「ナマエさんの膝って柔らかいですよね」
ナマエの膝に頭を乗せたドッピオが言う。
「ドッピオくん、それ遠回しに太ってるって言いたいの?」
「あ、いや!そんなつもりじゃあ!」
「女の人に今の発言は失礼でしたよね!」
慌てて弁解しようとするドッピオが可笑しくて、ナマエは声をあげて笑った。笑われたドッピオはややあってからかわれたのだと理解し、むくれながら「からかったんですか」と呟く。
「あはは、ごめんごめん」
「ナマエさんってたまに意地悪になりますよね…」
「ドッピオくんにだけは特別なの」
「……」
その"特別"が彼女にとっての本当の意味での特別だったらどれ程良かったか。
だが、現実はそう甘くはない。自分は彼女の弟程度にしか見られていないのだ。一人の男とすら認識されていないなんて、我ながら何と哀れなのか。これも自分の気弱な性格がそうさせているのだろう。そう思うと、ドッピオは自分で自分が情けなかった。
だが、ナマエもナマエだ。一つ屋根の下に暮らしているのだから、男と意識してくれても良いではないか。他の同居人達とは明らかに扱いが違う。
…いや、ナマエばかりを責めるのは良くない。変わらない自分が悪いのだ。そう見えないのなら、そう見えるようにするのが手っ取り早い方法じゃあないか。瞬時に閃いたドッピオは行動に移すことにした。
「ドッピオくん?ごめんね、怒っちゃった?」
「動かないで」
「あ、はい…」
ナマエはドッピオの言う通りにした。これ以上彼の機嫌を損ねたくはなかったから。
ドッピオの腕がナマエの首へと回される。そのまま腕に力を込められ、ドッピオの方に引き寄せられてナマエは苦しそうに上半身を丸めた。
ナマエの目と鼻の先にドッピオの顔が迫っている。あとほんの少しでも動こうものなら、鼻と鼻がくっつきそうだ。存外近い距離にナマエはたじろいだが、ドッピオは白い歯を見せて笑うだけだった。
距離を取ろうにも、ドッピオの手が押さえつけているので叶わない。ひ弱そうに見えるドッピオの何処にそんな力があるのか、ナマエは不思議でならなかった。
「…ド、ドッピオくん…?(やっぱり怒ってるよね…)」
「ナマエさんは僕の事どう思ってます?」
「…え?そりゃあ、可愛い弟みたいだなあって…」
「(やっぱり)ふうん、そうですか…。ナマエさんが言うその可愛い弟って、こんな事もするのかなァ〜?」
言うが早いかドッピオはナマエの唇を奪った。無理な体勢での接吻にナマエは離れようともがくが、ドッピオがそれを許さない。息が続くギリギリまで自由を奪われ、解放される頃にはすっかり酸欠状態に陥っていた。
ナマエは息も絶え絶えで後ろに倒れ込んだ。全身が熱い。何よりも顔が火を噴いているかの如く熱を発している。
「…ねえナマエさん。僕も男だってこと、忘れないで下さいね?」
―尤も、今ので忘れられなくなったと思うけど。
ナマエを見下ろし、ドッピオが囁く。これでボス達と同じ土俵に立てた筈だ。ドッピオは静かに笑んだ。
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膝枕してたのは、耳掃除でもしてたんでしょうね。外人さんからすれば未知の領域らしいですけど、荒木荘の皆さんは日本暮らしなのである程度は慣れてるのかもしれません。
今回は書きたかったドッピオ回です。ドッピオも男なので、夢主とそういう関係になりたい訳です。今のところ一番グイグイ行ってるのはドッピオという。人畜無害そうに見せかけて彼も肉食だとおもいます。
このお話で一番可哀想なのは、唇を奪われた夢主ではなく、出るに出れなくて気不味い思いをしているディアボロで間違いない。
130929
その日少年は狼になった