次の科学の授業が始まり実験室へ移動になった。
それなのに、彼はまだ帰ってこない。
真面目な彼が授業に遅れるなんて初めてだ。
皆が移動しようとする中、俺は先生に彼を待つと告げた。
それを聞いた先生や周りの皆は驚いたように見てから任せたと力強く肩を叩かれた。
先生含め周りはまだ彼の事が怖いみたい。
自分の席に座って彼を待つ。
彼の寝顔を見た時のように教室に差し込む日差しが暖かい。
日差しに誘われいつの間にか机に突っ伏して眠ってしまった。
「ん…う…」
唇に何か暖かい心地良いものが触れたような気がしてゆっくりと目が覚めてく。
そうだ、彼を待ってる間に眠ってしまってたんだ。
重い瞼を開いた先には俺の顔を覗き込んでくる彼の顔。
日差しの所為か、少し顔が赤く見える。
「起きたか」
「えっ、あの…いつからっ…」
「さっきから。気持ち良さそうに寝てたから起こすに起こせなかったんだ」
吃驚して一気に目が覚めた。
あんなに近く彼の顔を見るなんて。
それに今、彼と普通に話してる。
「そっ、そういえばっ。教室、移動になったんだよっ」
彼と話してるって意識したらぎこちなくなってしまった。
周りを見ただけで分かると思うけど一応先生が黒板の真ん中に書いた教室移動という字を指差した。
彼は差した方を睨んでる。
ああ、眉間に皺が…あれ?
黒板を睨んでるというより目を細めて見つめる気がする。
もしかして…
「あ、あの。もしかして、目悪い?」
「えっ」
そんな気がしたから聞いてみたら視線がこっちに向けられる。
違ったのかな。
ただの癖かもしれない。
「何で分かったんだ?」
俺の前に立って見下ろすようにじっと強い視線で見つめられてる。
分かったって事はやっぱり目が悪いんだ。
そういえばこうやって真正面から顔見るの、初めてかも。
本当に綺麗で格好良いな。
「それは、一点を見つめて目を細めてるから。目が悪いなら一番後ろの席は辛いね。黒板見える?」
「いや…たまに見えねぇ」
「じゃあ俺のノート貸すよ」
今日のノートを取り出して彼に差し出す。
吃驚してる彼を見てやってしまったと思った。
つい、余計なお世話を…でも真面目な彼なら困ってるかもしれないし…。
「ありがと」
ノートを差し出して固まってたら小さく聞こえたお礼。
初めて聞いた時と同じ声。
彼を見上げたらちょっと照れ臭そうに視線を逸らしてる。
あの時もこんな顔をしてたのかな。
トクンと、鼓動が体に響く。
彼に惹かれていく。
「あ」
彼がノートを取ろうとした手を見たら関節の所に擦り傷がある。
よく見たらシャツの袖には血が付いていた。
「ほっ、保健室っ!」
渡そうとしたノートを机に置いて椅子から立ち上がる。
腕を引っ張っていこうとするけどなかなか動いてくれない。
「別にこれぐらいの怪我どうって事ねぇよ」
「駄目!傷口から雑菌入ったら困る!」
引っ張っても引っ張っても動く気配が全く無い。
何とか説得しようと顔をしっかり見つめる。
彼は眉間に皺を寄せてるけど睨んでる訳じゃない。
俺と同じようにしっかり見つめてくれてるんだ。
それが分かったらもう彼に怖さなんか感じない。
「ほらっ、火野君早くっ」
急かすように彼の名前を呼んだ。
結構大きい擦り傷だから早く消毒しないと。
力を込めて腕を引っ張ったのに彼を見上げると腕の力が抜けてしまった。
火野君が、笑ってる。
さっきから眉間に皺を寄せて淡々と話すから無表情なのかなとか思ったのに笑ってる。
穏やかで優しい笑顔。
見とれない筈がない。
「おい。保健室、行くんだろ?」
「えっ、あっ、うんっ」
さっきとは反対に火野君に引かれて教室を出ていく。
火野君が前を歩いてくれてて良かった。
どうしよう。
俺、絶対顔真っ赤だ。
2011/03/01
お題サイト確かに恋だった様から拝借しました。
『眠るきみに秘密の愛を』の続きで受け視点です。
攻めの方だけ名前を出してみました。
受けの方の名前も出せたらなぁと思います。
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