必要不可欠 | ナノ
 



空季(くうき)を守る為に言ったのにその言葉で傷付けた。
1番大切な奴を俺が傷付けたんだ。



俺の手を握る手はいつの間にか俺よりでかくなっていて…いや、最初から俺よりでかかったか。絶対抜かしてやるって決めてたのによ。
でも顔は成長したけどまだ幼さが残ってて可愛いままだ。
やっと生きてる心地がする。
空季が居たらそれで良い。



いつからかなんて昔過ぎて忘れた。
生まれた時から隣に住む幼馴染みが大好きだった。
子供の頃から俺よりでかくて、でも少し臆病で俺の後ろをちょこちょこついてくる。
そんな空季が堪らなく可愛くて性別とか関係無しに惚れたんだ。
幼いながらにも惚れたこいつは一生俺が守るって決めてた。

でも成長するにつれて俺の周りには人が増えた。
その所為で元々引っ込み思案で人見知りの空季は俺から離れようと少しずつ距離を取る。
ずっと一緒に居る幼馴染みが離れたら寂しいとか思わねぇのか?少なくとも俺は思うぞ。
逃がさないようにある日、いつも以上に空季に話し掛けた。
距離を取らせてたまるか。俺にはお前が必要なんだよ。どっか行こうとすんな。

そしたら、1人の女が言った。
「地味のくせに」
その言葉に一気に頭に血が上ったのを鮮明に覚えてる。
地味だから何だよ。少なくともお前と比べもんにならねぇぐらい大切なんだよ。
お前に空季の何が分かる。
俺には空季が必要なんだよ。

『いいか、こいつは俺の空気だ。傍に居ても気にすんな』

いつも当たり前のように傍に居て、存在する事が自然。生きるには必要。なくてはならない存在。
だから空気って言ったのに周りは一斉に笑い出した。
違う、そんな意味じゃねぇ。
慌てて空季を見たら眉間に皺が寄ってる。
空季は本当に優しくて何があっても絶対怒らない。
あれは、泣くのを我慢してる顔だ。
守る筈の言葉であいつを傷付けた。
弁解しようとしたけど空季はもう居なくなっていた。
昔から、変わらない。
あいつは泣きそうになったら誰も知らない所で泣くんだ。
ごめんな。
違うんだよ。
でもその言葉は言えないまま、俺はあいつを守れなかった。

その事をこっそり空季の母さんに相談したら助け船を出してくれた。
至ってシンプルで、久し振りに俺に会いたいから一緒に帰ってこいって空季に言ってくれたらしい。
空季が話し掛けやすいように1人で教室を出たら案の定空季に声を掛けられる。
あとは俺次第だ。
ちゃんと誤解を解けよ俺。



「こうやって手を繋いだらちっちゃい頃みたいだね」

「おう…」

そんなこんなで誤解は解けたけど…空季、言葉の意味理解しきれてねぇよな?
あれ、一応告白のつもりだったんだけど…いや、回りくどい俺の所為か。
でもこんな所でビシッと決めろとか無理だろ。
人目もあるしよぉ。
それなのに嬉しそうに笑ってくれちゃってよぉー…。
あー、あの笑顔はやべぇわ。思わずキスしそうになったし。
ふにゃって締まりなくて八重歯が見えるあの笑顔はやべぇ。絶対他の奴に見せらんねぇ。

「そういえば日向(ひなた)、背ぇ伸びたね。母さんが見たらビックリするだろうなぁ」

何が背ぇ伸びただよ。お前の方がデカイだろ。
ああー、何でお前も伸びんだよっ!
何の為に毎日カルシウム摂りまくったと思ってんだっ!お陰で骨強くなったけどなっ。
空季が男の俺に惚れる確率は低いけどまぁ…女に興味無さそうだし、男同士とかそんなハンデも跳ね返すぐらい良い男に成長してやる。
あとカルシウムも摂り続けるか。まだ伸びろ俺。

「背ぇだけじゃなくて格好良くもなっただろ?」

「えっ、その、あのっ…うん。凄く格好良くなったよ」


冗談で聞いたのに空季の顔が心なしか赤い。
もしかして、恋人同士になれんのはそう遠くねぇかも?





2011/06/06
『空気のような存在』の攻め視点です。
実は日向の方がずっと空季を好きで依存しています。
ただ彼は色々回りくどくて気付いてもらえてませんが(笑)
空季のお母さんに相談したのは空季を傷付けて弁解するタイミングがないって言っただけで空季を嫁に下さい的なカミングアウトではないです。
機会があればまたこの2人も書きたいなぁと思います。


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