陽月の姫君 | ナノ


▼ ラティーシャ隊 (1/9)

「お父様!お父様…嫌っ……!」

父親の座る玉座の前でシェリアは泣き崩れる。
ティラ王は威厳ある姿そのままに、固く冷たい石像と化していた。

「どうして?!どうしてよ…!」

王座の間に来る前までに見た、夥しい数の石像。
日常の一部を切り取って固めたように、まるで生きているかのように、それはそこにあった。

「これは…呪い……?」

城の惨状を見てリーナは呟く。
人を石と化してしまう呪いの類は聞いたことがあった。
だが、城の人々全員を石像にしてしまうような、大規模なものは聞いたことがない。
それにここまで来るのに魔物や人とは出逢わなかったが、あの魔犬が術者とは考えにくい。
そもそも術者の命が事切れれば呪いは解けるはずなのだ。

「…お母様が守ってくれた………」

「え?」

考えを巡らせていたリーナの耳にシェリアの呟きが入る。

「あの時、私を止める声がしたの。そのあと不思議な閃光が起きて……多分あれのせいでお父様はこうなってしまった。私達はお母様のお墓の側にいたから助かった……お母様が私達を守って下さったの」

シェリアはそう言ったきり、額を父親の膝に付けて黙り込んでしまう。
その肩が僅かに震えているのを見て、リーナはどう声をかけていいのかわからず、ただその後ろ姿を見詰めていた。

やがてシェリアはその場から立ち上がると、リーナの方へ振り返る。
その目は、はっきりと意志の篭ったものだった。

「私、お父様と城のみんなを元に戻す。何か絶対方法があるはずよ!大陸中…いや世界中回っても見付けだすわ!
……それが、ティラの生き残りで、姫である私にできることだと思うから」

赤く腫れていても、後ろを振り向かずしっかりと前を向いている、その眼差しにリーナは気圧される。
シェリアは、強い。
自分はどうだろうか。
どうしていいのかわからず、先の道を見つけることが出来ない。
いつだってそうだ。

「リーナも、来るでしょう?」

そう、そしていつだって、この姫君が自分の道を見つけて決めてくれるのだ。

「…はい、お供しますシェリア様!」

リーナのティラ王国特有の敬礼の仕草に、シェリアは満足そうに微笑んだ。

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