好きの代わりに | ナノ
 



ケーキを作り始めたのはお前の笑顔が見たかったから。
パティシエになったのもお前の為。





「やっぱケーキも兄ちゃんも人気だね」

「まぁな」

無邪気な顔をして笑うお前。
俺は朋夜(ともや)の傍に居たいのに。



昔の俺は荒れていた。
家に居ても一人きりで寂しさを忘れるように毎晩遊び歩いた。
見てくれが良くて喧嘩が強いだけで色んな奴が周りに居た。
それで寂しさを紛らわせた。


ある日、隣に越してきたという母親につれられてきたガキを預かる事になった。
面倒臭ぇとガキに視線を向けた瞬間思い切り号泣された。
流石に自分の家で泣かれたら放っておくわけにもいかず変顔をしたりしても全く効果がねぇ。
ガキは甘いもんが好きだと思い付いて家の中を漁って見つけたホットケーキを作った。
そしたら泣き止んだ上にすっごく嬉しそうに食った。
やっぱガキは甘いもんが好きなんだな。
それが俺と朋夜の出会い。

朋夜が機嫌良く家に帰ったもんだからそれから毎日のようにうちに預けられた。
そして甘いもんを作る。
毎回ホットケーキだと飽きると思って箱の裏に書いてるアレンジで毎回違うものを作った。
朋夜があまりに嬉しそうに笑うから俺も嬉しくなった。
心が暖かくなった。


暫く経った頃、よく連む女が迎えに来て出掛けた。
朋夜が笑顔で見送ったから大丈夫だと思ったんだ。
家に帰ったら脱ぎ捨てた俺の制服を抱き締めて寝ている朋夜の姿があった。
それを見て胸が痛くなった。
朋夜が顔を埋めてる所が濡れてる。
顔を覗き込んだら目元が赤くなっていた。
俺は何で気付かなかったんだ?
寂しいに決まってんだろ。
こいつを泣かせたくない。
こいつだけは寂しい思いをさせたくない。
そう思って俺は夜遊びを止めて朋夜の傍に居た。
髪も茶色にだけど染め直した。
ピアスも全部外した。
朋夜が俺みたいになってしまわないように。


少しずつお菓子のレパートリーも増やした。
新しいのを作る度に朋夜が嬉しそうに笑う。
決して可愛いとは言えない顔でも俺にとったら一番可愛い笑顔だ。
いつからかは分からない。
俺は朋夜を愛してた。
7歳も年下の、純粋に俺を慕ってくれてる弟みたいな存在なのに愛してしまった。
許される筈がない想いを誤魔化す為に新しいお菓子を覚えた。
『好き』を伝えたくなったら新しいお菓子を作るようにした。
そして1番に朋夜に食べてもらう事にしてる。
その笑顔で満たされたいから。



「彪流さんのケーキ美味しいー」

「有り難うございます」

でも現実は店に来る女性客の相手ばっかしてる。
仕事だし仕方ないけど。
呼ばれると朋夜はあの時みたいに笑顔で見送ってくれる。
その度に昔の事を思い出す。
朋夜ももう子供じゃないから何とも思ってないだろうな。


「朋夜、お待たせ。さっきの女の人達にもこのケーキあげたんだけど、どう思う?」

「ん?…うん。美味しい、けど。これ彪流兄ちゃんのケーキなのに違う人が作った?」

「正解。一回作ってみたいっていうから今日は違う奴が作ったんだよ」


こんな単純な事で喜んでしまう。
朋夜は俺が作ってない事ぐらい簡単に気付く。
俺が作ったケーキじゃないと絶対に嬉しそうに笑わないもんな。


「明日も新作作るから食いに来いよ」

「もう新作!?アイディア尽きても知らないよ?」

「尽きないよ」


お前への『好き』が尽きるわけないだろ。
今は手が出せないけど、お前が高校を卒業したら本気でモノにするからな。
だから絶対、他を見んなよ?



「彪流さんの好みってどんな子だろう?」

「知らないのー?美味しそうにケーキを食べてくれる可愛い子が好みなんだって」





2011/03/09
『Sweet Holic』の彪流兄ちゃん視点です。
朋夜視点は切なめだったので今回は糖度高めに。
相互片想いです。


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