今日は朝早くからディエゴくんと登山にやって来た。お日柄も良く晴天にも恵まれ、絶好の登山日和だ。
お弁当も持参して(ディエゴくんが作ってくれた。私も手伝おうとしたら本気で拒否された。見たことも無い顔だった)、ハイキングウェアやバックパック、トレッキングシューズも友達に借りて、準備は万端。行きは電車の中でたっぷり寝たから、体調も万全だ。
電車に揺られる事数時間、漸くお目当ての山に着き、私達は意気揚々と登山を開始した。まあ、あとは登っていくだけなので、ここら辺は割愛。
ハプニングが有りつつも、ついに山頂へ辿り着けた時は本当に感動した。景色も言葉では言い表せれないくらい綺麗だったし、山頂で食べるお弁当のまた格別なこと。来れなかった皆にと、写メも撮りまくった。取り敢えずはしゃいだ。ディエゴくんに「此所から家見えるかな?」と聞くと「見えるわけないだろ」と正論を言われたので萎えたりもした。それでも楽しかった。
さて、山の頂も満喫し終わって、日が暮れる前にさっさと下山しようと登山道を下る事にした私達。途中、ディエゴくんが登山道を外れ「あっちへ行ってみようぜ」とふざけた事を抜かす。最初はそれは不味いんじゃあ…と拒否していたが、結局は好奇心に負けてしまい、気付けば私も首を縦に振っていた。
そんな訳でズンズン山奥深くへ入っていくディエゴくん。私は、まあディエゴくんに任せておけば大丈夫だろうなっていう全幅の信頼を寄せて、 ただ後を着いていった。
で、遭難した。
「…私が馬鹿だった」
「今更何言ってんだ」
「私があの時止めていればこんな事にはならなかった筈なのに…」
「ナマエも乗り気だっただろ。ほら、食べれそうな茸と野草取ってきたから食えよ」
「私羊じゃない…」
この呟きは無視された。
日も等の昔に暮れて、これ以上歩き回るのは危険だということで、今日は此処で野宿となった。地面にレジャーシートを敷き、肩を寄せあって座る。少し狭いが贅沢は言えない。
ディエゴくんが持参したガスバーナーで茸を炙り、水を張ったコッヘルに草をぶこんでいく。そしてガスバーナーを当て、煮たたせてから味噌を溶き入れるという一連の作業をただ呆然と眺めて、ああ、今日の夕飯は見たこともない草が入った味噌汁か…と落ち込んだ。
非常食が残っていれば…。あれさえ残していればよく分からない夕飯を食べる羽目にはならなかったのに…!だが悲しいかな、非常食は先程二人で分けて食べてしまった(おやつに)。美味しかった。
「私は羊…私は羊…」
「嫌なら食うなよ。腹が減っても俺は知らないが」
「草大好き!!」
もっしゃもっしゃと味噌汁に入れられた草を食む。何だろう、この感じ…自然を食べてる。
「草の味がする」
「だろうな」
何とか質素な夕飯を食べ終わり、このまま起きていても仕方がないということで、では就寝するかという話になったのだが…。
「…寒い」
やはり此処は山。我が家のようにはいかなかった。色々着込んではいるものの、これだけでは足りなかったらしい。
「…寒いなら俺にもっとくっ付けよ」
「え、でもいいの…?」
「ああ、良いから来い。ほら、」
ディエゴくんに腕を引かれ、気付けば彼の腕の中。逞しい腕に抱かれて、ディエゴくんの体温を間近で感じ取り、身も心も満たされた気分だ。
「…ディエゴくん、暖かいね」
「ナマエもな」
二人で体温を分け合う。
凄い…私達今物凄くサバイバルしてる…。
「今頃、吉良さん達どうしてるかなあ…」
「俺たちの事心配してるだろうな。もう救助隊にも連絡してたりして」
「や、それは無いでしょ」
「あいつらいやに心配性だから分からないぜ」
「じゃあ帰ったら謝らないとね」
「そうだな」
眠くて半分しか開いていない眼で夜空を見上げる。綺麗な星空が見えるかと期待したが、予想を裏切り生い茂った木々が見えるだけだった。
