勇者と女神と魔王の娘 | ナノ


▼ 魔王の娘と竜の騎士 (1/6)

どこまでも澄み渡った蒼い空。
そこに風に乗って白い雲が駆けていく。

草色の騎士団服に身を包んだ緑髪の青年――セリオル・シルダは草原に寝転がり、ぼんやりとそれを眺めていた。
青空は好きだ。
この地が平和であることをその色で教えてくれる。
ひと昔前だったら、ここは一日中朝日も昇らず、鈍よりと厚い雲に覆われ、こんな青空など見れなかっただろう。

この場所は魔界と呼ばれていた。
魔族達と、その頂点に君臨する魔王が住まう世界。
魔界、という呼び名はそもそも下界の人間達が付けたものだったが、魔王達はそれを気に入っていた。

「隊長ーーっどこにいますか隊長ー!」

遠くで、まだ幼さが残る少年の声が響いた。
やがてひょっこりと、セリオルと同じ騎士団服を着た青い鱗に覆われた巨大なトカゲ――ワイバーンのウェアルズの顔が目の前に現れた。

「探しましたよ、隊長!」

その声にセリオルは僅かながら顔をしかめた。
このワイバーンの少年は、隊長でもなんでもない自分のことを未だに『隊長』と呼ぶ。
理由を聞いても隊長は隊長です、と返されるだけ。
しかもウェアルズは自身の属する部隊の隊長のことは『隊長』ではく『先生』と呼ぶのだから、時々こいつが何を考えているのかわからなくなる。

「…俺はお前の隊長じゃないって」

「俺にとってはセリオル先輩は隊長です!」

キラキラと目を輝かす後輩にセリオルは苦笑を漏らす。
ふと、ウェアルズは、あ!と声を上げた。

「そうです隊長!姫様がお呼びです!」

「姫が?」

セリオルの脳裏に頬を膨らませるわがまま娘の顔が浮かんだ。
きっと今頃身の回りの世話係であるナエリアがほとほと手を焼いているだろう。

「…わかった、すぐ向かう」

立ち上がり、側に寝かしていた大剣を背にかける。
顔を上げれば美しい城が草原のなかに見えた。
セリオルはゆっくりと、やがて足早に、城に向かって歩きだした。

prev / next

[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -