▼ 父のくれた宝物 (2/5)
少し待って下さい、そう言って教会内部に早足で駆けていき戻ってきたティアは白いブラウスの上に落ち着いた黄緑色のロングスカートという姿だった。
白いカチューシャは変わらず付けている。
後に知ったのだが亡くなった母親の形見らしい。
「ティア、その首飾りは?」
ティアの胸元で光る、一見するとエメラルドの宝石のような、水晶のように透き通った石を見てレイラが問う。
「父がくれたんです。これを付けていると不思議と心が落ち着いて……。」
ティアは大事そうに胸元の宝石を両手で包み込む。
「父さん……か。」
そんなティアを見て、ふと漏らしたロランの呟きは微かなもので誰の耳にも届くことはなかった。
「…えっと、国王様に会いに行きましょう。」
自分が止めてしまったことを気にしているのか、やや赤面しながらティアは提案する。
ロランとレイラは頷くと、王城へと歩みを進めた。
城内は外壁と同じく白く彩られ、青い装飾が美しく映える。
使用人に案内され大きな扉をくぐった先には、温厚そうな顔立ちをした白髪混じりの金髪の男性が玉座に腰掛けていた。
リシア王は玉座から立ち上がるとにこやかにロラン達を出迎える。
思わず呆然と立ち尽くしていたロランの頭を掴み、レイラが無理矢理頭を下げさせた。
「少年少女達よ、固く成らずともよい。」
頭をあげてくれ、とリシア王は促す。
「冒険者志願かい?よければ話を聞かせてくれないか、ここで話を聞くのが私の一番の楽しみなのだ。」
包み込むような笑みで言われ、ロラン達は自分達の冒険者となる理由と決意を語る。
初めはびくびくとしていたロラン達も実の親のような対応をしてくれる王に次第に心を開いていった。
「…息子も君達みたいに高い志をもったのだろうか……。」
「…え?」
突然顔に影をともし小さく呟いた王にロランは声を上げる。
だがすぐに王は普段の笑顔に戻り、なんともなかったかのように話を続けた。
やがて王から許可証をもらい、城を出た後ロランは一番この国について詳しいであろうティアに先程の疑問をぶつける。
ティアは少し俯き気味にその理由を語った。
「…王は奥様と息子様を一遍に亡くされたのです。心配をかけないよう明るく振る舞っておりますが内心は……もしかしたら王は私達のことを本当の子供のように接することで気を紛らわしているのかもしれません…。」
「そっか…だったら俺達、尚更頑張らないといけないな……。」
ええ、とレイラも頷く。
しばらくの沈黙の後、ティアがいきなり『あ』と声を上げた。
「どうしましょう…!私、雑貨屋の事をすっかり忘れてました……。」
「ちょっといって休業中の看板でも立ててこいよ。俺達待ってるからさ。」
ティアはありがとうございますと何度も頭を下げ、雑貨屋に向けて走り出す。
その様子に二人は顔を合わせて苦笑するのだった。
「………『休業中』っと。これで大丈夫ですね!」
お手製の看板を見、ティアは満足そうに頷く。
さて、帰らなくてはと踵を返そうとした時、ティアは自分を呼ぶ人影に気が付いた。
「私に何か用ですか?」
「お嬢さん、修道女様だろう?大変なんだ!実は……」
「……えっ、怪我人が?!」
今すぐ行きますと口を開きかけたティアの脳裏にロランとレイラの顔が浮かぶ。
自分には少なくとも回復の心得がある。
怪我人がいるのなら今すぐに行って治療してあげたいのだが、待たせている人がいる。
でも――――
「わかりました。私にも回復の心得があります。私で何かお役に立てるのなら喜んで!」
目の前の困っている人をほおっておくなんてこと、出来るはずがなかった。
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