弱虫天邪鬼 | ナノ
 



思い切りあいつを殴ったのがついさっき。
今は一人屋上で柵に凭れグランドを眺めながらジュースを飲んでる。
あいつが居なくて肌寒く感じるのは風避けが居ないから。
いつもなら隣に居る俺の相棒。
あいつを殴ったのは初めてだ。
殴った理由は俺が買ったこのジュースを先に飲んだから。
何て事ないしょうもない理由。
そう自分に言い聞かせた。


あいつはいつも俺を大切だと言う。大切な人だと何回も何十回も。
それは純粋に相棒として大切って意味だと分かってる。
だからあいつが大切と言う度に勘違いすんなって言い聞かせてた。
相棒が女子に貰ったクッキーを美味そうに食ったって別に構わねぇんだよ。
あいつが嬉しそうに貰ったからムカついたんじゃねぇ。ただ、俺のジュースを飲んだから。それだけだ。

「……大丈夫かよ、あいつ」

殴られて派手に倒れてたな。
受け身も取ってなくて綺麗に入った感覚が手に残ってる。
あいつが悪い。
どう考えても俺が悪いのに自分を正当化する理由を探してる。
あいつは何も悪くない。こんな感情を持ってしまった俺が悪いのに。

「ヒロ」

「……何だよ」

飲み終わったパックを握り潰し授業中の生徒達を眺めてるとドアが開く音と俺を呼ぶ声。
俺をヒロなんて呼ぶのはあいつしか居ねぇ。
視線だけ向けると腫れた頬に湿布が貼ってある。
不器用なこいつが自分で貼ったとは思えねぇ。あの女子が付き添ったのかと想像しただけでまたムカムカしてきた。

「大切な人を迎えに来ただけ」

そう言って俺の隣に同じようにマサが立っただけで寒さがましになった気がする。
マサに謝らないと。

「俺は悪くねぇからな」

女子からクッキーを貰って喜ぶお前を見たくなかったんだ。

「お前が勝手に人のジュースを飲むからだ」

痛かったよな、ごめん。

「自業自得だっつーの」


口が勝手に動いて止まらない。
そうじゃねぇ。本当は、本当に言いたいのは――

「うん、ごめん」

俺が言わないといけない言葉なのに。
お前は悪くねぇだろ。

「ちゃんと分かってる」

「分かってねぇよ」

「分かってる。分かってないのはヒロの方」

無駄に格好良い顔してるマサと目が合い不意に手を引かれ握っていたパックを落とすと同時に唇が重なる。
口の中が切れてたのか触れた唇から鉄の味が広がった。

「もう女子から貰ったりしないから機嫌直して?」

何回も啄むようにキスを落として穏やかな笑みを浮かべてる。
俺はこいつには何一つちゃんと伝えられてないのに。
腰に回された腕に抱き寄せられて距離が縮まる。
近くで見る瞳は本当に何もかもを見透かすように澄んでいた。

「言わなくて良い。俺にはヒロの事なら何でも分かるしそのひねくれた所も好きだから」

「…バーカ」

ありがとう。
その言葉が嬉しいのにまた違う言葉を紡ぐ。
ああ好きだ。
俺はやっぱり、お前が好き。
マサが好きだって言ってくれて幸せ。



「これからも一緒に居ろよ。大切な相棒なんだから」

「仕方ねぇから一緒に居てやるよ」





2011/11/02
前に書いた『君のため』の二人です。因みに広瀬君と真崎君でヒロとマサです。
広瀬君は気付いてませんが言葉とは逆に態度が分かりやすいです。殴る前も拗ねた顔してガン見してたり(笑)
タイトルが読みにくくなってしまった。


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