小説 | ナノ


▼ 報いなき想いに合掌(後)

「痛ッ、痛いですッ!」

非難の声も受け付けず義勇は兄弟弟子の頬を力の限り抓った。まろい頬が赤く染まって瞳も潤わせていたが知った事じゃない。義勇の手を振り払って同期の我妻の背中に隠れる。「ひいいいぃぃ!!俺を巻き込むなよおぉぉ」と叫ぶ我妻を睨み付けたがこの少年は、背後に隠れる同期を売らないのを義勇は知っている。

「話があると言ってるだろ」
「ここでしてください!」
「俺の屋敷に来い。なぜ嫌がる、なぜ来ない」
「・・・・・・しのぶさんの所がいいです。善逸と伊之助も一緒なら義勇さんの屋敷に住んでもいいです!」
「俺は嫌だああぁぁ!女の子がいっぱいの所がいいよおぉぉ」

汚い高音を耳元で叫ばれて義勇の機嫌はより急降下する。

「炭治郎」

竈門炭治郎。新人隊士でありながら呼吸を天才的に使うのが上手く、柱たちからもその存在は知られている。名前の通り十五の少年だと知っているのは九割の隊士。残りの一割の者達は炭治郎が女だと知っている。善逸も伊之助も持ち前の五感ですぐに女だと分かった。義勇は言わずもがな。
胡蝶は身体検査で知ることとなる。

「炭治郎」
「・・・・分かりました」

善逸の背中から降参して出て来る。女子には正義感強く出る善逸だがこの二人の関係はちょっと複雑だ。
(どっちも悲しい音。水柱が炭治郎を気に掛ける理由は本人からなんとなく聞いてるけど、なんで炭治郎はあんなに嫌がるんだろ。げっ、睨まれた。怖いんだよ、水柱。炭治郎のことになると音が全然違くなるし)

蝶屋敷の戸口を義勇は乱暴に開ける。

「あらあら、またですか?」
「胡蝶」

屋敷の主人が待ってましたとばかりに立っている。
胡蝶に助けを求めても良かったが炭治郎はそれをしなかった。柱二人の揉め事は一般隊士の小さな揉め事で収まらない。最悪、お館様を介しての会議に呼び出されそうだ。

「炭治郎くんは嫌がってるように見えますけど。冨岡さん、女の子に無理強いは良くないですよ?」
「してない。話をしに来ただけだ」
「ここですればいいのでは?」
「積もる話がある。部外者には関係ない」
「冨岡さん。毎回私の屋敷で揉め事を起こされては困ります。それだと本当に嫌われますよ?」

怒りの匂いが埋め尽くす。近くにい善逸の耳にも激しい音が聞こえてきた。
殺気こそないものの互いを牽制し合う空気に居心地の悪さを感じる。

「行くぞ。炭治郎」

義勇の後を付いて行かない選択肢はなかった。炭治郎は胡蝶に一礼すると蝶屋敷を去る。

「困った人」

何も知らないとでも思っているのか。
あの子供の身体検査を毎度しているのはしのぶだ。アオイは炭治郎が可哀想で触れないと言ってしのぶに託した。気丈な性格のアオイが無理だと言ったのだ。鬼殺の戦闘以外での傷痕が誰によって付けられたのか分からない程しのぶは子供じゃない。
十五の娘の肌に、噛み痕、爪痕。
それが大人の男のすることですか。





義勇の屋敷に着いて早々、炭治郎はまた同じような会話をするんだろうとうんざりしていた。

「鬼殺隊をやめろ」

(ほら始まった)

「今回の那多蜘蛛山も運良く生き残っただけだ。俺が来なければお前は死んでいた」
「そうだと思います。でも俺は少しずつ強くなってます。下弦の鬼を倒せたのは」
「アレを倒したのは俺だ。お前じゃない」
「そ、うですけど・・・でも!義勇さんに何と言われようとやめません!」
「・・・・・・・・」

