてそうなる!?
「え!?いやいや!違…っ」
「そおうだッ!なあ…カーズ?そうだろう?」
そうだよなア〜?
便乗するカーズさんにガシイッ!と腰を掴まれる。
おい馬鹿やめろ!それだと私のイメージが肉食系女子みたいになるだろうが!!私はそこまで恋だの愛だのにがっついていないのに!
「さっ、佐藤くん、これは違うの!誤解なの!」
「誤解なものか。この私、ナマエとこの男は付き合っている。所謂アベックよ」
その言い方久し振りに聞いた!!
「やっぱり…」
「やっぱりって今ので騙されるの佐藤くん!? 」
佐藤くんは最後に汚いものを見るかのような一瞥をくれた後、そそくさと帰宅してしまった。当たり前だが、引き止めても無視された。
「ああ、そんな…!私の青春が…!ちょっと、カーズさん!どういうつもりなんですか!!?」
「ナマエに恋愛はまだ早い。それだけだ」
「それだけって…!私はもう子供じゃないんですよ!?恋愛の一つや二つくらい…!」
「フン、下らんなア。お前は俺だけを見ていれば良いのだ。分かったらさっさと帰るぞ」
「ああぁ…私の青春があ…」
泣きたい気持ちを何とか堪え、カーズさんに引き摺られながら学校を後にした。
***
「…ナマエ、一つ聞いておきたいんだが」
帰宅する道すがら吉良さんが言う。
「…はあ、何ですか?」
「君はあの告白してきた男にOKと返事をするつもりだったのか?」
「まさかあ」
「それにしては告白を喜んでいたようだが」
「そりゃあ好意を持たれて嫌な人間なんて居ないでしょう。でも、それはそれ、これはこれです。付き合うかどうかは別ですね。…まあ、誰かさんのせいでこの高校生活で好意を持たれる事も無くなるんでしょうけどね」
誰かさん=カーズさんはフンと鼻を鳴らし、先頭に立ってずんずん歩いていく。私の足取りは凄く重いというのに、何なのだろうこの差は。
ちなみに、一晩明けると私達の体は元通りになっていた。しかし体は戻っても、時間は元に戻らない訳で。
翌日学校へ行くと、原型が何かも分からないくらいの尾ひれが付いて、『実は妊娠してる』なんて噂が流れており担任に呼び出されてしまった。必死で弁明してやっと真っ赤な嘘だと分かって貰えたが、友人にまで「あんた妊娠してるんだって!?」と攻め寄られてもう泣きたいやら怒りたいやら、いっそ笑い出したいやら。
取り敢えず転校したい。そう強く願わずにはいられなかった。
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以外と順応してるカーズと青春が失われつつある夢主。きっとあの後何とか誤解を解いて青春を再び謳歌出来ると思います。
告白は初めてだと言う夢主ですが、モテるのかモテないのかはご想像にお任せします。カーズの告白をさらっとスルーするくらいなので、それなりに経験が有るのかもしれない。
佐藤くんってほんと誰だろうね?
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