Novel
二人のイル

ざわざわと街道に人がたかっている。
時々聞き慣れない言語が聴こえるから、色んな国の人がここに集まってきているのだろう。

「おーい!買えたか?!」

辺りの喧騒に負けじと、イルファーナは声を張り上げる。
屋台の店長から品物を受け取っていたセナローズはその声に振り返った。
顔にはやれやれ、と呆れたような苦笑を浮かべている。

「そんなに大きな声出さなくっても聴こえてるよ」

ちなみに二人の距離は僅か15cm程度。
一般的に"隣にいる"と言うのが正しいであろう距離だ。

「まあ気にすんなって。で、買えたのか?」

イルファーナ達はセナローズの父親の頼みで、この街道に作られた市場にお使いに来ていた。
セナローズはイルファーナの問いにこくりと頷いて見せる。
どうやら目当ての物は買えたようだ。

「でも、あと一つあるんだよなー…」

頼まれた物は一つではないらしい。
父親から受け取ったらしきメモを手に、睨めっこをしている。

「えっと、あっち側の店かもしれない…………って、わっ!?」

メモを片手におもむろに歩きだしたセナローズに、何かがぶつかってくる。
反動でよろけたセナローズをイルファーナは慌てて支えた。

「大丈夫かセナ?ったく、危ねーな…」

「うん、ありがとう」

軽く微笑みながら立ち直る。
が、そこで違和感に気付いた。
何かが、足りない。

「……あ!さっき買った荷物!」

「……なんだって?!」

ぶつかった何かが消えていった方向を見遣る。
もはや人混みが揺らめいているだけで、それらしき影は見えなかった。

「…俺、取り返してくる!」

「え、ちょっと、イル?!」

セナローズの制止むなしく、イルファーナの背中は人混みの中に紛れ見えなくなってしまった。


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