空気のような存在 | ナノ
 



『いいか、こいつは俺の空気だ。傍に居ても気にすんな』

俺はただの空気。
居ても居なくても気付かれない存在。



「日向(ひなた)ー、今から一緒に遊びに行こーよーっ」

「あー、悪ぃ。今日はこいつと帰るわ」

「えー、空気君とー?」


クラスの派手な女子が俺を睨んでくる。
俺は悪くないけどあんな派手な顔で睨まれたら怖くて咄嗟に眼鏡を持ち上げて顔を逸らした。

空気君は俺のあだ名。
本当は空季(くうき)って名前なんだけど、誰もそれを知らない。
知ってるのはこの男だけ。

「今日はこいつのおばさんに呼ばれてんだよ。行くぞ空季」

「うん」

この男、日向とは家が隣同士の幼馴染み。
生まれた時から家族ぐるみで仲良くしてる。
でもそれを知らない人から見たら俺たちの組み合わせはおかしいとしか思えない。
いつもクラスの中心に居て、それこそ太陽のように眩しくて明るい性格の日向。
地味な上に根暗で、居ても居なくても気付かれない存在の俺。
正反対な俺達。

だから俺は日向に惹かれた。

いつの間にか目で追っていて、気付いたら日向を好きになっていた。
男が好きなんじゃない。日向だから好きなんだ。
でも日向はモテるし、何よりも変わってしまった。
昔は優しかったのにいつだったか俺の事を『こいつは俺の空気だ』って言い出した。
いつも俺を庇ってくれてた日向も周りと同じような事を思ってたんだ。

日向に好きになってほしいとかは思わない。
心配しなくても日向は女の子に不自由しないんだし男の俺をそういう目で見る事はない。
こんな風に幼馴染みの男に恋する馬鹿は俺だけで良い。
日向には将来家庭を築いて幸せになってほしい。
結婚する時、1番に知らせてくれたらそれで十分だ。


「……こうやって一緒に帰んの、久し振りだな」

「そう、だね」

日向に空気って言われてから2人きりになるのを避けてたから本当に久し振りだ。
嬉しいけど胸が苦しい。


「お前さ、勘違いしてねぇ?」

「え…何が?」

突拍子もない日向の言葉に思わず立ち止まってしまう。
すると日向は俺の真正面に立って見つめてくる。
そういえば、こうやってちゃんと日向を見るのも久し振りだ。
日向は本当に格好良くなって俺には眩しすぎる。

「お前は俺の空気って意味」

「あ…」

一瞬、名前を呼ばれたような錯覚をした。
大丈夫、勘違いなんかしてないから。

「名前だなんて勘違いしてないよ。居ても居なくても気にするなって意味だろ?」

「……勘違いしてんじゃねぇか」


精一杯笑って答えたのに日向は不機嫌そうに俺を見上げる。
眼鏡のレンズが分厚くて良かった。
勘違いしてないから安心して。
だから睨まないで。
日向に睨まれたら俺、泣いてしまいそうだから。



「…だから、そういう意味じゃねぇんだよ」

「何、が?」

「俺の空気って意味」

日向は下から俺の顔を覗き込むと腕を伸ばして優しく頭を撫でてくれた。
その行動が懐かしくて思わず頭を軽く下げる。

「いいか?空気は無いと死んじまうんだぞ。生きるには必要不可欠なんだよ」

「それって…」

伝わる体温に、発せられる言葉に鼓動が高鳴る。
俺は夢を見てるに違いない。

「お前は、空季は俺には必要不可欠って言ってんだよ。周りが何と言おうとお前は俺の傍に居ろ」

「んっ…」

そう言って眼鏡を外されて少し乱暴に制服の裾で顔を擦られる。
ああ、そうだった。
日向は昔から俺が泣きそうな時は気付いてこうやって擦ってくれた。
痛いけど優しくて、いつもその後は…


「ありがと」

「…その笑顔も久し振りだ。何か言われたら俺に言えよ?」

「うん」

いつもお互い笑い合って手を繋いでた。
昔を思い出してそっと手を繋ぐ。
日向は何も変わってなかったんだ。
成長しても昔みたいに俺の傍に居てくれる。
なんて幸せなんだろう。
日向、俺の分も幸せになってね。





2011/06/06
対照的な幼馴染みのお話です。
日向は決して小さくないですが空季がそれ以上に大きいです。
178cm×187cmぐらいです。
こちらは攻め視点もお楽しみいただけたら嬉しいです。


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