時折見せる柔らかな笑顔もメロンパンを不思議そうに見つめる子供のような顔も困ったように目を伏せる顔も冷静でそれでいて温かい、まるでダイヤモンドのようにきらきら輝く彼――聖川真斗が私は大好きだった。だった、ではなくまだ好きではあるのだけれど。残念なことにこの学校は"恋愛禁止"ときた。とはいえ最初の頃の私はきっと大丈夫だろうと僅かな期待を抱いていたが寮の隣部屋の子がパートナーの子と付き合っているのがバレて退学になった時抱いていた期待はバラバラに砕け散った。それから考えたがもし聖川くんと付き合えたとしてもバレたら私も聖川くんも退学になってしまうのだ。そして聖川くんはきっとそれだけじゃないはず。大好きな音楽とさよならをして聖川財閥の跡取りになって美人さんと結婚をして一生お父さんに操られながら生きていくんだ。それを考えた私は聖川くんを好きでいるのはもうやめようと思った。そんなことを言っても簡単にやめられる程私も器用ではなかった。最初のうちは聖川くんを見るだけで目頭が熱くなったが今は気持ちが落ち着いてきたのかそんなこともなくなった。それでもやっぱり毎朝教室に入ってくる聖川くんを見ると忘れた筈の胸の締め付けが訪れるのであった。そしてそれに対して顔を歪めていると毎回先生が「なまえちゃん大丈夫?」と心配そうに問いかけてくる。いつもなら大丈夫ですと言える筈なのに今日に限っては何故だか無償に凄く泣きたくなった。




「…大丈夫か?」
休み時間になると隣の席の聖川くんが声をかけてきた。声を聞いた瞬間肩が震えたがこくりと頷くと眉を顰めながら「何かあったのか、」と聞かれたので思っていたことを全て言ってしまった。勿論聖川くんが好きということは控えて。話している最中に何度か綺麗に整った顔を僅かに歪ませていたが何も言わずに最後まで聞いてくれた聖川くんは静かに口を開いた。




「お前の気持ちはそんな程度だったのか」
「!」
「何に怯えているのかは知らないが…そんな揺らいだ気持ちならそのままその気持ちを封じてしまえ」
「…でも、」
「……お前の心のダムから溢れ出る気持ちは堰き止められることを知らないのだろう?」
「…、」
「怯えるな。お前のその気持ちがあればきっと、」
「…聖川くん」


そっと聖川くんの方を見ると教科書を持って立ち上がった聖川くんは「次は移動だぞ」とだけ私に呟くとつかつかとドアの向こう側へ行ってしまった。その背中を見つめながら私は先程聖川くんに言われた言葉を思い返しながらまた胸の奥がどくりどくりと音を出し始めるのを感じていた。





2011.12.1
聖川に心のダムと言わせたかっただけ


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