目が覚めると、イケメンになってました。
「…何処からどう見てもカーズさんだ…イケメン…」
自分の喉から出る低い男性の声にとてつもない違和感を覚えた午前7時。
上述の通り、私は何故かイケメンこと、カーズさんになっておりました。
理由は分からない。変なものを食べた覚えも、スタンドに攻撃された覚えもない(私はスタンド使いじゃないし)。朝起きると何故かこうなっていたのだ。
では、私がカーズさんということは、カーズさんはどうなっているのかと言うと…
「貧相な体だ」
私になっているのでした。
しかし貧相な体とは随分と失礼な言い種だ。これでも出るところはちゃんと出ていると思うのだが。
「しかし、分からないな。何故体が入れ替わったんだ?」
「スタンド攻撃では無さそうだが…」
吉良さんとプッチさんが分からないな、と首を傾げる。彼らに影響が無いということは、更にスタンド攻撃の可能性は薄れた訳だ。
「それにしても、何と言うか…カーズさんのこの格好って恥ずかしいですね…。お尻、見えてません?」
千切れるんじゃないかというくらい褌を下へ下へと引っ張る。体は男でも心は歴とした女なので、褌一丁も上半身を晒すのにも抵抗を感じるのだ。どうしてカーズさんは平気なのだろう。さては露出して興奮する部類の人か。
「ナマエ…あまりカーズの体でモジモジしないでくれないか。目障りだ」
「そっそこまで言わなくても…!」
「喋り方もどうにかしてくれ。気持ち悪い」
「プッチさんまで…!」
「手で胸を隠すな。醜い」
「う、うわあああぁぁん!!」
ディエゴくん、プッチさん、ディアボロさんの順に暴言を浴びせられ、私のメンタルはズタズタだ。多感な時期になんて最悪な経験なんだ…!
「貴様ら、このカーズの体を何だと思っているのだ!気持ち悪いだの、醜いだのと抜かしおって!!」
「うわあああ、カーズさんやめて!私の体死んじゃう!!」
カーズさんは私と違って、暴言を吐かれたことにより怒り心頭らしい。腕捲りをし、今にもディエゴくんに飛び掛からん勢いだ。だが、待って欲しい。今、彼は私の体を使っているのだ。そのままディエゴくんに喧嘩を売ったところでズタボロにされるのは目に見えている。
「落ち着いて下さい!カーズさんの体と違って、私の体はデリケートなんですからね!お願いですから雑に扱わないで下さい!」
「大丈夫だろう。腕の一本や二本もげたところで」
「大丈夫な訳あるかい!!」
カーズさんは人の体を何だと思っているのだろう。私はカーズさんとは違い千切れたらそこでお終いなのに!
「ナマエ、話の腰を折って悪いが…」
「何ですか、ディアボロさん」
「その座り方止めてくれないか」
「え?でも、何時も通りですけど」
「だからだ」
ディアボロさんに言われ、改めて自分の足を見る。至って普通。足を崩しているだけだ。
彼の言わんとしている事が理解出来ず、頭の中を疑問符が埋め始めた頃、ディエゴくんが助け船を出してくれた。
「ディアボロは女っぽいから止めろって言いたいんだよ。カーズの体でやられるのはどうにも気持ちが悪いからな」
「ああ、成る程!じゃあどう座れば良いですか?」
私の問いかけに答えてくれたのは吉良さんだ。「胡座でも掻いておけば良い」とズバッと一言。
「ええー胡座はちょっと…。だって、見えちゃうかもしれないじゃないですか。…それとも、見たいんですか?」
吉良さんのえっち。…と、冗談のつもりで言ったのに、吉良さんのお気に召さなかったらしい。キラークイーンさんを出して私の腕をガシリと掴み、こう叫んだ。
「キラークイーン!第一の爆弾ッ!!」
「あわわわわ…」
「おいやめろって!今はナマエだから!!カーズじゃないから!!」
「いいや!ナマエだろうが、体はカーズだ。爆破したところで死なないだろう!」
「すすすすみません!!冗談ですから!ほんっとすみません!もう言いませんから!!」
