前略 | ナノ
 



拝啓
最近本当に暑くなってきたけどバテたりはしてない?
梅雨明けした地域もあるらしいですよ。
やっと待ちに待った夏が来ますね。
校庭の隅のヒマワリが咲くの楽しみだなぁ。






彼の下駄箱に入っていた返信の手紙を読みながら思わず笑みが零れた。
先輩も夏が好きだという事だけで凄く嬉しい。
あの人を知る度に益々惹かれていく。


「柳(やなぎ)くん、何ニヤニヤしてるのー?」

「ん〜?もうすぐ夏だよねぇ〜。夏、超好きなんだ〜。ヒマワリとかきれーだしぃ」

「柳くんらしくない事言うね。あっ、放課後部屋で待ってるからっ」


女みたいな男は頬を赤らめて言ってきた事に適当に笑って頷いた。
俺らしいって、何?
中学の時に見た目を派手にして適当に笑ってたら気付いた時には頭が軽くてチャラいイメージを持たれてた。
自分に似合いそうな格好をして、仲良くなる気がない奴らに適当に愛想を振り撒いただけなのに。
移り行く季節を感じるのが好きなのに「らしくない」と言われる。
これが俺なのに、誰一人理解してくれなかった。

それから本心を隠した適当な生活を送って高校に上がった。
外部の高校に入学して本当の俺を理解してもらいたいと思っても結局同じ事を繰り返すだけだと諦めた。
入学式にはどの桜も満開だった。
堂々と咲き誇る凛々しい姿も美しいけど吹いて散りゆくその儚げな様子もまた美しい。
思わず見とれていたけどふと意識が現実に戻る。
この感動を分かち合える人間が居ない事に酷く感傷的な気持ちになった。


「すっ、げぇ…綺麗…」

普段なら聞き逃すような小さな声にゆっくりと振り向くと口を開けて桜を見上げている3年生の姿があった。
パッとする見た目ではないしこれと言って特徴もない。
それなのに桜を見上げている瞳は凄く澄んでいて目が離せなかった。

「柳くんっ、こんなとこでぼーってしてないで行こうよ」

「え、ああ…うん」

名前もろくに覚えていない男に手を引かれている間も俺は彼の姿を見つめた。
この人なら俺を理解してくれるかもしれない。



それから彼を下駄箱で見て名前が分かった。
彼は高橋 圭介(たかはし けいすけ)と言うらしい。
その日、俺は生まれて初めて手紙を書いた。
今までは伝える人が居なくて日記に綴るだけだった内容を書いて彼の下駄箱に入れた。
こんな手紙に返事なんか必要ないから名前は書かなかった。
ただ、この人に俺の思いを聞いてほしかった。


手紙を入れて数日、相変わらず愛想を振り撒いて笑ってる。
今日の相手は3年の人らしくて下駄箱まで一緒に行くと先輩の姿があった。
手には手紙を持っていて靴を履いた後、それを上履きと一緒に入れてた。


次の日の朝早く、震える手で先輩の靴箱を開けたら大きく『拝啓』と書かれた手紙が一通。
恐る恐る封筒を開けたらそれは俺の手紙への返事だった。
書き慣れていないからかところどころ変な所があったけど一生懸命答えてくれてる。


「ありがとう…」

誰か分からない奴に、こんな素敵な手紙をくれて。
あの日、先輩を見かけて本当に良かった。
今はまだ貴方の前に姿を出す勇気は無いけど、いつかちゃんと名乗りますから。
これからも宜しくお願いします。




前略
僕は至って健康です。
高橋先輩こそ、受験勉強でお忙しいのではありませんか?
時節柄ご自愛下さい。
僕も向日葵が咲くのが待ち遠しいです。





2011/07/02
お相手は感傷的なチャラ男です。
彼は見た目や話し方の所為でなかなか理解してもらえません。なので他愛ない話をする相手も居ませんでした。
『拝啓』のあとがきに書いた通り、シリーズか中編を予定してはいましたがこれで終わりだと思います。
話の流れに関係無くこの2人を書いちゃうかもしれませんが(笑)


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