肇国(ミスミソウ様2万HITリクエスト)


ギマレン

昨日、彼氏が出来ました。いや、私も彼氏なんだけどね彼女と言うにはお互い語弊があるし相手が譲らないだろうから彼氏彼氏と言う事にしようと誰に聞くでもなく考えながら出勤して来た訳だが……
「やあお早うレンブ」
「ああ、お早うギーマ」
「ねえ今日仕事の後空いてるかい?」
「否暇は無い」
あ、そう……
残念だと言わんばかりに、態とらしく肩を落として見せるが言い放った当人はそんなのに目もくれずにさっさと持ち場に向かっていく。本当に何時も通りだ、何時も……そう、恋人になる前となんら変わらない程の通常運行!
劇的に何か変わるとかそう言う事を期待はしていなかった、でも素っ気無さすぎないか?ドラマティックとは言わないけれど下手な脚本よりはかなり色々あって漸く恋人になったじゃない?なのにこの仕打ちなくない?なくない??否無い、寧ろあってたまるか。
身持ちが固い、なかなか付き合った回数の多いタイプではないが望む所だ焦らしプレイ上等受けて立とうじゃないか。自称するのは些か恥ずかしい気持ちもあるがこちとら百戦錬磨の男なんだよ、惚れて惚れてやっとの事でお付き合いをもぎ取ったなんてそんな経歴の中での破格の相手、不足はないね、俺もう頑張っちゃうからね!脳内で誰に宣誓しているかも解らない言葉をこねくり回しながらギーマは持ち場へと歩を進める。何、時間はあるのだ焦っても仕方ない。そう考えていたが今になるとこの時の余裕は何処を見て何を考えていたんだ、お前は馬鹿かと自分を小突き倒してもいいくらいのとんだ甘い見通しだったとギーマは思い知らされる事になる。

歯が浮く程の甘い言葉、口説き文句、息のかかり体が掠めてしまいそうな距離での囁きや指先が掠れる程の弱い触れ合い、それどころかさり気無く臆面なく堂々と挨拶のハグ以上にボディタッチを繰り返したり―…ありとあらゆる手段をギーマは講じた。手を拱くなんて事はしなかった押して駄目なら引きもしたし敢えて距離を空けたり急に縮めてみたりとありとあらゆる事をした。思いつく限りの行動は取ったしかし!相手が悪すぎたのかもしれないと持ち場のソファーに深く身を預けギーマは憔悴しきった顔で嘆息を吐いた。長く細い息はまるで死神に吸い上げられる魂の様に上へ上へと昇ってくがギーマの心は深く深く、地獄へ転げ落ちていくかの如く沈み込んでいった。

言葉は全て場外ホームラン、囁きはくすぐったい気持ち悪い触れば寄るな触るなで退けられ、遂にはしつこいぞと殴られた。呆れられ嫌がられあからさまな態度を取られ逃げられる。野生ポケモンよりまだ酷い反応をよりによって恋人に取られ続けると言う今迄体験した事のない仕打ちにギーマは打ちのめされてしまっている。何?私が何をしたって言うの寧ろそこを問いたい、私普通の事しかしてない普通の恋人に対する事しかしてないよ!?そりゃ今迄の態度とか経歴がどうだって言われたらすいませんでしたしか言えない事山積みだけれどさ、真白といは言えないまでも大分奇麗に清算したんだよ私。君だけが好きだなんて思春期みたいな衝動に気付いてさ、今迄のが全て鬱陶しくなって君に告白したり付き合ったり出来る様に色々駆けずり回ってちょっと突かれても何もないかな?な状態に身辺、特に女性関係整頓したんだぞ。なのになんだこの態度酷過ぎる!普通じゃないだろこんなのいや普通だの異常だのと言う固定観念を持っちゃ駄目だギーマ落ち着くんだまだまだお前にはきれるカードがある筈だそうだろう?
独り頭の中で自分に問いかけ、自身を落ち着かせ続けるギーマを傍目から見れば青く灯る火の様な透き通った瞳が細長く白く透けた指が手が、組まれた長い足がその全てが彫像の様だと褒めそやす者もいるだろう。全てが相手の心を打つ程に美しく感動的なだけのものだったらどんなに良かっただろうか?この醜い心をどうしようか、この草木の根の様に縦横無尽に奔り良いも悪いも全ての可能性をはじき出す想像力と思考力を如何しようか、お前は自分に甘いと件の人は私に言うけれど何処が甘いんだ。私の頭の中は望みもしない回転でもって私を如何に苦しめてやろうかと言わんばかりの働きをしてくれる。もう十分だ休みなよと頭の中で声をかけても知恵を巡らせなければ生きて来れなかった斜に見る事が癖になってしまった私の思考は休もうとしない。
疲れてる、解っているがそう考えれば考える程思いつく事は暗く重く圧し掛かり押し潰そうとして来る。どうやら自覚していた以上にレンブに首ったけな自分を嘲笑うように鼻からふっ、と息が零れたがそれは煌くシャンデリアにも届かずしかし階下に落ちる事もなく中途半端に床に落ちた気がする程に、ギーマは投げやりで泣きたい気分を抱いて全てから逃げる様に目を伏せた。


