眠るきみに秘密の愛を | ナノ
 



何処でも同じだ。
周りは俺を腫れ物のように扱う。
冗談じゃねぇ。
俺はお前らとそんなに変わらない人間なんだぞ。


席替えをする時、何故か窓際の一番後ろに座るように言われた。
別に頼んでもねぇのに。
元々クラスの人数が奇数なのもあってか俺の隣は空席だ。
寧ろ机すらねぇ。
要は俺と関わる人間を極力減らしてるんだろうな。

周りよりちょっと体がデカイだけで喧嘩を売られる。
やられる前にやれば立派な不良という称号が付いた。
いつも不機嫌そうだの目付きが悪いだの言われるけど仕方ねぇ。
俺は目があんま良くねぇんだよ。
コンタクトは合わねぇから眼鏡を掛けたいけど毎日のように喧嘩売られてたら掛ける気も失せた。
だから目を凝らして見てるだけなのに睨んだと言われる。
目付きが悪いんじゃねぇよ。目が悪いんだよ。
よく見ろよ。
俺は髪だって一度も染めた事がねぇんだぞ。
不良なんて程遠いのに。
そんな弁解を聞いてくれる奴すら居ねぇ。


席替えをして前に座るのは何処にでもいるような奴。
普通な奴だ。
こいつも同じだ。
後ろが俺だから緊張して体が強張ってる。
担当教師がプリント配り始めて肩が跳ねた。
こいつ、分かりやすいな。
どうせ他の奴らと同じ。
極力見ないように腕を後ろに回して手探りで机に置くんだろ。
そう思ったのに。

こいつは、こいつだけはちゃんと俺の方を見て配ってくれた。
しかも、机に置かずに手渡しで。
驚いて見つめてたら顔が引き攣ってる。
睨んでるとでも思ってんだろうな。

「ありがと」

ちゃんと俺を見てくれたのはお前が初めてだから思わず呟いた。
でもこいつからしたら何で礼を言われてんのか分かんねぇと思うけど言わずにはいられなかった。
そして、こいつの肩の力が抜けていくのが分かった。


それからもこいつはちゃんと俺の方を見て手渡しでプリントを配ってくれる。
ただそれだけの事が嬉しくて毎日休まずに学校に行った。
一度熱があって行った時は机に突っ伏して寝てたから手渡しじゃなく机の空いたスペースに置いてくれていた。
本当は手渡しで貰いたかったけどこいつは気を遣ってくれたんだろう。
ろくに話した事もねぇのにその気遣いだけでどんどん惹かれていった。


気が付けばあいつの事ばかり考えていた。
今では話したいだけじゃねぇ。
笑った顔が見たい。
出来るのならその柔らかそうな肌に触りたいとまで思っている。
これが恋という感情なのか。
あいつの事を考えているだけで満たされる。
あいつが俺の前の席で良かった。



授業が始まるから早く教室に帰ろうとトイレから出た瞬間知らねぇ奴らに絡まれた。
あいつと出会っても俺の日常は変わらねぇ。
自分を守る為に床に捩じ伏せた奴らを見下ろす。
こんな俺が、あいつを怖がらせない筈がない。
あいつを考えていても直ぐに現実に戻される。
俺は不良であいつは一般生徒。
俺がこんな想いを抱いたところで叶わねぇのに。

ポケットから携帯を取り出したらもう授業も半ばだ。
今更戻っても悪目立ちすんのは分かってるけど教室に戻りたい。
ただ、あいつの後ろに座って背中を眺めたい。



教室に戻って驚いた。
見渡しても誰も居ねぇ。
ただ一人を除いては。
確かこの時間は化学だ。
もしかしたら教室が移動になったのかもしれねぇ。
それなのに、何でこいつは居るんだ?
俺の前の席で突っ伏して寝てる。
振り向いた時にしか顔が見れないから自然と顔を覗き込んだ。
丁度顔がこっちを向いてる。
本当に特徴が無い顔してんな。
それなのに可愛くて仕方ない。

起こさないように少しずつ顔を近付ける。
こんな事、して良い筈がねぇけど抑えられない。
垂れた涎で濡れた唇に軽く吸い付いた。

今更自分のした事に自己嫌悪するけどそれ以上に胸と顔が熱くなる。
ろくに話した事もねぇのに、キスしてしまった。
こいつが起きなくて良かった半面残念にも思う。


なぁ、お前は起きたら何て言う?
ここに残ってた理由が、俺を待っていたからならすげぇ嬉しいな。
直ぐに俺の気持ちを押し付けたりしねぇから、
眠るお前にもう一度愛の証を。





2011/02/25
お題サイト確かに恋だった様から拝借しました。
『今はこれが精一杯で』の攻め視点になります。
シャイなのか手が早いのか分からなくなってしまった。





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