拝啓 | ナノ
 



最近、暑さが増してきましたね。
もう梅雨の時期になるのかと思えば少し気が重いです。
でも、その後直ぐに大好きな夏が来るのかと思うと楽しみで仕方ありません。
季節の変わり目で体調を崩しやすい時期ですが、高橋先輩は体調を崩したりしていませんか?





「あった…」

連休も終わり、俺は真っ先に下駄箱に向かった。
連休中も周りとは違って密かに学校を楽しみにしていた。
その理由は俺に宛てた手紙だ。

中等部からこの閉鎖的な全寮制の男子校に入学した。
そこは男同士の恋愛は当たり前の世界でかなり衝撃を受けたのを覚えている。
ただ、その当たり前は美形に限る。
恋愛が成就するのは美形同士ばかり。
俺のような影が薄い存在には無縁だったし興味も無かった。


でも3年になったばかりの春、そんな俺の下駄箱に1通の手紙があった。
入れる場所を間違えたのかと思っても封筒の宛名はしっかりと高橋 圭介(たかはし けいすけ)と書いてある。

間違い無く俺に宛てられた手紙だ。

今まで目立たず生きてきたのに何で俺なのかが気になる。
まだ朝早くて人気があまりない廊下を歩きながら封筒を開けた。


そこには好きですとか放課後校舎裏に来て下さいとか、告白の言葉は無い。
本当に普通の手紙だった。
綺麗な文字で繊細な印象を受ける文章で書かれた手紙。
俺の知り合いにこんな手紙を書ける人は居ない。
何で俺なのか、そんな事は考えなかった。
ただ、この手紙の主に少し惹かれた。
単なる好奇心だったんだと思う。

俺を選んだ理由は分からないけど、俺は拙い言葉で返事を書いた。
手紙の主は一切自分の名前には触れていないからどうしようも無く、その返事を自分の下駄箱に入れた。
わざわざ俺の下駄箱を覗いてくれるとは限らないけど、もしかしたら気付いてくれるかもしれないと思って。
名前が分からない代わりに宛名に『拝啓』と書いた。


最初何日かは下駄箱に手紙が入ったままだったけどずっと入れていたらある日手紙は無くなっていた。
そして次の日から俺達は文通をするようになった。


話している内に彼は俺より2歳年下という事が分かった。
文章からして落ち着いた感じがしていたから年下と知って驚いた。
でも年齢は関係ないか。
彼は周りにこんな他愛ない話をする相手が居ないらしい。
それで何と無く、俺を選んだと言っていた。
交友関係が心配だけどどんなきっかけであれ、俺はこの出会いを嬉しく思ってる。
彼が俺に手紙をくれなければ残り1年の学校生活も惰性的に送っていた。
こんな風に季節の変わり目を改めて感じて心を踊らせたりはしなかった。


まだ名前は知らないけど、少しずつ彼の文章や雰囲気に惹かれている。
会いたいと思わないといえば嘘になるけど。
今はただ、彼との会話を楽しみたい。







拝啓
俺は体調を崩していませんよ。
君こそ、今年から環境が変わったから疲れてない?
夏が好きなんですね。
俺も夏が大好きです。
夏を迎える合図なら、梅雨も好きになれそう。
早く夏が来てほしいなぁ。






2011/05/09
これだけだと何が書きたかったのかよく分からないものになりました。
本当はこの話をシリーズか中編辺りで考えていたのですが、結末は違いますが手紙をモチーフにしたこれに似た内容の映画が夏か秋かに上映される事になったので取り敢えず書いていた最初の部分だけ短編として載せてみました。
これだけだとBLかどうかすら危ういという…(笑)
ずっと暖めていた話なのでせめて書いた初めだけでも、と思って載せました。


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