薄暗い室内。騒がしい蝶屋敷と違って水柱の屋敷は静寂に包まれている。この部屋で何度同じ会話をしただろうか。

「お前と妹くらい養える。隊を抜けろ。お館様には俺が言う」
「だ、か、ら!嫌だって言ってるじゃないですか!」
「妹を人間に戻す方法は俺が探してやる。だから」
「毎日毎日自分の仕事と管轄区域の見回りで忙しいって文句言ってる人がどうやって探してくれるんですか!」
「お前が鬼殺隊をやめれば探す。絶対時間を作ってそっちを優先する」

炭治郎ははあ、と深い溜息をついた。そして両手で頭を掻き毟る。
分からず屋のこの冨岡義勇と言う男は竈門姉妹をどうしても自分の目の届く所に置きたいらしい。柱合会議では一足早く胡蝶に取られた。禰豆子の部屋もあるらしい。炭治郎の為に義勇がわざわざ用意した部屋には帰って来ない。

「義勇さん、何度も言いますけど。あの件を自分の責任だなんて思わないで下さい。もし一刻あなたが早く着いていたら無惨と鉢合わせしてた。そうしたら義勇さんだって無事だったか分からない。俺は感謝してるんです。あの雪の中であなたは俺を怒ってくれた。鱗滝さんを紹介してくれてここへ招いてくれた。それだけで十分なんです。俺は」
「炭治郎」

腕を取られ引き寄せられる。
義勇の腕の中、強く強く抱きしめられて炭治郎は深く呼吸する。冨岡義勇の匂い。変わらない。昔と。あの僅かな優しい時間を思い出す。家族がいて、そこにはうっかり義勇がいて、一緒に過ごす。あれは夢じゃない。

「お前達のことは俺が何とかするから鬼殺隊をやめてくれ」
「またそれですか。もうしつこいです」
「母も望んでる。お前の家族の墓に手を合わせた俺の事も考えろ。お前を守ると誓った。お前が鬼殺隊にいては守ってやれない」
「やめて、やめてください!義勇さん!!」

義勇の腕から逃れる。肩を掴んで引き剥がす。

「もう俺は守られるような子供じゃない」

真っ直ぐ見つめ返す。深淵を覗くような深い青の瞳が炭治郎を見下ろしている。

(義勇さんの目、なんでこんなに暗いんだ)

前は違った。雲取山で過ごしたあの短い時間、義勇の目は綺麗に輝いていた。今は僅かな微笑みすらくれない。すると義勇の匂いが一瞬で変わったのが分かった。足を払われて炭治郎は床に伏す。

(まずい、怒らせた。この匂いは駄目なやつだ)

義勇がしゃがむより前に炭治郎は無様な格好だと承知していたが床を這うようにして逃れようとした。

「炭治郎」

障子に手を掛けようとした炭治郎の腕を背後から掴まれる。
怖い、振り向けない。匂いが別人だ。
炭治郎は自由の利く足を振りかぶって義勇を蹴り飛ばそうと試みたが無駄に終わる。「お前は学ばないな」とその足を取られて脇に抱えられる。うつ伏せから向かい合ってしまった。

義勇の手が蝶屋敷の白い病衣に手を掛ける。彼が何を求めているのか理解してカッと炭治郎の頬が赤く染まる。蹴りをお見舞いしてやりたい、殴りつけてやりたい、そんな行動はいつも無駄に終わる。鬼殺隊の頂点に君臨する男に勝ったことなど一度もなかった。





「あッ、っ、うぅ」

冷たい義勇の手が体を這う。むず痒い。形や傷を確かめるような緩慢な動き。
そしてようやく乳房を掌が多いきゅっと乳首を摘まむ。「んっ、」と反射的に声が出た。

「ぎゆ、さん」
「・・・・・」
「するの?」
「ああ」
「なら、あっち・・・あっちでしたい」

炭治郎が指差したのは襖の先。
寝所がある。だが義勇はそこを一瞥しただけで炭治郎の服を脱がしにかかる。

「えっ、ちょ、」
「あっちではしない。仕置きだからな。それに、目を離した隙に逃げられても困る」

ちゅちゅと乳首を吸う音そしてざらついた舌の感触に炭治郎は声を抑えることが出来ない。体をくねらせて押し返す素振りをするだけだ。
義勇の掌がすす、と下穿きへ滑り込む。「あっ」と非難の声を上げたがすでに遅い。くにくにと三本の指が局部を弄る。

