ラブコール(匿名希望様2万HITリクエスト)


鮮やかさを越えた夕暮れの中、家の鍵を開けながらオーバは早くコール音が途切れ何時も通りあまりやる気と覇気の感じられない声が自分の名を呼ばないかと考えていた。今の時間だとジムから家に帰って寛いでる頃だろう、ちゃんと飯食って寝てるんだか……等と何時もの口癖の様な事も考えながら薄寒さに肩を竦めつつ扉を開き、誰もいない薄暗い部屋にただいまーと声をかけた。

・ラブコール

玄関で靴を脱いだ頃に漸くコール音が切れ、想像通りの声がオーバの名前を呼んだ。
『オーバ?』
「もしもし?デンジ」
『おー、仕事どうだ?』
やっとめどついたぜーと答えながらやっとの内容を思い出し背中を嫌な汗が滑り落ちていく。そう、俺事四天王オーバさんは今日の今日迄死ぬほど忙しかったんだよ!
チャンピオンリーグの四天王やチャンピオンは基本的にリーグに常駐し挑戦者を待ち受けるのが仕事だがそれだけが仕事と言う訳ではない。
出張と言うか遠征と言うか、他の地方の四天王やチャンピオンとの交流試合を年に数回こなさなきゃいけないしなんでか知らないけれどシンオウリーグのメンツはよく招待される側らしく呼ばれる度ジョウトだシンオウだホウエンだと飛んで行かなきゃいけない。
そもそも会議もよくやるし書類も多い、シティどころかシンオウ中の揉め事で駆り出される事もあるし街中でバトルを申し込まれる事もよくある。嫌いじゃないから受けるけど熱中しまくってやり過ぎて叱られる事もあるし始末書書かされた事もある。
好き勝手やってるように見えて意外と束縛が多いんだよこの仕事。好きなポケモンバトルを目いっぱいやれるからいいんだけどさ、って話がそれた。
兎に角忙しい事もあるんだよ、何時もふらふらしてるあのシロナさんすら真面目に指示を出して、全員が忙殺される程の事。さっき俺が上げた事。

それが全部、重なった。

まず台風が来た、馬鹿でっかいやつがシンオウを斜めに駆け上げって行ったんだよ、人間もポケモンも大わらわであっちで雪崩、こっちで津波、あっちで氾濫。ジムリーダーもバトルフロンティアも総出だった。
次にホウエンに呼ばれた、これは前々から決まってた事だけど正直皆疲れてた。でも顔には出さない、なんたって折角の御招待ですから。本気でやらなきゃ失礼だからなー、頑張りますよーオーバさんも他の四天王もシロナさんも。
その後シンオウに帰ってきたらチャンピオンロードが埋まった、これは仕方ない。地盤弛んでたんだよしょうがない、ポケモンと人と総出で掘りましたよええ。埋ってたら俺達お仕事できませんもん俺達がやりましたよええ!
それから麓の町でポケモンが暴れた、うん気が立つ事って誰でもあるポケモンだってある。
おまけに人間も暴れた、おいオマケに騒ぐんじゃねえ。キクノさんをババアと呼ぶのは止めろリョウの顔が怖い、怖いから止めろ収拾がつかなくなるから止めろ!
そんなこんなで手分けしてじゃ済まなくなってまとまって対処に行って気がついたら日付が回る事もあった。
そうやって体を使う仕事ばかりをしていると疎かになる仕事がある。そう、事務だデスクワークだ。つまりシンオウリーグ四天王とチャンピオンは今途轍もなく書類が溜まっているのだ!
しかし書類が溜まっていても挑戦者が待ってくれる訳ではない。空いた時間や持ち帰り自宅でこなすがそれでも書類は何故か絶対数から減らない。
書類が溜まる、
書類が溜まる、
書類が溜まる、
しかも月末に書類が増えた、挑戦者が一番少ないゴヨウが先に数を減らしていて手伝ってくれるがそれでも書類が終わらない。特に一番手のリョウが悲惨な程進まず手の空いた時間でリョウの手伝いをして、シロナさんはカンヅメにしないと書類をしないから四人ローテーションを組んで毎日見張って書類をやらせた。
そんなのがどれだけ続いてるんだろう、バトルは手を抜けないし集中を切らせる訳にもいかない。何処となくこの事態の前よりもピリピリと張りつめた緊張感の様な緊張感の漂うリーグは書類の山は五人の余裕と神経を削り落していく。
忙しい、休憩室の椅子に腰を下ろし一つ、溜め息を吐けばその溜め息と共に体のこわばりが一瞬だけ抜けそれの反動の様に疲れと倦怠感が頭の先から爪先まで駆け下り圧し掛かってくる。仕事中何度かかかってくるメールや着信を確認するのもやっとでなかなかそれに返信する気力が涌かない、しかも相手がデンジやバクだったりすると気心知れた仲だからか返信が遅れる事も増えてきて……こんなんじゃ駄目だ、四天王なんだからしっかりしねーと。そもそも四天王以前に親しき仲にも礼儀ありって言うじゃねーか駄目だ、察してじゃ駄目だろーが。
圧し掛かる疲労を振り払う様に頭を左右に振り、頭を振る度デンジやリョウにモフモフモフと、効果音を付けられる赤いアフロを揺らしながらポケギアを手に取り画面を覗く。連絡を寄越してきていたのは想像通りバクとデンジで、それぞれあまり根を詰めるなよとか今度一緒に飯でもと言う何時も通りの誘いであり気遣いのメールであまりのタイミングの良さに顔は綻び、労いのこもったメッセージに目尻に滴が滲んでくる。こんなんで泣いてちゃ笑われちまうと乱暴に目尻を拭い、手早く返信をし終えた時リョウに出番ですよと声をかけられオーバはポケットにポケギアを押し込むと休憩室の椅子から腰を上げ自分の間に向かった。押し進む体は足は疲れていたがメールを確認する前より軽く心も明るかった。
そんな毎日が疾風の様に過ぎていく中、始まりがあれば終わりがあるのですよと物語を諳んじる様に何時ぞや口にしたゴヨウの言葉の通り、書類の山は徐々に縮み漸く1cmも無いくらいの高さになって五人でやっと減ったな!と溜め息を吐いて笑いあえるくらいになった。それが今日の昼の事だ、後持ち帰ってきた書類だけでこの地獄から完全に解放されるそう思うだけで足取りも軽くなるってもんだとオーバは頭の中で唱えながら口では違う雑談を交わし、机に買ってきた夕食の袋を置きながらそう言えばさと話を切り替える。

