卒業 | ナノ
 



前略
明日はいよいよ卒業式ですね。
高橋先輩、ご卒業おめでとうございます。
これで先輩と手紙を交わすのも最後になりますね。
今まで有り難うございました。
貴方と手紙を交わした毎日がとても楽しかったです。
素敵な思い出を有り難うございました。




俺は今日、この学校を卒業した。
長いようで短かった学校生活は終わってしまうと呆気なく感じる。
でもこんなに卒業が寂しいと思うのは間違いなく彼と手紙を交わしたこの一年余りの時間が楽しかったからだ。

でも手紙のやり取りをしていた俺の下駄箱はもう無い。

卒業証書と行き場を無くした手紙を握り締め、空から降り落ちる雪の中を歩いてた。

「高橋せんぱぁい、ご卒業おめでとぉございまーす」

「あ、斎藤君…ありがとう」

こっちに手を振ってくるのは二つ年下の斎藤 柳君。学校でも有名な遊び人で俺とは正反対な彼に何故か懐かれていた。
彼は一年生だから卒業式に参加していない筈なのに何でいるんだろう。


「センパーイ、今日は雪ですねぇ」

「そうだね」

おもむろ空を見上げた彼は何処か寂しそうな瞳をしていた。


「この雪が止む頃には先輩は居ないんですねぇ…」

「そう、だね」

普段の彼らしくない声に驚いた。
いつも軽く楽しそうに話す彼と雰囲気が違う。

「日差しに照らされて雪が桜みたいだ…雪の桜に見送られて卒業なんて風情がありますね」


彼から紡がれた言葉に目頭が熱くなった。
何で今まで気付かなかったんだ。
今思えば俺と彼が出会ったのはいつも季節を感じてる時だった。
そしていつも、季節を見ていた。

俺は彼の方を見るなり手に持っていた手紙を差し出していた。


「……拝啓っ」

もう届けられないと思っていた手紙。
彼に宛てた高校最後の手紙。
差し出したけど、俺は手紙に書いた言葉を紡いでいた。


「俺はっ、今日でこの学校を卒業しましたっ!俺の方こそ、沢山の思い出をありがとう…君が、斎藤君がいてくれた、から…楽しくてっ…」

「せん、ぱい…」

涙が止まらない。ずっと伝えたかったんだ。
手紙だけじゃ伝えきれないこの気持ちを、直接君に届けたかった。
やっと君に届けられる。


「俺はもう、卒業して居なくなるし、下駄箱もなくなるけどっ…これからも、これからも俺と文通してくださいっ。一緒に季節を、楽しんでくださいっ」

「……そんなの、嫌です」

顔を上げると斎藤君も涙が溢れている。
震える手が差し出した手紙を握るとそのまま俺の腕も掴んで抱き寄せた。

「文通だけじゃ足りません。これからは一緒に色んな季節を楽しみましょう?花見に、貴方の好きな向日葵に、花火も…これからは一緒に見ましょう?」

「うんっ…」


雪が降り注ぐ中彼があまりに嬉しそうに笑うから、俺も自然と抱き締め返した。



変わりゆく季節の中、俺達の関係も変わりゆく。
手紙を交わしても、これからの季節は彼と共に。



2012/02/29
四年に一度しかないこの日にどうしても書きたくて書きました。ずっと温めていた『拝啓』の最終回です。
高橋君が卒業したので一先ずこの二人のお話は完結です。何だかんだで結構この二人を書いちゃいましたね(笑)


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