気持ちのお返し | ナノ
 



今年のバレンタイン、思い切って火野君にチョコを渡した。
今更思い切り過ぎたと後悔している。
3月14日、今日はホワイトデーだ。



席が前後になった事で俺と火野君は仲良くなった。
火野君は不良だけど実は真面目で優しい。それに格好良い。
俺と喋るようになってから周りも少しずつ火野君と喋るようになった。
だから、焦ったんだ。
今まで俺だけが知ってた筈の火野君が周りにも知られちゃって焦ったんだ。
火野君の魅力に気付いた誰かに火野君を取られるんじゃないかって。

その結果、バレンタインにチョコを渡しちゃった。
しかも手作り。

あの時の火野君、キョトンってしてたなぁ。
新たな一面が見れて嬉しかった。
でも引かれたら嫌だから咄嗟に「いつもお世話になってるから!」とか言ったけど火野君にお世話になった記憶無い。
黒板が見えない火野君にノート貸したりしているけど。
寧ろ、火野君の方がお世話になっているよ。

チョコを渡したぐらいで俺達は変わらない。
ちょっと寂しいけど仕方ない。
火野君はそういう目で俺を見てないんだから気付かないんだろうな。
だから一人相撲だったんだ。
大体、恋人なら未だしもただの友達…と言っても良いのか曖昧な俺が何で焦るんだよ。
そんな権利無いって。


「はぁ〜…」

思わず溜息が出てしまった。
チョコを渡したからには少しお返しを期待してしまう。
チョコに乗せた気持ちに気付いていたらどうしよう。
ホワイトデーに断るとか有り得る。
そんな事を考えてたらまだ朝礼すら始まっていないのに憂鬱になってきた。
机に肘を付いて黒板の上の時計を見る。
あ、もう直ぐ火野君が来る時間だ。



「水谷」

「ん?火野君おは…よ?」

憂鬱でも今か今かと待ってたら登校してきた火野君が目の前に立つ。
前の席の子は座れないから立ってるんだけど何だろ、あの暖かい眼差しは。
隣というか周りからも視線を感じる。
火野君を見上げたら真剣な顔をして目の前に何か出してきた。

「えっ、あの、これ…」

「……バレンタインのお返し」

「く、くれるの?」

周りの視線があるからか火野君が控え目に呟く。
学校に来て直ぐに渡してくれるなんて。
律儀だ。

「開けていい?」

「勿論」


赤い紙袋の中に手を入れて取り出したのは片手で持つには丁度良い大きさの可愛い瓶。
中にはカラフルな飴玉がいっぱい入ってる。
これ、火野君が選んだの?

「ぶふっ」

「!?何で笑うんだよっ」

「だっ、だって…」


火野君がこの瓶を選んでる姿を思い浮かべたら笑ってしまった。
想像したら凄く微笑ましいんだから仕方ない。

「気を遣ってくれなくても良かったのに」

そんな事言いつつも本当は凄く嬉しい。
やっぱり俺の気持ちには気付いていないみたいだ。
火野君の事だから貰ったからにはお返ししないといけないって思ったんだろう。
それでも良い。
火野君がお返しをくれたのが嬉しい。



「……水谷、意味分かってねぇだろ」

「えっ、何が?」

首を傾げたら周りからも溜息が聞こえる。
だから、何?

「……そのお返しには意味が込められてんだよ。今日中にその意味を分かれ」

ちょっと不機嫌そうに言ってから火野君は後ろへと移動した。
視線を飴玉の瓶に移す。
これにどんな意味が込められているのだろうか。

火野君には悪いけど今日はまだ始まったばかりだ。
気長に考えよう。





2011/03/14
ホワイトデーなのでそれっぽく書いてみました。
座席シリーズの2人です。
ホワイトデーのお返しには
「キャンディー」=交際申し出OK
「クッキー」  =お友達でいましょう
「マシュマロ」 =ごめんなさい
という意味があるらしいです。
火野君はちゃんと水谷君の想いに気付きました。





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