「そっちは無事か?なんか昼のニュースで海大荒れとか言ってたけど」
『ニュース?ああ、ナギサはまあ普通?波くらい?』
「波やばいだろ」
『余裕なくらいの波だから』
ナギサっつってもシティに直じゃないから何でも無かったと言われ漸く胸を撫で下ろしたオーバの溜め息に気付いたのか電話の向こうで心配し過ぎだと呆れた声が聞こえる。
「だって自然災害やばいだろ、しかも俺カンヅメで助けに行けない時だし」
『色々被ったもんな今回、仕方ねーだろ』
仕方が無い、確かにそうだ仕方が無い事だ。滅多に無い面倒事のオンパレード、それを片付けるのにかかった時間、行動の是非を問う事は今更可笑しいし仕方ないと言う言葉で全て片付ける事は出来る。でも……納得は出来なくてあーだこーだと言葉を続けようとするけれどどうにも空回りして出ていこうとしない。腐れ縁のダチだからよりも付き合ってる恋人同士としての心配と不安が忙しい日常の中でもオーバの頭の何処かにこびりついていた。それが今口から出ようとしているがあと一歩のところでその言葉は出ないし、切っ掛けはこの会話の中にあった筈だがつかみ損ねたのかもどかしくこもった声しか出ないオーバにデンジがまた呆れた声をだす。
『そんなに俺が心配なのかよオーバ』
「そ、そんなんじゃねーよ!でもお前がちゃんと飯食ってるのかとか寝てるのかとかそう言う心配はしてるぜ!?お前俺が行かない間ちゃんとしてたのかよお前すぐ生活を疎かにするからなー」
お前は俺のかーちゃんかよ、これも何時ものやりとりも忙しさに追われる前迄日常だったのを思い出したら懐かしさにも似たものがこみ上げてくる。恋人同士になっても日頃の掛け合いやじゃれ合いは全く変わり映えしなかった自分達のある意味ドライな加減に安心もし不安にもなったある日の事を連鎖反応の様に思い出し、労いの言葉一つもくれやと催促してやろうかと口を開こうとした矢先デンジの戯言が先に飛び出した。
『可愛いなーオーバは。チューしてやろうか?』
「ばっか、何言ってんだよお前」
『何チューだけじゃ足りない?我儘はボディだけにしてくれ、メロメロにされちまうじゃねーか』
「酔ってる?お前酔ってる?」
まるで酔っ払いの様なデンジの笑い声と言葉にオーバは不安や不満よりも眉間の皺が深くなっていく。図星なんだよ、けどそれをからかわれるのは何となく嫌で話を誤魔化すのに頭を回していたオーバは気付かなかった、デンジの声がポケギア越しとは言え妙に近い事に。そして許してしまった、
『オーバ』
「あんだよ」
『あのな』
ポケギアと耳に直の囁きと言う両耳ダブルサウンドを夜遅くにやらかされると言うある種のホラーを!

