▼ 旅立ち (2/3)
得意顔で言い張るロランだが、
「一人でできるのかしら。」
水を差したのはレイラの一言。
「な…なんだよ。」
「魔法もできない、剣しか使えない、何より弱い。」
一つずつ指を折り曲げ数える。
「ま、魔法が使えなくたって何とかなるだろ!」
「…あのねぇ、このご時世魔法が日常生活の一部になってる。どんなに魔力が少ない人だって、コップの中の水を掻き混ぜることくらい出来るわ!魔法がこれっぽっちも使えないあんたの方が今じゃ珍しいのよ?!」
確かにそうだ。
個人差があるとはいえ、村のどの人達もちょっとした魔法は使えていた。
なのに自分はこの15年間一度も魔法を使ったことがない。
いや、使えないのだ。
どんなに頑張っても、まるでなにかに邪魔されてるかのように魔力が溢れてこなかった。
「…前から思ってたのよね。もっと魔法を勉強したいなって。」
レイラが独り言のように呟く。
「…"冒険者"になれば、魔法が上達するかなって。」
その一言にロランは目を丸くする。
「それ…どういう意味だよ……。」
「…はっきり言わないとわからないの?私も連れてけって言ってるのよ!」
「……いや、そうじゃなくて、何言ってんだよお前を連れて行けるか!んな危ない所に…!」
確かにレイラがいれば、冒険はかなり楽なものになるかもしれない。
実際にバルトとの勝負だってレイラがいたから勝てたようなものだ。
だが、冒険者になんてレイラにはなって欲しくなかった。
冒険などという、常に危険と隣り合わせな場所に、この幼馴染みを連れて行きたくはなかった。
「あんたを一人で泳がせることの方がよっぽど危ないわ。」
「……っ!」
図星だ。
「…お前が守ってやればいいんじゃないか?」
横からのバルトの一言。
「そのために今まで剣術を学んできたんだろ?」
えっ、と小さくレイラの声が聞こえた。
「…し、師匠! それ言うなって約束だろっ!?」
「…どういうこと?」
レイラが睨みながら尋ねてきた。
な、なんで怒ってるんだよ…。
「……いままでさ、レイラの魔法に助けられてたから…今度は俺の番かなーって思って…。でも俺魔法使えないし、だったら強くなるしかないって思ったんだ。」
最後のほうは声が小さくなってしまった。
全く、本人の前でこういう話をするのは照れ臭い。
「……な、なによっ! ロランの癖にでしゃばって! あんたが私を守るなんて100万年早いわよ!!」
レイラは顔を真っ赤にして叫ぶ。
……だからなんで怒るんだよ。
「で…でも……。」
「ん?」
「……そんなこと言うならちゃんと責任とってエスコートしなさいよね。」
ムスッとしながら手を差し延べてくる。
「…おうっ! 任せとけ!」
その手を握り返し、ロランはニッと笑った。
レイラはすぐにロランの手を振りほどくと、準備ができたら呼んでと、逃げるようにその場を去っていった。
「……変なやつだなぁ。」
「お前もちゃんと旅支度をしておけよ。」
バルトは笑いながら、自宅へと戻っていく。
「冒険………か……。」
ロランは誰に言うわけでもなく呟くと、旅支度のためその場を後にした。
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