▼ レジスタンスと神隠し (1/14)
空気が、悪い。
いつになく静まり返ったギルドでの昼食の時間。
パンを黙々とほうばりながらラックは心の中で呟いた。
盗賊は人を見る職業だ。
標的の思考を読み取り、裏をかき、盗み出す。
ラックもまた未熟ながらも人の変化には敏感な方だ。
目の前をちらりと見遣る。
ロランとレイラが並んで――だがその距離はとても離れていた――食事をしている。
いつもの喧嘩だと思った。
いつもの喧嘩だったらよかった。
いつもだったら、自分かレイムがからかって、それに二人は過剰に反応して、口喧嘩して、それでいつの間にか元に戻って、みんなで笑って。
でも今の二人はそんな雰囲気じゃなかった。
「ご馳走さま」
ラックの思考を遮るように、ロランは食べ終えた食器を抱え立ち上がる。
「あ、ロラン。暇だったら手合わせに付き合って貰えるかな?」
「あー…ごめん。今日は…そんな気分じゃない」
洗い場を任されているメニリナに食器を手渡そうと歩き出したロランの背に、ルースはいたって普通を装って声をかけるが、返ってきたのは申し訳なさそうな苦笑だった。
そのまま立て掛けてあった剣を取ると、外へと出ていく。
後に続くようにレイラも食べ終え、自分の部屋へと帰っていった。
「…何か隠してる、よね」
二人がいなくなった後、ずっと思っていたことをポツリと呟く。
二人は何かを隠している、これまでの観察でラックがわかった事だ。
結構長く一緒にいて、それなりに仲間として信頼もしていたハズだったのに、隠し事をされていると思った時はショックだった。
ラックの呟きを聞いたルースは一つため息をつく。
「思えば、ロラン達の事で知らない事、多いんだよな…」
色々と昔話は聞いた。
レイラの料理だけは上達しなかったこと。
ロランには両親がいないこと。
子供の頃は今より塞ぎがちだったロランをレイラが支えていたこと。
でも、どれもどこか抜けている気がした。
何か肝心な部分をはぐらかされているような、そんな違和感を感じた。
そうだ、今まで特に気には止めてなかったが、銀髪の持ち主なんて他に見ただろうか。
「幼馴染みだから色々と共有できるんだろうけど、あたし達に頼ってくれたっていいのに」
仲間なんだから。
レイムの呟きは今は広すぎるほどに感じるギルドの一階に寂しく響いた。
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