俺は酔ってはいないが今……お前の後ろにはいる。

「ぎゃーーーー!どうやって入ってきた!?」
『俺デンジ、今ね貴方の後ろにいるの』
「いい加減通話を切れ馬鹿野郎っ!!」
怖いだろうが怖いだろうが!口が裂けてもこの年でお化けが怖いとか言えないけれど怖かっただろうが!涙目を誤魔化しながらアホボケ離れろとまるで子供の様にがなるオーバをデンジはポケギアの通話を切りながらやんわりと抱き止め、名前を呼んだ。おーばーぁああーと、まるで間延びした音はそれでも愛しい想いが募り熱を帯びている。
「会いたかったオーバ」
足下にまとわりつく猫の様にオーバに触れ背に腕を回し首筋に顔を埋めるデンジの鼻先が、しゃらりと幽かな音を立てる髪がくすぐったくてオーバは首を竦めながらデンジのスキンシップに悶え抵抗しようとするがそんなのお構いなしにデンジはオーバを無理繰り腕の中に閉じ込める。
「ちょ、おまえ、もうっ」
オクタンの様に食いついて放さないデンジにオーバは早々に抵抗を諦めた。こうなったデンジはしつこいから好きな様にさせておくに限ると長い付き合いで学んでいるオーバは好きな様にされるが儘に抱き締められ擦りつか撫でられている。
「よく頑張りましたね〜」
「なまら恥ずかしいわやめえ」
「照れるな俺のが恥ずかしいわ」
なんだよそれ、とくすぐったい様な少し上擦った様なオーバの声が耳の上から聞こえる。顔を埋めた所からオーバの香水の残り香がふ、と香りそれにつられる様に視線だけを上げたデンジはオーバが今更ながらとても愛おしいくて可愛いと思った。
こんなに近くに腕の中にオーバがいるのは久しぶりだ、見上げた顔は疲労からか何時もの鬱陶しいくらいの暑苦しさも溌剌とした態度も気配も何処か薄く、日頃あまり感じる事の無い気だるげな眠気を感じさせる眼差しを俺に向けていた。ああ、眠たいんだろう。無意識にチマリにしてやる様小さかった頃のバクにしてやった様にゆらゆらと腕の中の体を揺すり、あやし、抱いた背中を静かに拍子をとる様にポン、ポンと叩く。まるで幼子を寝かしつけるような動作にガキじゃねーぞと言いつつも押しのけたり抵抗する素振りはなくオーバは僅かずつ体重を預けてくる。久方ぶりのオーバの重みが腕に体にかかる、それすら愛おしさに変換されていくのか胸の中がふわふわとした暖かい何かに満ちていく。その満ち足りた胸中と感情の儘に一番に言いたかった言葉が漸くデンジの口から零れた。
「お疲れ様オーバ」
その言葉に到頭気が抜けたのか背中に腕が回り肩に額が押し付けられ、鼻を頬をふわふわの髪が掠めていく。ボリュームのある髪に顔が埋まらない様に首を傾げながらよしよしと背中を撫でていると溜め息を吐くみたいにオーバは一言、疲れたなあ……とデンジにすりついた。
「俺すっげえがんばった」
「うん」
ホウエンは楽しかったけどやっぱ疲れたし他のも全然終わんないし、お前にもバクにもメールとか電話もちゃんと出来ねーし、書類は怠けてえねーのに毎日毎日ちょっとずつ増えてくしみんなで手分けしても全然片付かないしシロナさんは脱走しようとするしリョウが一番悲惨で、俺も字間違えて何回も書き直したりとか色々あってさ……
ぽつりぽつりと零れる言葉と共に鎖骨の辺りがオーバの吐息で暖かく湿っていく、聞けば聞く程色々な事が重なり溜まり時間を失っていったんだなと考えながら拍子を打つから撫でるに手の動きは変わり広い背中を往復していく。元々高めの体温が疲労と眠気からだろう更に少し高い気がする、まるでチマリみたいだなんて失礼な事を考え含み笑いをしているとオーバが俯いたまま何かを囁いている。
「ん?」
「……デンジ」
「ん?」
聞き取れなかったそれをもう一度催促するみたいに、ん?と訊ねるとちらりと灰色の瞳が見上げてきて、まるで秘め事を打ち明けるみたいな密やかさでデンジの胸の中を焼きにかかった。

「……俺もあいたかった」
「ん……」
額を擦りつけながらまるでポケモンみたいに甘えてくるオーバに平静を保とうとしてるが、デンジの胸の中は頭の中はもう愛しさで焼け焦げてしまいそうで堪らない。その熱と炎は耐え難い感情の高まりをデンジに訴え押し付け怒涛の勢いで流し込んでくる、それに喘ぎ溺れ焼け焦げて飲まれてしまいそうだもういい飲まれちまえと言わんばかりにデンジはオーバをがむしゃらに、力いっぱい抱き締めてオーバを褒めそやし慰め言祝ぎ、デンジの口付けが雨のように降り注いで、二人きりの世界の中で夜は更けていく。

明日が休みになればいいのに。どちらからともなく甘えた声が零れて何処かに消えていった。






15/12/12

大変お待たせしましたリクエストの恋人同士でオーバを甘やかすデンジでした。





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