▼ 序章 (1/1)
――偶然だ。
――偶然、自分の前で子猫が魔物に教われていて
――偶然、上手く魔物を退治できただけで
――偶然、それをこのあからさまに変な人に見られてしまったわけで
――そんな偶然が重なっただけで
などと言ってもきっとこの目の前の見たこともない衣装に身を包んだ女性は言っても聞かないだろうなと思った。
明るい黄緑の長髪になにやら宝石の埋め込まれた額のサークレット。
そしてエルフの血族なのだろうか、耳の先が尖んがっている女性は僕の手を握って離さなかった。
「君、私の学園に入学する気はなぁい?」
目のキラキラと輝かせるエルフの女性に、僕はため息が出そうになるのをなんとか堪える。
さっきからずっとこの調子だ。
こちらが何を言っても耳に入っていないようで、これでは新手の詐欺ではないかと思ってしまう。
恐らく本人は全力で勧誘しているだけなのだろうけど。
「あの……僕は…」
「君の戦い見てたわよ!! 面白い人材だわ…! どう、その才能をもっと伸ばしてみないかしら?」
戦い――才能――?
女性の言葉を頭の中で反芻する。
自分の戦い方はそういえば誰に教わったのだろう。
物心ついたころから一人で暮らしていたし、これといって友達と呼べる知り合いもいなかった。
むしろ――得体の知れない忌みの子――として避けられていたほどだ。
そうしてみると、こうして人と喋ることはなんだか久しぶりに思えた。
「えっと…その学園って……?」
「"エリルデ学園"。貴方みたいな子達が集まって一緒に勉強するの。こんな殺風景なところでウジウジしてないで、私の所にこない?」
殺風景なところ、確かにそうかもしれない。
ここにいて何もしないよりかは、その学園というところにいけば何か変わるかもしれない。
端から見ればかなり怪しい文句かもしれないが、女性に人を騙しているような後ろ暗さは感じられなかった。
「…分かり……ました。」
この時、頑なに否定しとけばよかった。
と、後に僕は後悔することになる。
瞬間女性は目を輝かせ僕を自分に引き寄せると、なにやら聞き取れない言語をぶつぶつと呟いた。
――後になってこれが転移の魔術の詠唱だと知るが、それはまた別のお話。
「えっ、あのっ…!!」
「大丈夫、大丈夫!貴方、名前はなんですか?」
「ウィ…ウィディオル…ウィディオル・エルフィス…です。」
「うん、ウィディオルさん! 私はアミリア・エルヴァウォール。エリルデ学園の校長でーす♪」
――この人が校長!?
相手に失礼なことも忘れ、目を丸くする。
早速、学園生活に対する不安が生まれてきた。
そんな僕の思いなど関係無しに、視界は青い光に包まれる。
そんな傍若無人なアミリア校長に連れられて僕の学園生活は始まったんだ。
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