「ん、だめ、だめだって、ああっ」

義勇の悪戯な腕を掴んだ。だが指先は動きを止めない。そうしていると神経がじわじわと熱く燃えてきてそこは湧き水のように濡れて来る。くちゅくちゅと小さな音は炭治郎の耳にしっかりと届いている。義勇は下穿きを両足から抜き取り足首を抱え上げて割り開く。

「炭治郎、お前いくつになった」
「ん、じゅうご、ぎゆさんは」
「俺の事はいい。炭治郎、俺はお前の家族に約束した。お前だけは守る。だけど俺は、お前にこんなことするつもりなんて」

突然やって来た後悔に義勇は片手で顔を覆った。嫁入り前の生娘を手籠めにしたのは最終選別を通過した後だ。それも師範の家の中、禰豆子の真横で事に及んだ。鬼殺隊への道を示したのは自分自身なのに後から惜しくなった。強引に着物を剥いで濡れてもない女陰に己を突っ込んだ。
誰にも助けを求めずさめざめ泣いて、そんな幼い女の子に「狭霧山から出るな」とほったらかした。

「すまない」

過去の回想は終えた。
義勇は抱えた足を持ち上げて体重を掛ける。隊服のベルトを外す音に炭治郎は意識を戻しその手を掴む。

「やだっ、やめて、やめてよ」

視界に入る卑猥なもの。熱く猛ったそびえる象徴がぐぐっと押し入って来る。

「ああっ」

泣いた顔はより幼く見えるが、入り込んだ肉の中はびくびくと震え義勇を受け入れようと形を変える。「ひゃ、あ、あんっ、」と声を殺す。奥へ奥へと進むのは簡単でその度にかわいい声を上げて義勇の加虐心を増長させるだけだ。ふるふると揺れる乳房を掴んでくにくにと頂を弄ってやるとびくっと身体を震わす。

「たん、じろう」
「あっ、いい、おくあたって、もう、あ、ああ」
「言え、やめると言え」

鬼殺隊を辞めると言え!

炭治郎の背中が反る。腰骨を掴み無我夢中で突き上げる。肩に乗せていた細くしなやかな足はずり落ちてだらしなく開いたままだ。

「あっ、ああっ、あん、あーっ、もうだめぇ」

畳を爪先が蹴る。背筋が伸びて体がくねる。もう気をやりそうだ。義勇も同じだ。気持ちがいい。山奥の炭売りの娘がこんなになるなんて想像しなかった。

「だめだ、まだ気をやるな。膝を付け。炭治郎」

ずぼっと膣から抜き取ると「きゃあ」と声を上げた。朦朧とする意識の中で炭治郎はのろのろと動き出す。畳の上に膝と両手を付いて尻を義勇に捧げる。大きくて熱い手が背中を押す、頭を垂れ肘を付き、屈辱的な姿だ。友達や妹には見せられない。

「ううっ、ひっく、」

少女の嗚咽に罪悪感が走る。だがそれもほんの一瞬だ。
義勇は炭治郎の尻を掴んで自身のもとへ引き摺る。ぐっと押し入るといとも簡単に奥へと飲み込んでいく。腰を掴み揺する、子犬のような声が聞こえなくなって炭治郎を覗き込むと腕を噛み声を殺していた。

「ダメだ。声を出せ。噛むな」
「やだっ、いやなのッ!・・・あっあっ、ううーっ、だめだってぇ」
「なぜだ」
「おく、おくはやめてっ、イイから、すぐいっちゃうっ、はっ、アッんっ」

背後から小ぶりだが形の良い乳房を掴む。頂きを弄り汗ばんだ背中に舌を這わす。「ああーっ」と炭治郎は声を上げる。うねうねと脈打つ体内に義勇もそろそろ限界が近い。炭治郎、自ら腰を押し当ててくるものだからたまらない。

「炭治郎、いいな?」
「えっ、あっ、まって、だめ」
「子種を流し込んでやる」

癖毛の中に手を差し込んで指先で梳く。そして何度目かの時にぐっと掴み上げて自分の方を向かせた。情けない顔。涙と涎で汚れている。まだ幼い体は男の欲を受け止めるには早かっただろう。だがそれすらも愛しい。
そんな顔で親の仇を討てるのか、妹を人間に戻せるのか。義勇は意地の悪い事をいつも考えてしまう。