ディエゴくんが何とか吉良さんを宥めてくれて事なきを得たが、一瞬、本気で爆破されるかと思った…。まだ心臓がバクバク言っている。ちょっと見た目がカーズさんだからってこの扱いは酷くないか…。 何時元に戻るのか分からないのに、もう既にめげそうだ…。
「そういえば、ナマエ。学校へは行かなくて良いのか?」
「…あ、」
すっかり忘れていた。
プッチさんに言われなければずっと気付かなかったに違いない。
そうだ、私はこの為にこんな朝早くに起きたのだった。私は学生なのだし、学生の本分を全うしてちゃんと学校へ行かなくてはならない。
だが、状況が状況だし、とてもじゃないが今はそんな場合ではなく。学校にカーズさんの体の私が行く訳にもいかないし、かと言って私の体をしたカーズさんが行くというのもあまり良策とは言えない。その内ボロが出てしまう可能性があるからだ。
何れにせよこの不可解極まりない状況を打破する迄は、登校は避けるべきだろう。
「…カーズさん、今日はお休みしましょう」
私が電話しますからと携帯を取り出せば、カーズさんは静かに「嫌だ」と首を横に振った。
「い、嫌って何言ってるんですか!?今どんな状況か分かってます!?」
「このカーズ、学校というものに前々から興味があったのだ。なに、心配するな。怪しまれる行動はしないと誓う」
「でも…!」
「ええいッくどいぞッ!俺が行くと言ったのだから行くのだ!ナマエ、お前は大人しく留守番していろ!!」
目の前に居るのは自分の筈なのに、どうしてこうも怖いんだ。私、こんな鬼みたいな顔出来たのか…。
結局そのまま押し切られて、渋々自分自身を送り出す羽目になった。
「吉良さん…本当に大丈夫だと思いますか?」
「どうだろうな。だが、カーズも馬鹿じゃあない。信じて待つしか無いだろう。…それとナマエ、カーズの顔で泣かれると爆破したくなるから止めてくれないか」
「う、うわあああああん!!」
***
ソワソワ、ソワソワ。
カーズさんを送り出してから数時間が経過しているが、どうも落ち着かない。
今頃どうしているのだろう。宣言通り怪しい事はせず大人しくしているのだろうか。まさか人は殺していないだろうな。考え出したら切りがなく、マイナス方面へと考えが傾く。
「カーズ…いや、ナマエ。鬱陶しい」
本日お仕事がお休みの吉良さんが読書の傍ら睨み付けてきた。
「す、すみません…。でも気になっちゃって…」
「なら見に行けば良いじゃあないか。もう下校時間だ」
「えっ」
嘘、もうそんなに時間が経っていたの!?慌てて時計を見れば、確かに下校時間を過ぎている。考えに没頭し過ぎて、気づかぬうちにまた時間が経過していたようだ。
ここはやはりカーズさんを迎えに行くべきなのだろうが、しかし一人では心許ない。なので。
「吉良さん、一人じゃ不安です…。着いてきて下さい…」
「一人で行くんだ」
「お願いします」
「断る」
うう、カーズさんの体になってから吉良さんがあり得ないほど冷たい…。
それでも何とか吉良さんの説得に成功し、私達二人で高校へ向かうことになった。
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頂いたネタで書かせて頂きました。ネタ提供有難うございました!
書きたいこと詰め込んだら予想以上に長くなってしまったので、分割しました。ちょっと欲張りすぎました。続きは後日。
ボス達が、モジモジする夢主(体はカーズ)を見てウワァ…ってなるという素敵なネタを頂いたので、この場面は生き生きと書かせて頂きました。ヒロインらしからぬヒロインって良いと思います。ウワァ…というよりイラァ…だけど!
131025
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