槙島聖護はファイルを操作していた。ホログラムに映るのは有能なハッカーが調べた一係の名簿。その中にいる狡噛慎也という男がとても気になる。彼はきっとここまで来るだろう。殺意と憎悪を込めた刃を必ず向けてくるはず。
そう思うと口元が緩むのが止まらない。さぁ早く僕を殺しに来い。己の魂の輝きにうっとりとしている所に邪魔が入った。
「ホモなの?」
「え?」
「槙島さんはホモなのって聞いてんの?」
「同性愛は支持するけど僕は男性に興味は無いよ」
サイドテーブルにあったマドレーヌを少女は奪い口の中に放り込んだ。あ、それは紅茶に入れると美味しいのにと言いそうになったが飲み込んだ。
「何?」
「いや、仕事は終わったのかな?」
「えぇ上々。ヘルメットをあの馬鹿共に渡してきたよ。喜んで被って出てった。キモ」
「それなら良かった」
彼女は口が悪い。元々そうだ。
でも非常に有能で戦力としては己の次席だ。彼女は狩られる側から狩る側に昇格した人間でもある。
「それ見して」
「いいよ」
一係のファイルを渡すと指先で刑事達を眺めている。事細かに記載されているデータも槙島の前では特に意味もないことだった。
彼が欲しいのは人の魂の輝きだ。狡噛慎也という男は自分のそれを引き出してくれる男だと確信している。
「あー!ねぇ、この人イケメン!」
「どれ?」
「ほら!この人!」
雪が指したのは狡噛とは違う男だった。鬱陶しい前髪が顔に掛かり、時代遅れの眼鏡を掛けている。鋭い眼光は彼の弱さを隠す一つの武器だと槙島は思ったが特に興味も無い男だった。
「監視官だね。そういう男がタイプなのかな?」
「どうかなーでも真面目そう。まさにエリートって感じ!」
「きっと色々なものを捨てて来ただろうね」
「いいね。素敵。本当は弱いくせに強がってそう。部下や同僚にもそれ程信頼されてなくて、上司とかからプレッシャー掛けられてそうじゃない?」
意外と観察力もある。
人を見る目はある意味槙島よりあるかもしれない。
「自分の立場が分からなくてきっと今サイコパスは危うかったりして」
「グソンに調べさせようか?」
「結構。これはただの妄想だから。真実なんてどうでもいいの」
「そうかい」
「ねぇ、もしも彼と戦う時があるなら私に取っといて欲しいな」
雪は槙島にそう強請った。頼むというより強請るに近い。
「そんなに欲しいのかい?」
「前もらった子は直ぐに死んじゃったから、今度は死なせないように頑張る」
槙島がコントロールして犯罪者へと進化させた人間がいた。だが途中で脱落。泉宮寺に狩られそうになった所を雪が拾った。そして自分の部屋で飼い殺してしまった。
「これで何度目かな?」
「大丈夫。今度こそ飼ってみせるから」
「雪、もうこれで最後だ。僕もそろそろ動かないといけないからね」
「知ってる」
雪は画面から目を離さずにじっと男を見つめている。
「綺麗な顔。きっとプライド高いんだろうなぁ・・・どんな風に潰してやろうかな・・・」
「君もこのゲームに参加すればいい。きっと彼に会えるよ」
「そうだね。アイテムを手に入れるにはクリアしていかないと」
槙島に微笑を向けて雪は立ち上がった。
「殺しちゃダメなんだからね。生きて私の所へ連れて来て・・・」
独り言のように呟かれた言葉は槙島に届いていた。掴み所の無い所が気に入って側に置いているけれど、何かに執着すると面白いほど入れ込む子だ。
それが少し寂しかったりするから玩具を上げたくないけれど彼女が喜ぶなら、歓んで差し出そう。
「生きてればそれでいいよ。手も足も無くなってもいいから私に頂戴」
「仰せのままに」
それでも彼女はとても美しいと思う。