人間は顔じゃない。
彼と俺にピッタリの言葉だ。
「みっきー!いつものしてーっ」
「オッケーっ!可愛い君へ、届けマイラブ!」
「みっきー可愛いぃっ!」
ああ、またやってる。
ウインクしてからピースをした後にお客様へ投げキッス。
俺なら恥ずかしくて絶対出来ないよ。
でもそれが彼、幹久(みきひさ)こと通称みっきーの人気のパフォーマンス。
幹久は顔が良いわけでもないし背が高いわけでもない。
それでも彼は気が利いてノリが良くて楽しませてくれるからウエイターでは人気ナンバー1。
顔だけの俺とは大違いだ。
「栄喜(えいき)君、今日も素敵ですね」
「ありがとうございます」
「バカ、『貴方の方が素敵で見惚れてしまいます』ぐらい言えないのかよっ」
「みっ、幹久君っ…」
お客様に頭を下げていたら後ろから幹久に肩を組まれる。
幹久が来ると女性こ顔は赤く染まっていった。
どうやらこの女性も幹久が好きらしい。
店員としてではなく、1人の男として。
俺や他にも顔が良い人は人気があっても真剣な恋愛対象ではあまり見られない。
でも幹久を気に入っている人達は皆幹久と付き合いたいと言っている。
こんな人が恋人なら良いのに、と。
「素敵なお客様に俺から投げキッスをプレゼントっ」
「幹久君っ…」
「なぁ、久し振りに栄喜にもしてやろっか?」
「……いらない」
にやにや笑う幹久の手を払い除けて空いた席の食器を片付けていった。
誰にでもする投げキッス。
あれは元々、よくミスをしていた俺を励ます為にしてくれていたのに。
最初は同じ男にされても何とも思わなかったけど幹久の笑顔に、そしてあの投げキッスに元気付けられた。
それを幹久に伝えたらパフォーマンスとして周りに振り撒くようになった。
あんな安売りの励ましなんかいらない。
俺だけの、特別な励まし方が良い。
俺はいつの間にか同じ男なのに幹久を好きになってしまっていたらしい。
そう言っても気付いたのは最近だけど。
女性客に愛想を振り撒く幹久にイライラする。
最初は同じ男にそんな感情は有り得ない、そう何回も言い聞かせたけどやっぱり幹久が好きなんだという結論に戻る。
かといって告白する勇気はない。
「……あいつも女の方が好きだよな」
相変わらず笑顔で投げキッスを振り撒く幹久を遠目から見て溜息を漏らした。
俺だって女の方が好きだったし男から告白されても嬉しくない。
幹久なら告白されても右から左に受け流すのが上手そうだな。寧ろ俺が告白しても本気に取らないだろう。
不毛な恋だ。
男を好きになったんじゃない。幹久を好きになったんだ、俺は。
あんな投げキッスはいらないから、いつか俺だけを見てくれますように。
遠くに居ても栄喜の視線はすぐに分かる。
また不満そうな顔してるんだろうな、アイツ。
やっと俺を意識するようになった。
栄喜をずっと見てたんだ。アイツの気持ちにはすぐ気付いた。
ここまでの道程は長かったなぁ。アイツはノンケだし。
でも、まだまだ焦らしてやる。
俺はお前がミスばっかりしてた頃からずっと好きだったんだぞ。
お前からちゃんと告白するまでこのパフォーマンスは止めてやらないからな。
2011/06/23
タイトルはお題サイト確かに恋だった様から拝借しました。
ノンケ×ノンケに見せかけたガチです。
今回は最後に幹久視点で書いて2人の視点を1つのお話に纏めてみたのですが…分かりにくかったらすみません。
今回も仲良くして下さっているえいりさんにネタを提供していただきました。
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