▼ 最初の難関 (1/4)
冒険者――世界を回り、世界を見、世界を知る者。
そんな冒険者に憧れる少年が一人。
今日も剣の修業に明け暮れる。
「てやぁーーーーーっ!!」
威勢よく相手に斬り掛かる。
だが、相手は口元に笑みを浮かべ、スレスレで剣をかわした。
「…勢いだけでは、どうにもならんぞ?」
―そんなの分かってらぁっ!!
心の中で毒づきながら、相手の反撃がくる前に素早く後ろへ下がる。
――やっぱ強ぇ……。
それはそうだ。
相手はラコッテ村の村長、バルト・ゲージェ。
元冒険者で村一番の剣士。
そしてこの剣を振るう少年、ロラン・ファイリスの師匠でもあるのだから。
(でも………!)
勝たなきゃいけない。
自分の夢のために!
ロランは大地を蹴り、前へと踏み出す。
「届けぇぇぇ!!!」
剣を握る右手に力を込め
「………熱っつ?!!」
突然右手に熱痛が走り、剣を落としてしまった。
そのままバランスを崩し前のめりに地面に倒れる。
「…なんだなんだなんなんだよ!?」
せっかく気合い入ってたのに!
ロランは地面に打った額を摩りながら、周りを見遣す。
「……はいはい、修業終わり! ご飯が出来たっておばさまが呼んでるわよ?」
両手をパンパンと鳴らし、こちらへ向かってくるのは茶髪のロングヘアの少女。
「………レイラ!
お前だな、さっきの炎! いいところだったのに邪魔すんじゃねーよ!」
ロランの幼馴染みであるこの少女、レイラ・フィニックは片方の眉を吊り上げる。
「このままだと日が暮れるまでやってそうだったんだもの。勝てない相手にムキになっちゃって。」
「兄ちゃん、また負けたの?」
「…うるせぇやい。」
傍らに立つレイラの弟のクロル・フィニックまで言われ、ロランは口を尖らせる。
あーやだやだ、とぐちぐち言いながらレイラは自分の家に戻っていってしまった。
クロルも慌ててそのあとを追いかける。
「ぐぬぅ……。」
言い返すことが出来ないのが辛い。
相手に勝つことが容易ではないことくらい、戦っている自分が一番よくわかっている。
納得がいかないが、腹が減っていることは確かだ。
「"腹が減っては戦はできぬ"…違うか?」
ロランの腹の虫を聞いたバルトがにっこり笑いながらロランの頭を乱暴に撫でる。
「…飯食ったらまた勝負だからな師匠。約束忘れんなよ!!」
バルトに撫で回されぐしゃぐしゃになった頭を手ぐしで適当に直しながらロランは自宅へと走った。
prev / next