Memo

::エンメルSS

どうしてこいつと一緒にいるのか?
そう問われれて、はっきりと返せる答えをエントは持ち合わせていなかった。
あえて言うならば、そう腐れ縁、のような気がする。

「…なに?」

無意識のうちにじっと見つめてしまっていたのだろう、怪訝そうな声音を上げ彼女は振り返った。
元々つり上がりがちな瞳に、更に冷ややかな物を感じる。

「別に」

素っ気なく答えると、メルリエはそう、とだけ呟いて、視線を元に戻した。
どうやらグローブのメンテナンスをしているらしい。
追及されずに助かった、と胸を撫で下ろす。

「…ったく、フェイがあんなこと言うから」

数日前、久しぶりに会った幼馴染に小声で悪態をつく。
少し年上で、兄のような彼は、自分とメルリエを見るなり言ったのだ。

「ベッシーの彼女?」

もちろん二人して全力で否定した。
あの時、何も言わずただ生暖かい微笑を浮かべていたトトラルが恨めしい。
いや、そんなことはどうでもいい。
問題はその後だった。

「じゃあなんで一緒にいるの?」

言葉に詰まった。
トリガーの大会で偶然出会って、偶然同じチームになって、偶然エントの持つ武器と彼女の持つ武器の性能が酷似していて―――それで、どうして今もまだ一緒に行動を共にしているかと聞かれれば、返せるような明確な答えがなかった。
結局そのままフェイを納得することはできず、彼はからかうような笑みを浮かべて去っていった。

改めてメルリエを見遣る。
不自然に開いた自分との距離に、彼女がまだ自分を警戒していることがわかった。

「こんなんじゃ、友達とも仲間とも言えないしな…」

思い付いたなけなしの『理由』も、砕け散る。

「悩ましげなため息ついてどうしたんだい?似合わない」

ぽつり、とため息混じりに呟いたぼやきは相棒に聞かれていたようだ。
ニヤニヤとした笑みを顔に張り付けたトトラルを軽く睨みつける。
彼はやれやれと大袈裟に肩を竦めて見せた後、視線をメルリエに向けた。
釣られてエントもそちらへ顔を向ける。

「似てると思うんだよね」

「…はい?」

トトラルの発言の意図が掴めず、彼を見上げる。

「君と、彼女。似てると思うよ」

「…俺とあいつが?」

一体、何が、どこが、どうして。
納得がいかないことに、どんどんと顔が険しくなっていったのか、エントの顔を見てトトラルは軽く吹き出す。

「ほぅら、そのしかめっつらとかさ」

「うぐ…」

「なかなか他人と関われない所とか、意地っ張りな所とか…」

「…」

何だか小恥ずかしくなり、まだまだ言い足りなさそうなトトラルを手で遮る。

「まあとにかくね、無理に言葉にする必要なんて無いんじゃないかな。いつの間にか一緒にいるのが当たり前になってるようなものだよ」

「…やっぱりバレてたか」

「当たり前だよ、何年の付き合いだと思ってるんだい?」

ふふふっ、とトトラルは目を細めて笑う。
ふと、メルリエに視線を移せば、いつの間にこちらを見ていたのか彼女と目が合った。
が、すぐに逸らされる。

「やっぱり似てるよなあ」

「…はあ?」

彼の呟きに首を傾げるが、ふわりふわりと宙に漂うトトラルは意地悪く笑っているだけで何も語ろうとはしなかった。

(まあ、今はこれでいいのかもな)

尚もメンテナンスを続けるメルリエの背中をぼうっと見詰めながら、エントはそう思った。

2014/05/06 19:45 Back