三原色(オーバ←ゴウカザル+デンジ)


四天王とジムリーダーの休みが被るなんて言うのは有りそうでなかなか無い。そんなレアな休みに前日から俺の家に泊まりに来ているオーバは今、外見より大分大人しく慎ましい寝息を立てて俺の横で眠っている。
別に布団が無い訳でもべろんべろんに酔っていた訳でもない、一つの布団で枕を並べて眠っても可笑しくない関係なのだ。体の関係はまだないが何時そうなっても可笑しくない程度にはお互い進んできているところでああ、何時か全部繋がれるんじゃないかなと言う漠然とした期待と未来を脳裏に描いていた。
だがしかし、世の中画餅が実物になる事はなかなかないもので。

「んぅ」
もぞりと赤ん坊みたいに丸まり寝返りを打つオーバの姿が何故だかとても愛らしく可愛くて、デンジは腕の中に引き入れると耳元でオーバの名前を囁く。
「オーバ」
「……デン ジ?」
そうだよ、お前の愛しの人ナギサのスターのデンジさんだぜ、お目覚めかい俺の子猫ちゃん。今までの彼女にすら一度も言った事無いダサい様なくさい様なこっ恥ずかしい台詞を耳元で囁きながら額に目尻に頬に鼻にと順々に唇を落としていけばくすぐってえよ馬鹿。とくすくす笑いながら俺の愛しい赤アフロの男はまどろみデンジの鎖骨に額を擦りつけてくる。デンジも擦りつけられる額基いアフロがくすぐったくてくすくすと忍び笑いをしながら更にオーバを抱きすくめ様としたその時――
突如デンジの腹に重量と衝撃が走る!
ぐえっと踏まれたグレッグルの様な声がナギサのスターの口から漏れると同時に、デンジとオーバの間に無理矢理と顔を挟みこみデンジの代わりにオーバの鎖骨に額を押し付けて鼻にかかる甘えた声を出しているのは……互い見慣れた存在だ。
「なんだゴウカザル、腹でも減ったのか?だよな〜昨日はお前も忙しかったもんな〜お疲れさん」
しょうがねーな〜
そう言いながらすっかり目を覚ましたオーバはベッドから体を起こすとデンジを跨ぎさっさとビングへと消えていく……その際ゴウカザルが一瞬振り向きデンジに向かってべろり、と舌を出してすぐさまオーバの顔を見つめ直し扉が軽い音を立てて閉められた……と言った一連の流れは今更取り立てて騒ぐ程度の事ではない。こんなのもうオーバとの腐れ縁と同じくらいの長きに渡って行われている事なのだ。

解ってる、解ってるんだぜ。オーバのゴウカザルがわざと俺を邪魔してる事くらいとっくの昔から解っている事さ!
俺とゴウカザルの因縁はゴウカザルがまだヒコザル俺が鼻たらしたクソガキ、オーバの頭がまだ綿毛みたいな小さなアフロの頃から続いている。因みにその頃のライチュウはピチューで愛らしさ全開だった。
初めての手持ちのポケモンとあってかオーバとヒコザルはまるで兄弟みたいに一緒に駆け回り一緒に風呂に入り一緒に寝る、まさに四六時中一緒にいた。その風景には勿論俺もいたのだが何時の頃からか威嚇をされたり明らかな敵意を向けられたりする様になって最初は訳が解らなくて、オーバにヒコザル機嫌が悪いみたいだぞと言うとけろっとしてオーバに懐く。その繰り返しで気付いたのは、ヒコザルが俺に意図的に威嚇や悪戯や意地悪をしてきていると言う事だっだ。まさかマブダチのポケモンに意地悪をされるとは思わずガキだった頃の俺は大分悩んだ。今ならそれが嫉妬や独占欲からくる行動だと理解出来るが、ポケモンを貰いたてのガキにそんな細かい事が解る訳が無い。
意地悪や敵意と言っても本気で攻撃してきた事はないから酷い怪我はした事が無いが悉く一緒にいるタイミングを奪われ続けそれが今の今。今日まで続いてきた。途中までは均衡していたお互いの牽制は、オーバが勝手に旅に出た事によって崩され一時期俺の分が悪くなったがオーバとの距離を縮め恋人になってからはまた盛り返したつもりだったがなかなか素直に俺が勝利宣言出来る訳じゃない。しかしそれで諦めるほど柔じゃない、どれだけの年数片思いに耐えて来たと思ってるんだ。それに比べたらポケモンとの小競り合いなんて生温いもんだぜ!
やっ、とベッドから跳ね起きたデンジはこの程度じゃめげねーからなクソザルが、と口汚い言葉を胸の中で毒づきながらオーバの後を追う様に寝室を後にした。

