荒木荘 | ナノ
※少しだけ流血表現注意

風呂場から鈍い音が聞こえ、ナマエはギクリと肩を震わせた。
風呂場では今ディアボロがシャワーを浴びている筈である。まさか彼に何かあったのだろうか。ディアボロの"体質"を知っている彼女は最悪の事態を想像し、風呂場へと向かった。対して同居人達は「ああ、また死んだのか」と同情も無くただ無感情にそう思うだけであった。

「ディアボロさん、大丈夫ですか?」

ナマエが呼び掛けても中から返答はない。

「ディアボロさん、開けますよ…?」

騒ぎ立てる心臓を落ち着かせ、風呂場の扉へと手を伸ばす。ガチャリ、と音を立て開いた扉の先には、窮屈そうに床に倒れ事切れたディアボロの姿があった。
その頭は何処かに打ち付けたのかぱっくりと割れており、血が溢れて白かった筈の風呂場のタイルを真っ赤に染め上げている。
噎せ返る様な鉄の臭いに吐き気を覚え、ナマエは口元を覆った。ディアボロの死には何度も遭遇しているが、いまだに慣れる事はない。だが慣れたいとも思わない。自分の目の前で命の灯火が消える瞬間というのは、忘れたくても忘れられない程残酷で耐えられるものではないから。例え死を毎日のように迎えるディアボロに対してもそれは例外ではないのだ。

それからナマエは、このままディアボロを放っておく訳にはいかない、と自分に渇を入れ、ディアボロを安静な場所に運び出すべく行動した。
まずは晒け出された儘のディアボロの局部を極力見ないように、腰にタオルを巻いてやった。次にディアボロを運び出そうと脇に手を入れ持ち上げようとしたのだが、動かない。それもその筈だ。ひ弱なナマエでは成人男性、しかも一般的な成人男性よりも恵まれた体型のディアボロを運び出すのは土台無理な話で。
どうする事も出来なくなったナマエは、どこまでも無関心な住人達に助けを求める事にした。

「すみません!誰でも良いので、ディアボロさんを運んでもらえませんか!」
「ナマエ、放っておけ。何れ目が覚めて自力で歩いてくる」

テレビから目を離しもしないDIOにさらりと流されたが、それでもナマエは引き下がらなかった。

「そんな悠長な事言ってられませんよ!こんな成りで放っておける訳ないでしょう!」

諦める様子の無いナマエに負け、カーズが重い腰を上げて「チッ、分かった。運んでやる」と買って出た。

「有難う御座います、カーズさん」

カーズは死人に対する気遣いも無くディアボロを俵担ぎにした。運び方が些か雑ではあるが、運んでくれるだけ有り難いので文句は言うまい。
ナマエは急いでディアボロの寝床である押し入れから彼の布団を引っ張り出し、畳の上に引いてやった。その上に遠慮なしにドサリと落とされるディアボロの体。

「…カーズさん」
「運んでやっただけ感謝して欲しいのだ」

ナマエの批難的な視線を軽く往なし、カーズはテレビの前へと戻っていった。

その後ナマエは横たわるディアボロに応急措置を施したり、服を着せたり、血塗れの風呂場を洗いにいったりと独楽鼠のように忙しなく動き回った。


***


ディアボロが風呂場から運び出されて数時間経った頃だろうか。
呻き声を漏らし、ディアボロが文字通り"生き返った"。

「俺は風呂場で死んだのではなかったか…」
「ディアボロさん!良かった…気が付いたんですね」
「ナマエ…、お前が俺を…?」

運んだのはカーズさんですけどね、とナマエは補足した。

「だが、こうして手当てをしてくれたのはお前なのだろう?」

礼を言う。ディアボロはガーゼが宛がわれた額を撫でながら言った。ガーゼの下の傷はレクイエムの効果でもう綺麗さっぱり無くなっている筈である。

「でも、もういりませんよね。傷も治っているでしょうから。それ、取りましょうか?」
「…いや、このままで良い」

何故だか取ってしまうのは勿体無くて。だから、もう少しだけ、後ほんの少しだけ、このままにしておきたかった。



「……ディアボロさんがちゃんと戻ってきてくれて本当に良かったです…」

ナマエがポツリと呟いた。

「私、いつも心配なんです。もしこのままディアボロさんが生き返らなかったらどうしようって…ディアボロさんと会えなくなったらどうしようって…私、怖いんです」

俯き、肩を震わせるナマエへディアボロは努めて優しく語りかける。

「ナマエ、約束しよう。俺は何があってもナマエの元に帰ってくると」
「ほ、本当ですか…」
「ああ。約束する」

そう力強く頷き、ディアボロはナマエの手を取った―刹那、眉間にナイフが突き刺さり、本日二度目の死を迎える事となる。ナイフを放ったのはDIO。
目の前で突如として起こったスプラッタにナマエは耐えきれず悲鳴を上げた。

「きゃあああぁ!?」
「手が滑った。だがまあこれくらいどうってことは無いだろう?何があってもナマエの元に帰ってくるんだからなあ?」

DIOはついに泣き出したナマエを優しく抱き上げ、息絶えたディアボロを見下ろすのだった。


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ディアボロお相手のお話です。かっこいいディアボロを書こうとしてどう間違ったか全裸でスプラッタ祭りさせてしまいました。夢主にバッチリ股間見られてます。
荒木荘では出血大サービスとばかりに死んでいるディアボロですが、普通の女の子である夢主からするとそれは異常な事であり、また恐怖の対象でしかないと思うのです。目の前で何度も何度も人が死ぬって普通にトラウマものですよね。
オチはDIO様がかっ浚っていきました。荒木荘カーストの最下位であろうディアボロの絶頂はそう長くは続かないのです。

130917 死のはなし
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