(お前は俺を変えた、その責任を取らなければ)

「ぎゆさんっ、ああっ、やめてっ、なかはだめぇアアッ、おくあたって、いやだっ!いやっイヤッ!んあっ、奥、きもちい、あたって、あアーッ」
「たん、じろう」

膝が落ちる。畳の上にうつ伏せで倒れた炭治郎の体を全力で押さえつけて覆い被さった。髪と腕を押さえ項に口付けする。肩に歯を立てて齧る。釘を金槌で穿つ様に義勇の熱く猛った象徴が炭治郎の奥を打つ。

「あ゛あーっ、もうだめっ、もうだめッ!イク、イク、いっちゃうッ、ぎゆさん、いいの、いいッ!おく、おくッ、あたって、あアーっ」

炭治郎の体がびくっと痙攣する。爪先が丸くなり「ひいぃっ」と小さく声を上げて体を震わせた。熱い伸縮に義勇の体は倒れた。宣言通り奥に流し込んでやった。気怠い体を起こして伏せたままの炭治郎を見下ろす。
膣の中から己自身を抜き取り再び尻だけを浮かせる。

「や、やめてよ、もう」

言葉だけの抵抗が漏れる。

「ひゃ、なに」

義勇が口付けを落とす。行為の最中、目に入った場所。触れてもいないその場所はひくひくと物欲しげに蠢いていた。思わずそこに唇を寄せたくなったのだ。

「ちょっとっ、やだっ」

ざらついた舌が菊門を舐めている。終いにはちゅっと音を立てて吸う。炭治郎は後ろを振り返り羞恥でたまらなくなる。手を伸ばして抵抗するが義勇の指先に絡め取られる。あの綺麗な男の顔が尻の前にある、そう思うだけで顔から火が出るようだ。
裸で情を交わすのも恥ずかしいのに、あまつさえこの人は―・・・。

「やめてっ、いやっ、ん、あっはッん」
「いいか?炭治郎」
「よくなっ、ぜんぜんッ」
「だが震えてるな」

べろりと舐められた後、義勇の指が菊門に触れた。刀を扱う固い男の指がぐりぐりと中へ入ろうと攻めて来る。畳に胡坐をかいた義勇が炭治郎を引き摺って膝に乗せる。まるで悪戯を怒られる子供のような格好だ。義勇の手が尻の頬や穴を刺激する。
羞恥の頂点だ。両親にもこんな格好させられたことない。

「やめてよぉ、なんで、なんで」
「お仕置きだと言っただろ」
「う、」
「俺に逆らうな。俺にされたことを忘れるな。お前は俺の」

俺の何だって言うんだ。
膝の上に裸で転がした少女は、あの時ただの炭焼きの家の子だった。この子は誰のものでもない。

それを自分本位に犯して汚したのは自分だっていうのに。尻の穴から指を抜いて体を反転させて腕の中に閉じ込める。膝の上で横抱きにして慈しむように触れた。

「ぎ、ゆうさん」
「すまない」

口付けをする。「んっ、」と漏れた声に己の欲情が湧いてくるがなんとか抑える。炭治郎の腕が義勇の首に回ったことが許可の意味だと、義勇は啄むようなものから深いものへと変えていく。奥に引っ込んだ小さい舌を追い掛けて絡めとり吸う。それに臆することなく応えることが出来るのは、炭治郎がどれだけ義勇と口付けて来たかが分かる。

「ん、んく、ちゅ、はあっ」
「炭治郎」
「あ、まって、まだっ」

唇を離すと強請るように追い掛けてきた。
首に回った腕にぐっと力が入り義勇の方が引き寄せられる。甘える声と息、赤く染まった頬、掌が触れる体は熱い。

「よせ、煽るのはやめろ」
「そんなッ」

髪を掴んで頭ごと引き離す。
だがぷっくりとした唇に目が逸らせなくなり触れるだけ優しく口付けを落とす。髪を掴んだまま上を向かせ義勇は舌を差し込んだ。唾液を送り込むようにちゅちゅと荒く口付けすると非難めいた視線を送って来る。

