Novel
君のために

「い……ってええぇ!」
「うるさいわよ! 耳元で大声出さないで」

 ぴしゃりと言い放ち、レイラは傷口に巻き付けた包帯をポンと叩いた。

「はい、おしまい」
「……っ!」
「何よ。大げさね」

 足を押さえて悶えるロランを横目に、レイラは包帯や薬草を片付ける。

「とりあえず処置はしたし大丈夫だと思うけど、合流したら一応ティアに診てもらいなさいよ」
「わかってるよ。あーあ、やっぱりティアと組んどくんだったかな」
「……っ」

 何気なく呟かれた一言が、レイラの胸に容赦なく突き刺さる。表面上は何事もないような表情を取り繕って、レイラは立ち上がった。
 ロランは既に歩き始めている。足を少し引きずるようにして歩くその姿を見て、レイラはきゅっと唇を噛み締めた。

(ティアがいたら)

 あれくらいの怪我ならすぐに治療してくれただろう。胸にくすぶるロランの言葉が、またちくりと痛みをもたらした。
 ロランは日々強くなっている。

(……私は?)

 前を歩く背中が何故か遠く見える。こぼれそうになる溜め息を呑み込んだ時だった。
 大分開いてしまった距離に慌てて駆け寄ろうとしたレイラの視界、ロランの背後に黒い影が見えた。

「危ない!」

 それが魔物だと気付いた時には既にそう叫んでいた。半ば反射的に放たれた魔法の炎が魔物を襲う。
 危険を知らせる叫び声にロランが振り返った時には、もう魔物は地面に倒れ伏した後だった。

「うお、危ねー」

 魔物との距離の近さに目をみはり、次いでレイラに視線を移す。安堵の息を吐いている彼女に、ロランはにっと笑って手を上げた。

「ありがとな、レイラ」
「……べ、別に。これ以上怪我されたらこっちが困るもの」
「そっか。でも助かったよ。やっぱりお前の魔法は頼りになるな」

 そう言って向けられた笑顔。同時に大きく跳ねた鼓動は嘘をつかない。

「私って、意外と単純なのかしら……」

 そうぽつりと呟いた。ロランのたった一言で、胸にわだかまっていた何かが消えていく。
 少しでもいい。前に進む彼の助けになれたなら。

(こんなに嬉しいことはないわ)

 ふっと笑みを浮かべて、レイラは歩みを再開する。歩きにくそうな幼なじみに並んで、おもむろにその手をとった。

「ほら、早くティア達と合流しましょ」

 そして、街道を行く二人の影は、仲良く寄り添っていた。


END



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