想い出のキセキ | ナノ


▼ 黒きモノ (1/13)

ギルドの裏手には広い庭がある。
冒険者達はよく、そこで鍛練を重ねていた。

足に力を込め、重心を定着させる。
そのまま、手の中の槍を前へと突き出す。
一本前へと踏みだし、勢いを利用して上へと突き上げる。
身体を捻り、右から左へ薙ぎ払いながら、相手との距離――実際は練習相手などいないのだが――を開けるべく一歩飛び下がる。
一定の動作を終え、ルースは額に浮かんだ汗を拭った。

「修行でございますか?」

かさ、と草を踏む音と、ふんわりとした少女の声が響く。
振り返れば、ティアがこちらに歩み寄ってくるところだった。
手にはタオルを一枚持っている。

「見てたんだ、ティア」

ティアからタオルを受け取りつつルースは答える。
冷やしておいてくれたのか、冷たいタオルはほてった身体には心地好かった。

「動かないと鈍っちゃうからね。…いくら相手がいないといっても」

途端にティアの表情が曇る。

「まだ、目を覚まされませんね……ロランさん」

「…ああ」

ヴァンパイアハンターの一件から既に3日経った。
あれから一度もロランは目を覚ましていない。
エリィから大丈夫だ、と言われてはいるが、ルース達から不安が消えることはなかった。

「今は、レイラが?」

「はい…というよりも、ここのところ掛かりっきりで……身体を壊さなければよいのですが…」

ルースはギルドを見上げる。
2階、部屋の中で横たわるロランと、枕元の椅子に腰掛け、ずっと彼を見守るレイラの様子が浮かんだ。

「あまり心配かけさせるなよ馬鹿…」

ルースの呟きに、ティアは何も返せず目を伏せた。


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