カラメルはほろ苦さを帯びて | ナノ
 



こんなに気持ちは初めてだ。
彼が店に訪れると心が踊る。



「いらっしゃいませ」

「店長さんこんばんは」


長年夢だった私の店。
時間がかかってしまったがやっと築く事ができた幸せの空間。
彼はその空間には足を踏み入れずいつもお持ち帰りをする。
私が作ったプリンを持って。




恥ずかしい事に私にはケーキを作る才能がない。
だからせめてもとパティシエの子達に教えてもらってプリンを作ることにした。
意外にもプリンを作る才能はあったみたいで直ぐに店に出しても恥ずかしくないものが作れるようになった。

でもこの店はオリジナルケーキが売り。
市販のものと然程代わり映えのないプリンはなかなか売れなかった。
売れ残っては閉店後に皆で食べるのを繰り返していたある日、彼は店に訪れた。

「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」

「いや、あの…持ち帰りで。このプリンを」

あの時の事は今でも覚えている。
制服姿で整った顔をした少年は無表情のままショーウィンドー越しにプリンを指差した。
初めて私のプリンが売れた。
その時はただそれだけが嬉しかったけど嬉しい事はこれだけじゃなかった。
その次の日、彼はまたプリンを買いに来てくれた。
笑みを溢して何の代わり映えのないプリンを美味しいと褒めてくれた。
その表情は店でケーキを食べるお客様と同じで暖かく幸せそうで。
私もパティシエの彼らのように人を幸せにする事が出来た。
そう思うと嬉しくてたまらなかった。




お持ち帰りのプリンを用意する間、彼はあの頃と変わらない笑みを浮かべる。
まだ少しあどけなさが残る笑みに胸が満たされた。
どうやら私は、軽く10歳は年が離れている彼に恋をしてしまったようだ。
店の入口で彼と話すこの数分が幸せでたまらない。
相変わらず売れ行きはよくないが彼が幸せそうに笑ってくれるなら私はプリンを作り続けよう。


「今日もいつもの貰えますか?」

「はい。プリン2つですね」


彼に一緒にプリンを楽しむ相手が居るとしても彼の為に。
この恋はまるでカラメルのようだ。





2011/12/02
久し振りの甘味シリーズは店長のお話になります。
店長は30代で相手の子は高校生です。
因みに店長が受けです。
少年は初めて来た時からいつもプリン2つだけを買って帰ります。
今回のお話はほろ苦い感じですが一応相互片想いです。


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