口にするのは容易いけれど | ナノ
 



怠ぃ。
最近生きる事が怠くなってきた。


毎日が惰性的に過ぎていく。
毎日同じ。
俺の噂を聞いて喧嘩を売ってくる奴等に嫌気が差す。
俺に媚びて寄ってくる奴等に吐き気がする。
終わる事無く続くサイクル。
こんなにつまらねぇ人生に何の価値があるんだ。




「そんな怯えんなって〜。持ってる金全部寄越したらお友達の場所まで連れてってやるからさ〜」

今は誰とも関わる気分になれなくて人気の無い道を意味もなく歩いていたら耳に届いたしゃがれ声。
視線を向けた先にはこの辺りでもガラが悪いと言われてる不良達が居た。
奴等の隙間から見えた制服は見慣れない。
でも同じ制服を着た奴等が土産屋ではしゃいでいたのを思い出す。
運が悪い奴だな。修学旅行先でカツアゲに遭うなんて。

俺は正義感が強い訳ではない。
別に修学旅行生がどうなろうと関係ない。
ただの暇潰しだ。
自分に言い訳をするように胸の内でぼやいて殴りかかろうとする緑頭の腕を掴んだ。


「テメッ、何してやが…」

「黙れ」


緑頭が俺の顔を確認する前に膝蹴りを腹に噛ました。
他の奴等も俺が誰か気付いたみたいで逃げようとするけど、俺は優しくない。
全員捩じ伏せないと気が済まなかった。



漸く満足して馬鹿共が囲んでいた修学旅行生に視線を向ける。
あまりに小さくてちんちくりん。
それが俺の印象。
こんな奴なら喧嘩に巻き込まれたりもしないだろうな。
怖がらせてしまったのか固まったままだ。


「お前」

「うぇっ、はっ、はい!」

「怪我は?」


怖がらせたのかと思ったが話し掛けたら目を輝かせている。
でも、媚びてる目じゃない。
純粋に輝いている。
こんな人種、俺の周りに居た事が無かった。
だからだ。
どう接したら良いんだ?
放っていくとまたどっかの不良に…なんて、心配している自分が居る。
放っておけば良いのに、放っておけない。
気がついた時には手触りが良いとは言えない黒髪を撫でていた。


「なっ、ないですっ」

「そう。お前、迷子?同じ制服着てる奴見たから連れてってやる」


ただそれだけの事なのに嬉しそうに笑う。
その表情は本当に何処までも純粋だ。
さっきあんな目に遭ったのに同じような見た目の俺には警戒していない。
嫌がる素振りも見せずに素直に後に続いて歩く。
無意識に握り締めた手に力が籠った。

決して早く歩いてる訳でも無いのに惰性的に響く鼓動が速まっていく。
この感覚は初めてなのに、何と言うかは分かっている。
自分には無縁な感情だと思っていたのに。



「ほら、戻れよ」


言葉とは裏腹に離したくないと思ってしまう。
でもそれは俺だけじゃないようだ。
こいつの瞳も揺れている。
そんな顔、するなよ。


「あのっ、本当に有り難うございました!良かったらお名前を…」


言い終わるよりも前にキスをしていた。
殆ど無意識の行動だ。
そういえば、キスするのは初めてだな。
こいつも初めてか。
顔が真っ赤。
自然と笑みが込み上げてくる。


「……名前は次会った時な」


ただそれだけを残して立ち去った。
暫く歩いてアイツの制服を思い出す。
あの制服を着ていた奴らは男の集団しかなかった。
という事は、男子校か。
修学旅行に来ていたという事はそこそこ遠い場所だろう。
俺もお前を知らない。
それでも必ず見つけてみせる。


俺の名前を教えてやっても良い。
それぐらい容易い事だ。
でも、教えたらキスの思い出も共に直ぐ記憶の中へと埋もれてしまうだろ?
俺を惚れさせておいてそんな事が許される筈がない。
俺との再会をずっと待ち詫びたら良い。

再会する時まで、忘れるんじゃねぇぞ。





2011/02/17
お題サイト瞑目様から拝借しました。
以前に書いた『修学旅行先での逢い引び』の攻め視点です。
続編を読みたいとコメントをいただきましたが続編の前に攻め視点を書きたいなぁと思って書きました。


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