*


だが、逃げ戦が性に合う人間では到底ないのだとギーマは自分の事をよくよく知っていた。結果が全てだと言いたいところだが、宗旨替えの途中の今それを持ち出しては元の木阿弥だと地面に這いつくばりかけた心をなんとか奮い立たせギーマは無様でも立ち上がる。己の信念を忘れる事等到底出来ない、どんなに無様でも勝ちは勝ちだ。だから負けを認めるまで自分は立ち上がり這ってでも前に進まなきゃならない、そうやって生きて来たんだそれを譲る訳にはいかない。
そんな風にギーマが気合を入れて自分の前に馳せ参じているとは露程知らないだろうレンブは何時も通り、全く変わりのない態度でギーマにお早う、とのんきな朝の挨拶を投げかけてくるものだからギーマは内心しっつこいハグから本気でキスしてやろうかこの大きなお嬢さんめが、なんてやや物騒な事を考えながら一つ、静かに息を吸い解られないように息を吐いてレンブに呼びかけた。

「ねえ、レンブ?」
「なんだ?」
「聞いていい?」
「?」
「無理してないかい?遠慮しなくていいんだよ?」
「何の事だ?」
「私の関係を元に戻したいのなら遠慮せずに言ってくれよ、勇み足だったと思うからさ」
「どうしたんだギーマ何を言ってるんだ」
「……解らない?」
「はっきり言わんと解らんぞ」
「ああ、そうだね気付いてないんだねレンブ、私と恋人になった事を後悔してるんじゃないのかい?」
「はあ?お前なに言ってるんだ?」
「いやいいよ解ってる、君はいい奴だからなかなか言い出せなかったんだよねよく解るなんか違うと思っても気を遣ってくれてるんだよね?」
早口にまくし立てた言葉は現実にしたくなかったのにと思いながら縺れる様に口から飛び出していく、音として聞きたくなかった仮説を自分で投げかけなきゃいけないなんてどんな罰だよ私まだ何もしてないよ、まだレンブに何もしてないのになんで罰を受けなきゃいけないんだよでもその前色々やってきたからな、その分かな?まとめて来てるのかよーあー分割で来てくれよローンみたいにさ。だらだらと頭の中で様々な可能性を肯定否定し続け斜に構えた素振りで誤魔化しているギーマの耳に爆発音ごとき大声が飛びこんできた。
「そうじゃない!」
「え?」
「そんなんじゃないんだ俺は……どうしたらいいか、解らなくて」
「……はい?」
「……誰かと親密になるなんて考えた事もなかったから」
「は……」
「だから、どう接したらいいのか変わればいいのか、何時も通りがいいのかも解らなくて……こんな事になってしまった」
態とじゃないんだ、でも、上手く出来ないし緊張する。
「緊張」
怒涛の告白に相槌しか打てず、ギーマが繰り返した言葉と言うより零れた音を噛み締める様にレンブが続ける。
「緊張するんだ」
それがバレたら、恥ずかしいと思って言えなかったんだ。お前に好きだと言われて本当に驚いて……膝の力が抜けそうになったのをなんとか堪えて乗り切ったのに
今、俺の膝が抜けそうなんだけどねえ?ねえ?ねえレンブ?!
「……私は、私に好きだって言われて嫌だったんじゃないかと思って逃げてたのかなって」
「それは嬉しかった」
「 」
コンマの隙もなく突き付けられる事実に言葉が頭の回転事止められてしまう。なんだ?私の恋人は口を開けば俺の度肝を抜いてくれるばかり、俺の度肝を抜く為に生まれてきたのかい?つまり俺の為に生れて来てくれたのかい?なんて事だ神様ありがとう!生まれて数回目の感謝を今捧げるよジーザス!!
等恋人は阿呆な事を考えてるとはつゆ知らずレンブは心の吐露を続けている。
「あんな風に言われた事自体初めてで、どう表現したらいいか解らなかった」
お前は慣れてるだろうけれど、だからってお前に任せっきりでお間に甘えるのは違うんじゃないかと思ったから、どうにか出来ないかと考えていたんだが、全部裏目にでて――そこ迄口にすると胸が詰まってしまったのか深いため息を吐きながら頭を振ってレンブは謝罪を口にした。
「……すまなかった」
「なんで?謝らないでレンブ、君は何も悪い事はしてないよ」
「お前を不安にさせた、俺が悪い」
「疑らせたのは私だよ」
やはり私の態度は軽率に映っていたようだ、仕方無いと言えばそれまでだがもう少し信じてもほしかったなと今更の高望みを胸の中で呟きながらこれはまた別の機会に口にするかとギーマは頭を切り替える。折角彼が素直に胸の内を明かしてくれているのだこの機会を逃すなんて事は出来ないしするつもりはない。
「聞きたい事は、解らない事は言ってくれればいいんだよレンブ」
私と君の仲じゃない、俯くレンブの頬に肩に触れるとゆっくりと、でも流れるように背に腕を回し抱き締める。腕が回らない?ご愛敬さ、抱き締める事に意義があるんだこの際腕の長さなんてどうだっていい。
今迄抱き締めてきた美女たちの誰よりも彼は温かくて、いい匂いがする気がした。鼻先を掠める肌や衣服の匂いに胸の中がちりちりと燃えるように熱を帯びていく、ああ、やっと彼となにかが始まる気がする。こんなに焦らしてくれるなんて否が応にも期待が高まるってもんじゃないか

「こんなに振り回しくれた人は君が初めてだよ」

これからどうぞよろしく私の愛しい人






16/4/28

大変お待たせしました、リクエストの恋人になりたてのギマレンです。





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