▼ ヴァンパイアハンター (1/11)
それはいつものごとくギルドからの依頼をこなしている時だった。
ロラン達のパーティーに、たまにはついていく、とネイルが一時的に加わっていた時のこと。
「……ッ!!」
一番後方を歩いていたネイルが何かに気付き、大きな盾を構える。
刹那、金属の擦れ合う嫌な音が響いた。
ロラン達は驚いて振り返る。
ネイルの盾に大きく曲がった刀身の剣が刺さっていた。
少し離れた場所に屈んでいる人影が見える。
「…何奴」
ネイルは静かに問いただす。
人影はむくりと身体を起こした。
背は高く、見た目はまだ若い、男。
「狙いが外れた」
男は悔しそうに顔を歪めて、呟く。
ネイルは普段は無表情のその顔に、明らかに嫌悪の表情を見せた。
「…奴の狙い、ネイル否、レイム!」
レイムの表情が苦悶に歪んだ。
身体を震わせ動こうとしないレイムの腕をロランは掴む。
「何やってんだ!逃げるぞ!」
「…逃がすか!」
男は刃物を投げる。
しかし、ネイルも熟練の冒険者だ。
素早く、盾を持っているとは思えないほど素早く身を翻し、その刀身を盾で受け止める。
その間に、レイム達はルースの転位魔術で、どこかしらへと消えていた。
「逃がしたか…」
「…主、何奴?」
もう一度、ネイルは問う。
だが男は薄笑いを浮かべたまま、答えようとはしない。
ネイルがもう一度、尋ねようとした時、男が口を開いた。
「ヴァンパイアハンターだ」
「………成る程」
この男が噂に聞いていたヴァンパイアハンターか。
「あの少女の瞳は確かに赤かった」
「だから、どうした?」
「居場所を吐いてもらおうか」
男が剣を構えるとほぼ同時、ネイルは両手の盾を自身の前で組ませた。
男に冷たい声で言い放つ。
「レイム、我の後輩。後輩守る、それ先輩の役目。貴様、この先断固通行禁止」
「……そうかい」
男がキッとネイルを睨む。
それが合図だった。
静かな山道に、再び金属の擦れ合う音が響いた。
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