「苦しいです」
「誘ってきたのはお前だ」

脇に手を差し入れてそっと畳の上に背中を付けさせる。今度は優しく髪の中に手を差し入れてゆっくりと身体を倒す。口付けを交わしながらすでに膨張した自身を炭治郎の陰部に擦り付ける。「いいか」と尋ねると「欲しいです、いっぱいください」と甘ったるい声で炭治郎は答える。

ぐりぐりと押し入る。雁首の部分が割り入ってしまえばいい。
「あァーーっ」という悲鳴に近い声を聞きながら肉の壁を通る。掴んでいた炭治郎の手首から掌へ移すと指先をぎゅっと絡めとられる。奥を穿つ緩慢な動作から、時折ガツンと叩くように奥を刺激する。

「んっ、んやッ、ああっ、あッ!ああッ!」

その度にきゅっと締め付ける動きに義勇は何度も理性を持って行かれそうになる。

「きもち、いいか」
「あ、んっ、ハイ、いいですっ、よすぎておかし、なるッ」
「そうか、俺もだ」

義勇は絡めていた右手、畳に手を付く左手を離し体をぴったりと密着させた。「あぁん」とより一層深みを増したものに炭治郎は声を上げた。そして炭治郎の頭と畳の隙間に手を入れて口を吸う。再び腰を動かすと炭治郎の細くしなやかな両足が絡みついた。

「んーっ、んうぅ、ああん、んっンッ、は、ああっ」
「たん、じろう、炭治郎、」
「はあっ、いく、イク、イっちゃううっ、あたってる、あたってるからアァッ、ぎゆさん、だめっ、だめなのッ、おねがい、いやッ」

絶頂がそこに来ている。嫌だと言いながらも炭治郎の両足は義勇の腰に絡みついたままだ。互いに強く抱きしめ合い口を吸う。舌を絡めて唾液を交換するように激しく求めあった。炭治郎の嗅覚は義勇から香る精と雄の匂い、そして甘い甘い餡蜜よりも甘い匂い。

「んあ、あッ、あアッ」
「っ、いいか」
「は、んーっ、イク、もうイク、ぎゆさん、もうだめェッー」

一度強く最奥を穿つと肉の壁が一気に収縮する。義勇はあまりの気持ち良さに耐えることが出来ず射精し炭治郎の中に子種を流し込んだ。「ああ、なか、やだぁ」と譫言を呟きながらも炭治郎の内股は小さく痙攣し絶頂が続いている事が分かる。
この温かい中から出るのが嫌で義勇はそのまま炭治郎の上に倒れ込んだ。炭治郎はその体をしっかりと抱え込んで抱き締めた。

(におい、いいにおい、義勇さんの、昔と一緒・・・)

情交の疲労と絶頂で体を動かすのが億劫だ。呼吸が乱れ思考が停止する。

「ぎゆうさん」
「ああ・・・」

(好きです。本当は大好きなんです。あなたが俺の家に現れた時から、ずっと好きでした。なのに、どこで間違ったかなぁ)

最初に動いたのは義勇だった。緩慢な動作で起き上がると炭治郎を見下ろした。そして背中と足に手を差し入れて抱き上げる。襖で続く寝室へ連れて行き敷布の上に寝かせてやる。頭を撫でて頬に手を滑らせる。

(すまない。こんな風にするつもりは無かった。ただお前にはこれ以上悲しい思いはしてほしくない。俺はただお前を)

寝室の中は薄暗い。それでも外から聞こえる喧騒は未だ昼間であることを知らしめている。しのぶに後でまた怒られるだろう。そういえば、と、義勇は赤みがかった髪の毛を指先で梳いた。この子にやった簪はどうしただろう。鬼殺隊に入隊してから持っているのを見たことが無い。きっとあの家に置いてきたに違いない。

