世界をかえさせておくれよ | ナノ
 



「嘘」

「ほ〜んと」



結局午前中は瓶に入った飴玉の意味が解らないまま終わった。
火野君に直接聞こうと思ったのに休み時間ごとにどっかに行ってしまうから本人に聞けない。
そして昼休みも1人考えたけど相変わらず。
午後の授業が始まって残り時間はこの休憩時間と次の授業のみ。
それでもまだ見当すらつかない。
だから最終手段で隣の席の金野に聞いてみた。
金野は情報通だけど口が軽いから聞きたくない…でもこいつなら知っているはずだ。
目尻がつり上がった細い目で俺を見つめてにやついている。
素直に教えてくれないか、と思った時金野は口を開いてこう言った。
お返しが飴だと『交際します』という意味だと。


「嘘」

「ほ〜んと。だから火野は拗ねちゃったんだよ」

だって火野君が?俺を?
バレンタインのチョコの意味に気付かれていただけじゃなくてオッケーだなんて夢としか思えない。

「だって、僕がホワイトデーのお返しのアドバイスしたんだもん」

「えっ!?」

更に衝撃的な言葉に声を上げてしまった。
火野君が金野に相談したって事は間違いなく、学校中にこの話は行き渡っている。
朝の視線は気の所為じゃなかったのか…!


「全く、水谷は鈍いねぇ。あんなに火野に好かれてるんだし自惚れても良いのに」

「えっ、そんなっ」

「火野はねぇ、水谷のお陰で世界が変わったんだって」

「世界?」

「そう。1人孤独だった火野は最初に手を差し伸べてくれた水谷のお陰で世界が変わったの。僕に話し掛けるのだって、前の彼じゃ考えられないしねぇ」


楽しそうに笑顔を浮かべたまま金野は淡々と話す。
こいつの情報に嘘は無い。
じゃあこれは嘘のような本当の話なんだ。
状況を把握してくると少しずつ顔に熱が帯びていく。
授業が始まるチャイムが鳴り響いた。


「今の火野はねぇ、君のお陰で楽しそうだよ」


金野の声が耳に届いた頃、後ろで椅子を引く音が聞こえる。
先生の声なんて聞こえない。
それなのに後ろから聞こえる些細な音に反応してしまう。
飴玉の意味を理解した今、普通に出来ない。



俺が火野君の世界を変えた?
そんな大それた事をしたなんて思えない。
俺はただ、彼を知りたかっただけだ。
彼がどんな風に笑ってどんな風に喋って、どんな事を考えるか知りたかっただけだ。
知る度に惹かれていっただけ。
それだけの事なのに。

火野君の世界が変わったから、火野君は俺に挨拶をしてくれるようになった?
プリントを配った時も何処かぎこちないけど笑ってくれる。
確かに前には考えられなかった状況だ。

それが彼の世界が変わったからと言うならもっと彼の、火野君の世界を変えたい。




授業も終わり担当の先生が教室を出ていこうとする。
2人の時に言うとか考えられない。
今すぐ、彼に想いを伝えたい。
先生が出ていった瞬間、勢い良く立ち上がって後ろを振り返る。
火野君が驚いた顔をしている。
その表情も愛おしいからどうしようもない。


「ふっふっ、不束者ですがこれから宜しくお願いします!」


勢い良く頭を下げた所で我に返る。
あれ?いつもなら授業が終わったら周りは煩くなる筈なのに俺の声がよく響く。
恐る恐る顔だけを横に向けたらにやついている金野に驚くクラスメイト達。
教壇の方から担任の咳払いが聞こえる。
しまった。
これが最後の授業だったんだっけ。
じゃあ今は終礼の時間。
担任が来たから皆静かに座っている。
立っているのは俺だけ。


「ぷっ、はははっ!水谷やるぅっ。やーっと公認カップルだねぇ。おめでとうっ」

沈黙を破るように金野が笑い出して拍手するもんだから事情を知っているクラスメイト達も拍手する。
それにつられて訳が解らないと言わんばかりの表情をしている担任まで拍手し始めた。
は、恥ずかしい…!
俺、とんでもない事口走った。
不束者ですがとか、結婚するみたいじゃないか。
恥ずかしくて顔が上げられなくなってるとガタッて前から音がした。
両手で頬を包まれ下げたままだった顔を上げさせられて火野君と目が合う。
火野君の顔真っ赤。


「お前はっ…ただ分かったって言えば良かったのに人前で何言ってんだよ…」

「ご、ごめんっ…その、これから宜しっ…」

あまりに火野君が照れ臭そうにするから思わず笑ってしまう。
頬に添えられた手に力が籠った。
視界は火野君しか映らない。
唇に柔らかい感触。
まさか、キスしてる?
この状況は流石に恥ずかしいよ。
先生には明日謝ろう。
今日はもう顔合わせられない。

でも今この瞬間、凄く幸せだ。



「火野君、見せつけてくれるねー。公衆の面前で誓いのキスをするなんて、ますます結婚するっぽいよねぇ」

「……うっせ」


金野の言葉で火野君が更に赤くなる。
俺も顔が凄く熱い。
皆の注目を集めてなんだけど、もうその暖かい眼差しで見ないでほしい。


「水谷」

「は、はい」

「……これから、宜しく」

「っ…こちらこそっ!」

君の世界がこれからも変わっていくのかな?
変わったらもっと君の事を知る事が出来そうだよ
もっと君の事を知りたいから、
これからも君の世界に俺も置いて下さい。
不束者ですが、これからも宜しくね。





2011/03/14
『気持ちのお返し』のその後です。
今回のお話は凛斗が大好きな曲名をタイトルとして使わせていただきました。
曲名は著作権に引っ掛からないそうです。

座席シリーズの2人は晴れて公認です。
火野×水谷ですが水谷がリードしてくれる予定です。
彼はテンパると大胆な行動に出るので。


2011/03/24
加筆。





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