「昨日はみんな大変だったからな、たくさん食べろよー」
洗面台で用を済ませリビングの扉を開ければ、ポケモンセンターに預けずに連れ帰ってきた数匹のポケモンにフードを与えながらオーバがばりばりと無防備に腹を掻いている。オーバ、お前の存外に白い腹……大好きだぜ。
等とデンジが疾しい視線を注いでいるとはつゆ知らず、お早うデンジと挨拶をしながらライチュウ達も出てきたから先にあげておいたぞと一声かけてくる。その言葉の通りデンジの手持ちもオーバの手持ちも仲良く朝食を口にしているので、ん、あんがとと軽く礼を言いながらデンジは眠たくない目をこすりつつオーバに凭れかかりすり寄る。ゴウカザルがこちらを睨んできた気がするがそこは見えないフリをする。
「デンジ、まだ眠たいのかよ」
「昨日の誰かさんの所為で寝不足なんだよ」
「俺だってあの映画があんなに怖いと思わなかったよ!」
だからと言って布団に俺を引きずり込んで自分が寝るまで話に付き合わせる程お前が怖がりだったなんて、俺は知らなかったよオーバ。欠伸を噛み殺す様に俯き忍び笑えば、多分顔まで赤くして起こってるだろうオーバの怒鳴り声が聞こえてくる。だが申し訳ない程に全く怖くない、それどころか明け方近く迄のベッドの中での顛末を思い出す始末なので笑い声を洩らさない様に腹に力を籠めるがオーバが何か言う度笑いはこみ上げてくる。
勿論こんな些細なやりとりの最中にもゴウカザルの見せつけアピールが毎度あるのだか、食事中に行儀悪くすると仲間はおろか俺の手持ちからも叱られる為あまり派手な動きはしない。どうだ、悔しいか?なんてガキみたいな事を考えながらまだ怒ってるオーバを宥めすかして自分達の朝食を用意する為にリビングを後にした。

そこから昼頃俺達はいたってのんびり過ごしていた。当たり前で邪魔は入るがそれくらいいなせない様ではジムリーダー失格だし、そもそもトレーナーとしての資質を疑われてしまう気がするししかも今日は互い書類を持って帰ってきていたので、朝食後に二人で頭を突き合わせながら書類をでかしその後俺は頭の中にあるメカの設計図をメモに書き出し、その間オーバは俺が録り溜めたドラマやバラエティーをポケモン達と見て過ごしていた。メモに書きつけたアイディアを見つめ反芻を繰り返していた俺が顔をあげ時計を見ると、長短両方の針が天井を指しそうな時間になっていたのでそろそろ昼飯でも食おうか?とどちらからともなく口にしようとしたその時、本日数度目の嵐は突如巻き起こる訳で。
おもむろにゴウカザルがソファーに腰掛けるオーバの太腿に顎を乗せ心細そうな、細い声を上げ始めた。聞き様によっては弱った時の鳴き声に聞こえなくもないがとても大目に見て聞けばそう聞こえるだけであって、正直に言えば滅茶苦茶嘘くさい。普通の熟練したトレーナーなら絶対騙されない。騙されない筈なんだが相手は良くも悪くも素直で激しく燃える心を持つ四天王のオーバ、自分の手持ちを大切にしすぎる男オーバなのだ。騙されない訳がないのだ。

