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 自分には独占欲がない。
 いかに恋人、あるいは夫婦とはいえあくまで一個人同士なのだから束縛自体がおかしいと、烏間はそう思っている。
 そう思っていた。


「あのさ烏間君、来週の金曜にちょっと出かけてもかまわない?」


 雉島の問いかけに烏間は、「ああ」とあくまで気楽に答える。なぜ自分の許可がいるのか、とさえ思う。


「夕食作ってった方がいい?」
「大丈夫だ、適当に済ます」


 それ以前に帰れるかどうかもまだわからない。せっかく作って貰っても一箸もつけられない可能性が高いとあれば、最初っからその日はコンビニの世話になると決め込んでいた方が気が楽だ。


「りょーかい。……っと、もう遅いね。返事は明日でいいか。さーなに着てこっかなあー」


 ……なんだ。
 やけに浮き足立っているじゃないか。
 烏間はようやく胸中のもやつきを自覚する。クローゼットを開けて、着ている所を見たことがない上品なワンピースを引っ張り出した所で耐えきれなくなった。


「どこへ行くんだ」
「ん? 県立の芸術ホール。観劇ーひっさびさー」


 わかりきっているくせに、


「一人でか」


 みみっちいことこの上ない聞き方をする。


「ううん。常連の利用者さんと。元になった戯曲をおすすめしたことがあるの、私も好きで。気に入ったらしくてチケット取れたから観に行こうってなって」


 問いかけを続けるのにためらった。
 つきあい始めてからデートなぞほとんど連れて行っていない。雉島だって出かけたいだろう。
 自分は芝居に食指だって動かない。そもそも最近時間がとれていない。
 それなのにこんなにも楽しみにしている雉島に、


「……行かない方がいい?」


 思考の迷路で迷っていた烏間に、いつの間にか振り向いていた雉島は、


「あーっと、ね、相手の人、男性なのよ」
「……!」
「あ、オッケーわかった。大丈夫、断る断る」


 自分がいかなる表情をしてしまったか、心の底から知りたくない。


「だからそんな顔するなってば」


 ……どんな顔だ。
 情けない心地で、しかし今更鷹揚な態度を取り繕うこともできなかった。


「……すまん」
「こちらこそ」


 なんで雉島がそんなに笑顔なのかは、よくわからない。

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[ サレ臣 ]



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