今から百年以上前、人類にある天敵が現れた。
彼らと人類の間には圧倒的な力の差が存在し、人類は絶望の危機を迎えた――。







「やる気がないのなら帰れ!馬鹿垂れええぇぇ!!」


ウォール・ローゼ南方駐屯訓練部隊。
赤土が剥き出しのこの地に12歳を超えた若者達が兵士になる為に日夜訓練に励んでいた。


「また怒られてるぜ。あいつ」
「立体起動の訓練でもぐるぐる回ってたぜ」
「あそこまで無能なのもある意味才能だな」


地面に死んだように倒れている少女は周囲の声を聞くまいと立ち上がり教官の前に立った。


「す、すみません!もう一度チャンスを下さい!!」

「貴様に何度チャンスをやればいいのだ。五十嵐訓練兵」

「うぅ」

「罰周5!!」

「いやあああっっ!!」


夕日が赤土を照らしまるでこの世界は橙で出来ているかのように思わせる。
その世界の中を逆光に照らされながら走り続ける少女がいる。宿舎の中から同期達は心配そうに、また笑いながら見つめている。

106期生。五十嵐雪。彼女はあの地獄を見た一人だ。
845年のシガンシナ区への巨人進攻から7年が経過していた。











ドドドド、と土を蹴る規則的な音が静かな森の中に木霊し馬の嘶きが彼方まで飛んでいく。暗い空からは不吉にも雨が降り注ぎ翻るダークグリーンのマントを濡らしていく。


「総員戦闘用意!!目標は一体だ!五つの部隊に別れろ!俺が囮になる!行け!」


数十人の兵士達はそれぞれの分隊長の背を見ながら五つの陣形へと形を変える。先行する三人の兵士が背を反らし腹を空へ向けた。


「立体起動準備!!」


腰に備えられたアンカー発射装置が空気を発する。ワイヤーが近くの高い木に引っ掛かり兵士達の体は宙へ舞い上がる。離れたアンカーが再び遠くの木へ引っ掛かり兵士達は木々を伝いながら飛んでいく。

人よりも何百倍と高い木と同等の高さを持つ敵が目の前に現れる。敵もまた自分達と似た姿をしている。
刀身ボックスから二対の刃を抜き敵の背後に回った。


二対の刃が敵の項に振り下ろされた。

大きな地響きを上げて巨大な敵は地面へと倒れていく。アンカーを近くの木に発射させ太い枝に足を止めた。下を見ると五つに分かれた部隊が戻り始め全員の安否を確認することが出来た。


「隊長!流石ですね!一瞬の攻撃見事でした!」


ワイヤーを伝い地面に下りた。
継続的に降り続ける雨によって地面はぐちゃぐちゃの泥だ。死骸となった敵を見れば蒸気を発しながら溶けて行く様が見える。


「引き返しますか?夜間あいつらは動きは鈍くなりますが安全とは言えません」

「帰るのか?何の成果も上げていないのに」

「しかし・・・」


部下の一人が背後に居る兵士達を見た。
数十人。いや、国を出たときはこの三倍はいた。


「気持ちはお察ししますが無闇に行動すれば犠牲も多くなるかと」

「・・・・・・」

「それにそろそろ、これも尽きる頃合、」

「うわああああっっ!!」


森に響き渡る悲鳴に顔を上げた。
待たせていた部下の一人が敵に摘み上げられている。バタバタと暴れ刃を振り回すのをまるで嘲笑うかのように敵はニタニタと笑みを浮かべている。


「まさかッ!まだ、巨人が――!?」


部下の言葉に隊長と呼ばれた男が辺りを見回した。
木々の枝に隠れギョロギョロと無数の巨大な目がこちらを見つめている。


「隊長!!15m級がうようよいます!!ご指示を・・・っ!」


摘み上げられた部下は巨人の口の中へ迎えられた。


「くそッ!!」


刀身ボックスから再び刃を取り出した。
総員戦闘準備の声に怯えていた兵士達の士気が一気に上がっていく。
しかし分かっていた。果敢にも立ち向かう自分達がここで無駄に命を散らすという結末が待っていることに。








彼らの姿はよく知っている。
勇敢にも壁の外へ足を踏み出し外の世界そして巨人の正体を探るための部隊、調査兵団。彼らへの評価は二つ。
壁外への遠征が多く巨人との戦闘も多いため勇敢なる兵士と称えるもの。しかしあまりに戦死者が多く生きて帰る者が少ないため税金の無駄遣いと蔑むもの。

ほら今も息子の腕しか帰ってこなかった母親が悲鳴を上げて泣いている。

彼らの姿はまるで敗北したようだ。士気もなく顔色も悪い。
でも一人だけ真っ直ぐ前を見ている人が居る。馬に乗り血に汚れたダークグリーンのマントを付けている。彼はいつも兵団の先頭にいた。


「宜野座兵士長だ。彼一人で一個旅団以上の強さを持つらしいぜ」

「知ってる。教科書で教わったもの」

「ま、強くてもあれじゃあ・・・報われねぇよな」

「ねぇ秀星。私強くなったよね。あの時よりずっと」

「え?」

「私決めてるの。調査兵団に入る」


ふと目が合った気がした。
でも直ぐに逸らされる。


私には彼らが英雄に見えた。
巨人と戦う勇敢な兵士。憲兵団なんかクソ食らえ。





私は巨人を駆逐するとあの日から決めているのだ。
彼の為なら命を捨てられると本能がそう呼んでいる。

人類の屈辱を反逆の糧にしよう。










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