「ん?どうしたゴウカザル、ぐったりして。具合でも悪いのか?」
主にそう言われ益々調子に乗って下手くそな演技に拍車をかけてオーバの太腿にすりつくゴウカザルだが、そのしぐさや態度に向けられるのは結構冷たい仲間や俺の手持ちの視線である。
俺の手持ち達もオーバの他の手持ちもゴウカザルの行動には呆れているらしく、何時の頃からかゴウカザルのしつこい動きやアピールをさりげなくガードしてくれる事もしばしばだ。経過年数分の慣れもあるし周りのサポートもあるから、ゴウカザルの甘えん坊手持ちポケモンアピールにオーバを取られっぱなし現象(数年前に俺が名づけた)への対抗策や打開策を練り実行するのは、実は死ぬほどは大変じゃない。唯機会を窺い、掴むのが大変なだけなのだがどうやら今日はその機械を使う事が出来る日なのかもしれない。
「んー、特に熱もないみたいだけど……ポケセン連れてった方いいかな?」
ああ、ポケモントレーナーとしては正しい対応。自分のポケモンへの掛け値無い愛情と気遣い正に模範的な行動と対応に、スクールの生徒達を呼び集めご覧これがトレーナーの鑑だよと見せ付けて褒めちぎってやりたいくらいの立派な行いだ。だが馬鹿だ、ポケモンの演技に気付けない様では馬鹿だ。
そして恋人としては間違っている、お前は間違いだらけだぜオーバ!そしてその間違いに何時までも気付かないお前にこの優しいデンジさんが教えてやるぜ、感謝しろ!等と漫画の開設役キャラみたいな説明を脳内でオーバに向かって叩きつけながら、現実的にはデンジの口からは穏やかな何時も通りの調子の声が出ていく。
「珍しいな、お前のゴウカザル風邪もあんまひかないだろ?」
「うんマジでさ。デンジー体温計あるか?」
「ある、漢方薬もあるから飲ませてみたらどうだ?」
マジで?お前準備すっげえいいな。今持ってくるから捕まえとけよオーバ。主とその腐れ縁兼、牽制相手の会話が自分にとってはよからぬものだと言う気配と空気を察したゴウカザルが、しゅっとオーバの腕の中から逃げ出したころを絶妙なタイミングでライチュウが飛び上りゴウカザルに抱きつき着地するとそのままゴロゴロと転がりながらドアをぶち破り部屋を後にしていった。一瞬目が合ったライチュウの目は後は任せろと言っていて――ライチュウありがとう、ありがとう俺のライチュウ!愛してるぜライチュウ!!ライチュウウウウウウウウウウ!!!!
脳内でガッツポーズを取りながらライチュウを褒め称え感謝の咆哮をあげるデンジはドアを直しながら、あっという間だった二匹の動きに呆然としているオーバに自分勝手な見解をさも二匹の心を代弁したかの様に告げた。
「遊びたかっただけみたいだな」
「なんだ、変な鳴き声出すから具合悪いのかと思ったぜ」
「気ぃ引きたいとき変な声ださね?」
出してる出してる、あいつ甘えん坊なんだなやっぱり。なんて今更の事実を自覚し始めたもんだからゴウカザルを贔屓扱いすんなよと一応の、何度目か解らない釘を刺しておくが俺がいつゴウカザルを贔屓した、俺は何時でも全員を贔屓してるぜ!と想像通りの的外れな返事をくれるのでデンジは軽く話を流すとオーバの隣にゆっくりと腰掛け、デンジの動きを視線で追うオーバの頬に軽くキスをした。一瞬触れ、一瞬で離れていくデンジの顔をいまだに追っていたオーバの視線は今自分に起こった事を考える様に天井を舐めデンジの方へ戻っていき――露骨に視線を外しながら口ごもった。
「で、デンジ?な、なななにすんの?」
「え?キス?」
「いやした事じゃねーよ、そういう意味じゃねーよデンジ君」
「別に良いだろ?今更嫌がる間じゃねーだろ?」
「だからってこっここは駄目だろっ!」
「何で?」
「だ、だってポケモンが」
「いねーよ、ライチュウ玄関までぶち破って遊びに行ったぜ?俺のライチュウ砲弾なめちゃいけねーぜオーバ」
「なめた事はないけど玄関まで!?さっきの音ってそれ?!」
明日でも業者呼ばなきゃなと応急処置を済ませるしか出来なかった玄関の有様を思い出しながら、デンジはソファーの隅に逃げようともぞもぞ尻を動かしているオーバを捕まえると耳元で態とらしくゆっくり囁く。
「オーバ、いちゃいちゃしよーぜ?」
