甘いもの好きのワガママ王子。
俺は差し詰め、王子の従順なシモベ。
王子の為のパティシエだ。
「やぁん、珠樹(たまき)君の意地悪ぅっ」
「俺はいつだって優しいだろ?ねぇ、お姉さん」
「うふふ、そうね」
毎度の事ながらアイツの周りは常にハーレム状態。
顔良しな自分至上のワガママ王子。
それが年上のお姉様のツボを突いてるんだろ。
お姉様じゃないけど、俺のツボもしっかり突いてるんだよ。
何でアイツは毎回…人の気も知らないで。
小さい頃からいつも周りに女の子を侍らかせてる。
昔からそうだ。
「おい、神楽(かぐら)。俺様のケーキはまだか?」
「お前…もう3個目だぞ?食い過ぎだ」
「煩い。お前は俺のシモベなんだから早く用意しろ」
「……分かったよ」
そう、俺と珠樹は主従のような関係だ。
幼馴染みだけどワガママ王子の傍に居るには尽くすしかない。
だから甘党のコイツの為にパティシエになった。
カフェで働くようになったら案の定、毎日のように通ってくれてる。
ハーレム付きだけど会えないよりはずっと良い。
そうでもないと年の離れた、隣に居ても不釣り合いな俺が珠樹の傍に居られる訳がない。
情けないけど仕方ない。
シモベの道を選んだのは俺だ。
「お待たせ」
「あれぇ?神楽さん、アタシこのケーキ見るの初めてよぉ?」
「これは珠樹用に特別甘く作ってるんですよ。普通に作ったら甘さが足りないって言うんで」
「よく出来たシモベだろ?」
本当は体に良くないとか分かってるけど甘いのを作らないともう来ないって言うから珠樹用に作ってる。
しかも珠樹用のケーキの材料費は自腹だ。
ほんと、よく出来たシモベだよな。
ケーキを運ぶと俺はカフェの隅に移動して遠くから珠樹を眺める。
いくら来てくれても珠樹と俺は客と店員だ。
珠樹の傍にはずっと居られない。
前までこうやって美味そうに食べてる姿だけで満足したのに。
シモベなんだから高望みはしちゃ駄目だろ俺。
「いやぁ、彼はホントに君のケーキが好きなんだね」
「店長…アイツはすっごい甘党なんですよ。だから他の人のケーキは甘さが足りないって食べないんです」
「神楽君のケーキってそんなに甘かったかな?ねぇ、今度私にも作ってくれないかい?」
「店長にもですか?別に構いま「神楽!」
店長に作るなんて緊張するなぁと思ったら急に大きな声で呼ばれた。
振り返ると珠樹が不機嫌そうにこっちを睨んでる。
周りのハーレムもビビッてるじゃないか。
ガタッて音を立てて立ち上がった珠樹が俺達の方に近付いてきた。
いつも店の中では座ってるから気付かなかったけどこんなにでかかったっけ?
まだ高校生だもんな。成長ぐらいするか。
「神楽」
「なっ、何?」
力いっぱい肩を掴まれて動けない。
いや、掴まれてるからだけじゃなくて強い眼差しで見つめられてるから。
やっぱ珠樹は格好良いよ。
成長してきて更に格好良くなってきてる。
もう、俺の手の届かない所まで行ってしまうかもしれない。
そんな事を考えてたからか珠樹の言葉に驚いた。
「お前は一生俺様にケーキを作ってたら良いんだよっ。神楽のケーキなら一生食ってやっても良いっ」
言われなくてもお前の傍に居る為に一生ケーキを作り続けるつもりだよ。
まぁとにかく、これから作り続けても食べてくれるって事は手の届かない所には行かないって事、だよな?
良かった。本当に良かった。
「だからアンタの為に作るケーキはねぇよ。神楽、おかわりっ」
「お前何言ってっ…店長すみませんっ!」
「はは、気にしなくて良いよ」
「神楽っ!さっさとしろっ!」
「分かったって!」
このままだと店の中で暴れ出しそうだから慌ててケーキを取りに行った。
もう4個目だ。
育ち盛りだからって食い過ぎだろ。
それに珠樹のワガママが段々酷くなってきてる気がする。
まぁ、俺ならそのワガママもちゃんと聞くから。
ハーレムなんかより俺を選べなんて厚かましい事も言わないから。
このままシモベを傍に置いてやってください。
王子にケーキを食べてもらえるだけで俺は幸せです。
「神楽君は何で気付かないのかなぁ。どう聞いてもあれってプロポーズだよね」
2011/04/15
パティシエ×甘党を書いたら甘党×パティシエも書いてみたくて書いちゃいました。
俺様っぽいワガママな年下攻めを目指したのですが上手く伝わると嬉しいです。
2011/09/18 追記
他の短編のお話でお世話になっているお題サイトashelly様のものに似ているのでこちらにも掲載させていただきました。
こちらのお題様を拝見する前に書いたものですが見方によってはお題を改変したようにも見えますので一応。
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