▼ 風の民の少女 (2/4)
風の民の暮らす集落、風の里。
そこから幾分か離れた丘の上に、一つ小さな家が建っていた。
その家の屋根上、安定した場所に腰掛けた少女は歌を唄う。
ポロン、と歌に合わせ、少女は手元の小型のハープを弾いた。
と、まるでそのことを喜んでいるかのように、優しげな風が一陣、少女の栗色の髪を撫でていった。
少女はくすぐったそうに鈴のような声で笑う。
「もう、やめてよ」
少女は何もない中空に向かって呟いた。
――否、彼女には見えていた。
風に乗って舞う、精霊という存在が。
ふと、今まで少女の周りに集まっていた精霊達が一斉にいずこかへと飛び去っていった。
「リーンベル」
精霊達のものではない、声。
リーンベルは声のした方へ振り返り、彼女に笑いかける。
「ハーミィ!」
リーンベルは慣れた足取りで屋根から飛び降り、玄関口に立っていたハーミィのもとへ駆け寄る。
「また精霊達と話してたの?」
「うん、みんな私の歌を聞いてくれるんだ!」
無邪気に笑うリーンベルに、ハーミィはなぜだか悲しげに微笑む。
リーンベルは不思議に思い、彼女の顔を覗き込んだ。
「ハーミィ、どうしたの?」
「…なんで、リーンベルなのかな」
「……仕方ないよ、私しか精霊さん達の姿を見ることはできないんでしょ?」
ハーミィの顔付きとは裏腹に、リーンベルは優しく微笑む。
「私ね、嬉しいんだ。
今まで私だけ精霊さん達が見えるからって里のみんなからあまり良く思われてなかったみたいだけど、これでみんなの役に立てるもの」
そう、本当に嬉しそうに笑うリーンベルに、ハーミィは言葉を告げず俯く。
「だから、心配しないでハーミィ。
私ちゃんと風使いの使命、果してみせるよ」
「……リーンベル」
「…ごめんね、ハーミィ。
私、おばあちゃ……族長様に呼ばれてるから」
里への道を駆け降りてゆくリーンベルの背中に、ハーミィは何も言うことはできなかった。
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