鈍い鈍いとさんざん周囲に言われ続けているオーバにすら解るように囁かれたその言葉にこめられたものを意図を汲みあげたオーバは、デンジの囁きを受けた耳からじわりと赤色を滲ませたかと思うとあっと言う間に顔中を真っ赤に染めてあーだこーだと言い訳をする。明るいから、俺は男だまだ早い、今日は平日だ?と全く訳の解らない言い訳を連呼して、それをデンジが次々と撃ち落としていく中ついにオーバは手持ちのポケモンを言い訳の種にし始めた。
「ゴウカザル達に見られたらどーすんだ!」
「暫く帰ってこねーよ!それにライチュウは呼び鈴を押せてノックが出来るライチュウだ、突然入ったりして来る事はない!」
「で、でも帰ってきたらやばいだろーが!教育に悪い!」
そこ申しなおも言い募ろうとしたオーバがふ、と気配を変えた空気に違和感を覚えガードしていた腕をそろそろと下してデンジを見ると、そこにはきわめて残念そうな顔をしてオーバを見下ろすデンジの顔があった。おい、なんだその顔はデンジさん?何その有り得ないものを見下ろす眼は?オーバが口を開く前にオーバの言わんとしている事を知ってか知らずか、デンジはたっぷり息を吸い込んで大袈裟に深く大きな溜め息を吐くと肩を落としながら
「…………お前、やっぱ馬鹿だろ」
とオーバに言い放った。
は?何言ってんだお前?疑問形ならぬ言いきりで言われた、今まで何十回ももしかしたら百回以上言われてきた言葉を今更言われてなんのこっちゃと羞恥心の最中に混ぜ込まれた言葉にオーバが首を傾げていると、デンジは益々残念そうに頭を左右に振りながら心の内を零していく。
「すごく久し振りに一緒にいれるって昨日話してたのに、何時も一緒にいるポケモンと俺を天秤に掛けるんだなお前は」
しかも俺の方を浮かしやがった。有り得ねーよとオーバのぺったんこな胸にデンジが顔を押し付け唸れば、何でそこに着地するのか嫉妬したのか?なんて空気を読まずにオーバが口さがなく言うものだから、デンジが内股を思いっきり抓ってやればオーバはでかくて色気の無い悲鳴を上げる。
「ごめんごめんごめんなさいごめんなさい!」
「ワザとか?ワザとやってんのか?」
「いやいやいやいや、よく解らないですごめんなさい痛い痛い痛い痛いっての!!」
暴れもがくオーバの内股を抓るのをやめたデンジは今度はきつくきつくオーバを抱きしめ、まるで恨み節を垂れ流してく。
「お前の照れ隠しだとは解ってる、でもそこまで拒まれると俺だって凹むし苛々する。しかもここまでやられたら正直凹む」
なんなんだよ、俺お前の何なの?もーやだ、でも好きなんだって俺に何回言わせれば気が済むの?ぐりぐりと額を鎖骨に押し付けて駄々をこねる様に畳かけていくと頭の上からあーだのうーだのと何か言い訳を考えようとしてい声がするがそうはさせないしさせられない。
「俺とはいちゃいちゃしてくんねーの?俺の大好きなオーバ」
そこまで口に出すとぴたり、と呻き声はやみとくん、と鼓動が跳ねる。そうだ、跳ねてくれなきゃ困る。俺だって跳ねてんだお前も跳ねろドキドキしろ緊張しろよ、ポケモンと一緒にいても感じない胸の高鳴りを俺に抱けよオーバ。
ちらりと見上げた先のオーバはまた視線をちらりちらりとあっちへやったりこっちへやったりと忙しなかったが暫くしてから覚悟を決めたのか考えるのが面倒になったのか、何時もの一言を俺の放り投げて寄越した。

しょーがねーなー、そこまで言うんならオーバさんお断り出来ねーじゃねーかよ〜。
それがオーバの精いっぱいの強がりだとも知っているので、デンジはオーバから出たOKサイン見逃さずオーバを抱き締める腕に益々の力を込めていく。

こんな駆け引きとも言えない馬鹿なやり取りの中頭の中で大人げないと誰かが呟くが大人気ない?上等だぜ、大人の対応して恋人盗られてたら俺として情けねーよ。小賢しい人間の知恵総動員して言葉を重ねて、なにどうやっても出し抜いてやる。

お前には絶対やんねーよ、

この場にいない恋人の一番の相棒に今日はやってやったぜと頭の中で舌を出して小馬鹿にしてやりながら、デンジはオーバにのめり込んでいった。






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