麻酔が醒めるまで | ナノ
 



七時ジャスト、俺はあいつの部屋へと向かう。一応ノックはするが一度だって返事を返した事が無い。

「杠(ゆずりは)、入るぞ」

ドアを開けると無駄にでかいベッドで丸まって眠るでかい図体。起きる気配が全く無く気持ち良さそうな寝息が聞こえる。
その姿に眉間に寄っていた皺は自然と薄くなり、少しずれた眼鏡を直してベッドに近付きそっと腰を掛けた。

「杠、朝だぞ。杠…」

「んー…」


生返事が返ってくるだけで起きる気配はない。
それで良い。まだ目を覚まさなくていい。
もう少し微睡みに浸っていればいい。

「つば、き…?おはよぉ…」

いつもは鋭い目付きが和らいだ締まりのないあどけない笑顔。昔好きだった愛しい笑顔。
この時間が続けばと、毎朝願っている。


昔は大好きな自慢の幼馴染み。かっこよくて運動も出来て頭も良い。
そんな杠の幼馴染みなのが誇らしかった。
でもいつからか、俺達は比べられるようになった。そして何をしても称賛を受ける杠だった。
勉強も運動も俺の方が出来るのに周りは杠しか見ていない。仕舞いには地味な俺の杠と釣り合わないとまで言われる始末だ。
それが悔しくて、憎かった。

気が付けば自慢だった筈の大好きな幼馴染みとはこの醜い感情を隠す為に距離を取っていた。
そして俺達は変わってしまった。
今では称賛を浴びていたあいつは傍若無人の顔だけの男に、俺は周りと距離を取り自尊心の塊のような男になった。
もうあの頃の俺達はいない。
ただこの一時を除いては。


「椿ー…今日、遊ぼうな?」

「ああ、勿論だ。杠の好きなゲームをしよう」

「やったー…」

杠は寝起きが悪い。
だから起きてすぐの寝ぼけている間は思考が子供の頃に戻る。優しくてかっこいいあの頃の杠に。

「約束だから、な…んん」

「杠…またな」

小さく唸って俯せになるとこの時間が終わる合図だ。
そんなに時間もないうちに今の杠に戻る。だからその前に俺は部屋から出た。
扉を閉める音が耳に届きそれと同時にまた現実に戻ったのだと眉間に皺を寄せる。
そしてまたいつものように呟いてその場を後にした

「ああ、醒めなければいいのに」



2012/9/10
分かりにくいですが杠×椿です。
タイトルは感覚でつけてます。麻酔が効いてる間は痛くないけどそれはその場凌ぎで麻酔が醒めたら結局痛くなる、みたいな。
自分でも何言ってるのか分からなくなってきたんでタイトルには触れないであげて下さい。


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