あの家―・・・・。

義勇は記憶の中、打ち震える自分自身に再会する。
蔦子姉さん。錆兎。そして子供たち。


雪の降る山を一人風呂敷を持って登っていた。風呂敷の中には反物や菓子がいっぱい詰まっている。これをあの子達にあげたらきっと喜ぶだろう。東京の浅草や銀座でしか手に入らないものばかりだ。想像するだけで普段の仏頂面も自然と崩れていく。
だが道すがら感じた気配。もう朝日が昇っている。だというのに、鬼の気配と血の匂い。義勇は走った。走って走ってこの感覚が思い違いであれと願った。

家が見えた。竈門家だ。だが、義勇は足を止め真っ白な雪の上に散る鮮血を見下ろした。小さな体、六太だ。六太が転がっている。木戸は破られ敷居を跨いだ。まだ新しい血溜まりを踏みぴちゃりを音を立ててしまった。茂、竹雄、虚ろな目がこちらを見つめている。葵枝、花子、箪笥に凭れ掛かるように倒れている。濃い血の匂いに義勇は袖で鼻を塞いだ。

(なんでだ、なんでこんな事に、まさか呉服商の馬鹿息子か・・・だがここまで)

そこで義勇はハッと気付く。

「禰豆子、炭治郎・・・」

二人がいない。亡骸もない。探したくはなかったが視線だけを彷徨わせる。庭へ出た。そこにもない。義勇は山奥から聞こえた悲鳴を捉え一目散にそちらへ走る。深く息を吸って、日輪刀の柄に手を添えた。この気配は人じゃない。鬼だ。鬼がいる。
雪の降る中、禰豆子は炭治郎に覆い被さっている。なんてことだ。

また救えなかった。己の無力さで人が泣いている。


「義勇さん」


袖を引っ張られ義勇は意識を戻した。
見下ろすと炭治郎が布団の中からこちらを見つめ「大丈夫ですか」と尋ねている。あの雪の中、二人の姉妹を鬼殺隊へと導いたのは紛れもない義勇自身だ。鱗滝のもとで扱かれれば諦めると思ったのに最終選別を突破し、今ここにいる。

「寝ろ。無理をさせた」
「いいえ・・・いいんです。俺も久しぶりにちゃんとお会いできて嬉しかったです」

柱合会議では義勇の決意の重さを知り改めて存在の大きさを知った。炭治郎にとっては命の恩人であり、叶わぬ恋の相手だ。それ故に仕置きを口実に体を求められると抵抗したくなるのだ。
義勇の手が頬を撫で耳たぶを摘まむ。父の形見の耳飾りがしゃらりと音を立てる。

「お前、そういえば、いやなんでもない」
「え、気になります」
「いいんだ。今は休め」
「でも」
「機能回復訓練、胡蝶から聞いている。全集中・常中の件も。ここではそれを忘れ眠るといい。鬼のことも、全て」

子守歌を歌われている訳でもないのに自然と瞼が重くなる。匂いが心地よい。母なる海に抱かれている様だ。義勇の眼も青く綺麗だ。

「おやすみ」

夢の中ではどんなものにもなれる。
雲取山の実家で炭売りをしている。禰豆子は東京の高等女学校へ行った。竹雄も近くの尋常小学校へ、だから家は少し寂しくなった。それもこれも稼ぎの良い婚約者のおかげだ。彼は数ヶ月に一度帰って来る。たくさんのお土産を持って。

手を伸ばして大好きな人に触れた。
握り返された手が温かい。婚約した後もここで炭売りをする事を許してくれた優しい人。膝に頭を乗せて縁側に寝転がる。これでいいんだ。ずっとこのまま夢よ優しいままでいてくれと願っているんだ。



眠りに落ちた炭治郎の手を握り義勇は肩までしっかりと布団を掛けてやった。
まだ十五の少女に無理矢理姦通すれば通報しますよ、と笑いながら怒る同僚の女を思い出した。義勇は本気で願っている。このままこの子が孕んでくれさえすれば、あとは思いのままだと。炭治郎は義勇がそこまで後ろ暗い事を考えてるとは夢にも思うまい。
決してあの事件がきっかけとは思ってない。
これは成るべくして成った関係だ。
あそこで出会えたのは運命だ。


あの簪に誓って必ず責任を取ろう。
義勇は誰もいない薄暗い部屋で一人込み上げる笑みを袖で隠した。



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