「此処なら星見えるかなあとか思ってたけど全然だね」
「木々が生い茂ってるからな」
「伐採しよう」
「…ナマエ、寝惚けてるのか?」
「うん」
「じゃあ寝ろよ」
「寝ても死なない?」
「死にそうになったら起こしてやるから」
「じゃあ安心だね」
欠伸を噛み殺し、ディエゴくんの胸に顔を埋める。嗅ぎ慣れた彼の匂いを肺一杯に吸い込むと、気持ちが安らいだ。うん、これなら安眠出来そうだ。
「…ナマエ?」
「………」
「寝たのか?」
「………」
「……君が寝ている間にこんな事を言うのは卑怯だって分かってはいるが…二人きりになれるのなんて今日くらいだからな…。だから、言わせてくれ。……この前ナマエのプリン食ったの俺だ。……おやすみ」
***
「…ん、」
気付けば一夜が明けていた。身体中が痛い。筋肉痛だ。もっと運動しなくては…。あの吉良さんですら最近は筋トレしているのだし…。
そういえばディエゴくんは?と隣を見るともぬけの殻で、では彼は何処に居るのかと言うと、いそいそと朝御飯の準備をしていた。…また草か…。
「おはよ、ディエゴくん」
「…ああ。……なあ、ナマエ」
「うん?」
「昨日、俺が言ったこと聞いてなかったよな?」
「何の事?」
「いや…聞いてなかったら良いんだ」
「?」
何だろう、変なディエゴくん。
何とか朝御飯の草も胃に押し込み、さて出発だ。
昨夜お世話になったレジャーシートをバックパックに詰め込む。…あ、非常食のクッキーまだ残ってた。あとでこっそり食べよう。
「ナマエ、行くぞ」
そう言って歩き出したディエゴくんが向かったのは、下ではなく上。つまり、麓ではなく山頂。下山するのに登山とは矛盾しているが何のつもりだろう?
「え、でもそっち山頂だよ?」
「此方で良いんだよ。山頂は麓と違って登るにつれて行動範囲も狭くなるし、登山道も見付かりやすい。それに他の登山客が居る可能性だってある。だから、このまま山を下るよりも助かる可能性が遥かに高い」
「へえ〜…」
「君、俺が居なかったら死んでいたな」
「返す言葉も御座いません…」
本当にディエゴくんが居てくれて良かった。まあ遭難した元凶も彼なのだけど。
***
痛む体に鞭を打ち、歩き続ける事数十分。
奇跡的にこの短時間で登山道に辿り着けた。その時の喜びは今年一番だと言っても過言ではない。あまりにも嬉しくてディエゴくんと抱き合って喜びを分かち合った程だ。通りがかった登山客には変な目で見られたけれど、そんな事は気にもならなかった。
それからはちゃんと寄り道はせず、素直に登山道を下り、何とか無事に下山に成功。
一晩連絡も無しで帰らなかったのだし、まずは吉良さんに連絡を取ろうと電源を落としていたスマホを起動した。瞬間、表示される着信履歴。その数なんと50件。発信者は全て吉良さんからだった。
「…ディエゴくん、不味いことになったよ」
「どうした?」
「吉良さんから着信50件」
「おいおいマジかよ…」
「私達爆破されるかもしれないね」
ははは、口から漏れるのは乾いた笑みだけ。もう一晩くらいなら山に残っても良いかもしれない、なんて考えるのはいけない事だろうか。
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頂いたネタで書かせて頂きました。ネタ提供有難う御座いました!
頂いたネタは旅行先で遭難との事で、旅行ならやっぱり日本国内かなあと執筆前に色々妄想してたのですが、いざ書いてみると気付いたら旅行に行かず登山してました。何を言ってるか(ry)まあ日帰り旅行ということで…。
夢主は何だかんだで年の近いディエゴに一番懐いています。お兄ちゃんみたいな感じ。
ちなみにボスたちは救助隊を呼ぶ一歩手前でした。きっと騒ぐだけ騒いで近所から苦情が来てます。
131010
前略、山の中にて