「っ、」
短く息を呑む音。それは私の隣に腰を下ろしていたプッチさんから聞こえたものだった。何事かとそちらを向けば、どうやら読んでいた本で指を切ってしまったらしい。親指から赤が滲んでいる。
「プッチさん、大丈夫ですか?深く切ったんじゃ…」
「ああいや、大丈夫…」
口では平気だと言いながらも存外深く切ったらしい傷口からは血が溢れ出している。どちらにせよ手当てをしなければ菌が入り込んでしまうのは必至だ。
「私、救急箱取ってきます。ちゃんと消毒しなきゃ」
しかし立ち上がった私の腕をプッチさんに瞬時に掴まれ、そしてまた畳へと逆戻り。
「…プッチさん?」
「ナマエ、君が舐めて消毒してくれないか?」
「…えっ」
いやいや、こんな時に何でそんな冗談を?
プッチさんを見上げれば、返ってくるのは熱望の眼差し。えっ本気なの。
「さあ早く」
「いや、早くって、衛生的にそういうのはちょっと…うぐっ!?」
問答無用で指を口内に突っ込まれた。
口腔一杯に広がる他人の鉄の味に思わず顔を顰める。不快感。今すぐ胃の中のものごと(いやむしろ胃を)吐き出したい気分だ。
「うぅ、」
「舐めて」
「んんんー!」
プッチさんの指が舌を撫でる。頬の粘膜を爪で引っ掛かれ、歯列をなぞられ、そして喉奥ギリギリまで指を突っ込まれる。そうやって口内を蹂躙され続け、飲み込みきれなかった唾液が顎を、不快感と恐怖から来る涙が頬を伝った。
プッチさんの腕を離そうと抵抗してみるものの、成人男性の力に勝てる筈も無く。ただプッチさんの手に己の手を添えるだけの形になってしまった。
「消毒してくれないのか?君が自主的に舐めてくれないと意味がない」
「っ、」
「ほら」
親指の腹で優しく涙を拭ってくれながらも、有無を言わさぬ眼で射抜かれ、恐る恐る指に舌を這わせる。傷口をペロリと一舐めすると、プッチさんは恍惚とした表情で「良いぞ、ナマエ…」と褒めてくれた。全然嬉しくない賛辞はこれが初めてだ。
「口に含んで飴を舐めるみたいに舐めてくれないか?」
「…へ、へんはい」
「変態?いや、君以上の変態は居ないと思うが?涙を流しながら人の指を舐めるなんてどうかしていると思うよ」
「……(神父クビになれば良いのに)」
言われてみれば、確かに端から見れば私の方が変態臭い。だが、これはプッチさんに言われているからしているだけの何ら生産性の無い行為である。つまり脅されているからやっているだけだ。…と、脳内で言い訳したところで何かが変わるでも無く。
ぐずっと鼻を鳴らし、プッチさんに言われた通りに舌を這わせた。
その後も吸って欲しいだの、舌を出したまま舐めてくれだの、どう考えても消毒目的ではない注文が続いた。
どんどんエスカレートする注文(と言うよりも命令に近い)に納得が出来なくなり、このままだとどうしても癪だったから、せめてもの仕返しに傷口に歯を立ててやった。プッチさんが痛みで顔を歪ませたけれど、可哀想な子羊を泣かせたのだ。これくらいの罰は受けて当然である。
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こんなプッチは神父を辞めるべき。
でも協会の神父が性犯罪犯すのって結構有るみたいですし、プッチも例外じゃないかなって。プッチって中々鬼畜っぽいし。
荒木荘の皆さんは夢主を変態扱いしたいようですが、どう見ても、ボス達の方が救いようのない変態です。
131020
神は見ておらぬ